「すごく意地悪な表情」万引きGメンが明かした“万引きがバレる人の共通点” から続く
急増する「高齢者の万引き」に、Gメンたちはどう対応しているのか? 犯対策のプロフェッショナルである日南休実氏が「万引き老人」の実態を解説。新刊『万引きGメンの憂鬱』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
【画像あり】万引きをする人は「表情」でわかる
時には逆ギレ、時にはボケたふりも…「万引き老人」のリアルをお届け。写真はイメージです getty
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今、日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入しています。単純に世の中の高齢者人口が増えているので、高齢者の万引き割合が増えているのは当たり前のように思えるかもしれません。しかし現実には、みなさんが想像する以上に高齢者の万引きが急増しているのが実態です。
かつて万引きといえば、若者がやるものというイメージでした。不良たちが遊び半分でお菓子や文房具をくすねるというのが相場でした。しかし今は高齢者の万引きが多いのです。しかも彼らのやり方は、若者たちが短絡的で、その場限りのものであるのに比べ、悪質でタチの悪いものの比率が高くなっています。
若者の万引き犯の場合は商品をパッと取った瞬間、それを走って追いかけて捕まえれば即解決というパターンがほとんどでした。しかし高齢者の場合は「取っていない!」とトボけてみたり、さらに認知症のフリをしてみたり……。
一体どんなふうにタチが悪いのか? イメージがしやすいよう、いくつか具体例を挙げていきましょう。
【事件A:盗品はサラダ油・中瓶1本】(GメンBの場合)
あるスーパーから、どうも怪しいおばあさんがいるのでマークしてほしいという依頼が入りました。私はその店に張り付き、何日かおばあさんの様子を観察しました。
ある日、おばあさんは店内で買い物をして、会計を済ませた後、店の買い物袋を抱えたまま、もう一度店の中を歩いていました。そしてとあるコーナーの前で立ち止まると、きょろきょろとあたりを見回し、サラダ油の中瓶1本をそっと買い物袋の中に入れました。
現認もして、袋の中に商品が入っていることも確認して、店の外に出たところで私はそのおばあさんに声を掛けました。その時まず、おばあさんは「え?」という、トボけた顔をしてこちらを見ました。最初からしらばっくれる気まんまんです(笑)。
さらに買い物袋を指して「これ、わかるでしょ」と指摘すると、いけしゃあしゃあと「あ、こりゃ返さんといけんわぁ。どうしてこんなところに入っとるんじゃろ?」とうっかり間違ったフリをして、のらりくらりと話をそらし、何を聞いても要領を得ませんでした。最終的には土下座までしていましたが、現場に警察官が駆け付けて、ようやく諦めたようでした。
基本的に万引き犯に声を掛けると、10人中9人は最初否認します。「え、どういうことですか?」「知りませんよ」とシラを切ってごまかそうとします。しかし裏の部屋に連れていかれて、もう言い逃れできないとわかると、今度は態度が豹変します。
ある種の老人は逆ギレします。「カネを払えばいいんだろう!」「わしが謝ればいいんだろう!」と開き直り、怒りを爆発させます。またある種の老人は「お金は払うから許してください……どうか警察には言わないで……」と涙ながらに懇願し、泣き落としで懐柔しようとしてきます。どちらも罪を犯した後でもお金を払えば許されると思っているところに事件の悪質さが見て取れます。
現実の社会では、もちろんそれで許されることはありません。どちらのケースも店長の判断の下、最終的には警察に引き渡されることになります。
高齢者の万引きはおじいさん、おばあさん、両方とも多いですが、多少おばあさんの方が多いという印象です。やはり普段からスーパーに行く機会が多いのは女性なので、その過程で悪魔の誘惑が頭をもたげるのでしょう。
