15日午前5時半頃、福岡市博多区冷泉町の県道で、伝統の夏祭り「博多祇園山笠」に舁(か)き手(担ぎ手)として参加していた同区千代3、秋吉敏実さん(57)が、「舁き山笠(やま)」と呼ばれる山車にひかれ、搬送先の病院で死亡が確認された。
博多祇園山笠振興会は「祭りの参加者が死亡した過去の事例は把握していない」としており、初の死亡事故とみられる。
この日はコロナ禍の影響で4年ぶりに通常開催されていた祭りの最終日で、「流(ながれ)」と呼ばれる七つの自治組織が、重さ約1トンの舁き山笠を担いで約5キロを駆け抜ける「追い山笠」が行われていた。
福岡県警博多署や振興会などによると、秋吉さんは流の一つ・千代流に所属する舁き手の一人。櫛田神社に山笠を奉納する「櫛田入り」を終えた後に舁き手に加わり、神社から約400メートルの地点付近で、何らかの原因で転倒し、山笠の土台「山笠台」の底の部分に巻き込まれたとみられる。死因は、胸を強く打ったことなどによる出血性ショックだった。
山笠の前方を担っていたといい、交差点のカーブにさしかかる手前付近で山笠にひかれたという。千代流ではこの数分前、山笠が前方に傾き、山笠に乗る「台上がり」を務めた2人が落下し、負傷者が出ていた。
同署は参加者から話を聞くなどし、事故が起きた経緯や原因を調べている。
死亡事故を受け、振興会は緊急の常任委員会を開催し、各流に対し、安全な奉納を徹底するよう周知した。武田忠也会長(67)は「残念の一言だ」と声を振り絞って語り、振興会