ただし相手がおばあさんだからといって、ナメてかかってはいけません。中には火事場の馬鹿力ではないですが、ものすごい抵抗を見せるおばあちゃんもいます。【事件B:老婆の火事場の馬鹿力】(GメンCの場合) ある時私はスーパーの商品を自分のバッグに入れたおばあちゃんを発見し、店を出たところで声掛けを行いました。その商品を確認しようとバッグに手を触れると、おばあちゃんはものすごい勢いでバッグを引っ張り返してきました。 “証拠”が見つかってはたまらないと抵抗するおばあちゃん、そのまま逃げられたらこっちもたまらない万引きGメン……私たちはひとつのバッグをめぐって取っ組み合いをしているような格好になりました。 この時私は「これではまわりの人たちに、私がおばあちゃんからバッグをひったくってるように見えてしまう!」と非常に焦りました(笑)。しかし「この人、万引き犯なんです!」と叫んでしまうと、彼女のプライバシーをさらしてしまうことになるのでそれはできません……。 結局野次馬が集まる中、警備員を呼んでもらうことで私はその場を収めました。その時思ったのは「ギリギリまで追い詰められたら、老婆でもすごい力が出るんだな……」ということ。実際その時のバッグを引っ張る力は、やせ細った老婆の姿からはとても想像できないものでした。万引き老人に見た「社会の闇」 正直、年配の方の万引きは非常に後味が悪いものです。もちろん罪にいい悪いもないのですが、若い人の万引きはまだその先に救いがある場合が少なくありません。人生の出発点付近での過ちは、その後いくらでも取り返すことができます。若気の至りと呼ばれるようなケースもあるでしょうし、むしろそれをきっかけに立ち直る場合もあるでしょう。 しかし老人の犯罪というのは、いわば人生の最終地点での過ちです。その後、取り返すことが難しいことはもちろん、悲喜こもごもの人生の果てに流れ着いたのが万引き(しかも堂々とシラを切ったり開き直ったり、悪態をつく)という事実は、考えただけでやるせないものがあります。 さらにやるせないのは、老人の万引きの背景には大きな問題が隠されているケースが少なくないことです。犯罪に至るには、それ相応の理由があります。たとえば貧困の問題、孤独の問題、精神疾患の問題、生きがいの喪失の問題、家族崩壊の問題、社会コミュニティの消失の問題……老人の万引きの背後には、こうした膨大な社会問題が影を落としていて、それが私たちをさらにやり切れない気持ちにさせます。(日南休 実)
ただし相手がおばあさんだからといって、ナメてかかってはいけません。中には火事場の馬鹿力ではないですが、ものすごい抵抗を見せるおばあちゃんもいます。
【事件B:老婆の火事場の馬鹿力】(GメンCの場合)
ある時私はスーパーの商品を自分のバッグに入れたおばあちゃんを発見し、店を出たところで声掛けを行いました。その商品を確認しようとバッグに手を触れると、おばあちゃんはものすごい勢いでバッグを引っ張り返してきました。
“証拠”が見つかってはたまらないと抵抗するおばあちゃん、そのまま逃げられたらこっちもたまらない万引きGメン……私たちはひとつのバッグをめぐって取っ組み合いをしているような格好になりました。
この時私は「これではまわりの人たちに、私がおばあちゃんからバッグをひったくってるように見えてしまう!」と非常に焦りました(笑)。しかし「この人、万引き犯なんです!」と叫んでしまうと、彼女のプライバシーをさらしてしまうことになるのでそれはできません……。
結局野次馬が集まる中、警備員を呼んでもらうことで私はその場を収めました。その時思ったのは「ギリギリまで追い詰められたら、老婆でもすごい力が出るんだな……」ということ。実際その時のバッグを引っ張る力は、やせ細った老婆の姿からはとても想像できないものでした。
正直、年配の方の万引きは非常に後味が悪いものです。もちろん罪にいい悪いもないのですが、若い人の万引きはまだその先に救いがある場合が少なくありません。人生の出発点付近での過ちは、その後いくらでも取り返すことができます。若気の至りと呼ばれるようなケースもあるでしょうし、むしろそれをきっかけに立ち直る場合もあるでしょう。
しかし老人の犯罪というのは、いわば人生の最終地点での過ちです。その後、取り返すことが難しいことはもちろん、悲喜こもごもの人生の果てに流れ着いたのが万引き(しかも堂々とシラを切ったり開き直ったり、悪態をつく)という事実は、考えただけでやるせないものがあります。
さらにやるせないのは、老人の万引きの背景には大きな問題が隠されているケースが少なくないことです。犯罪に至るには、それ相応の理由があります。たとえば貧困の問題、孤独の問題、精神疾患の問題、生きがいの喪失の問題、家族崩壊の問題、社会コミュニティの消失の問題……老人の万引きの背後には、こうした膨大な社会問題が影を落としていて、それが私たちをさらにやり切れない気持ちにさせます。
(日南休 実)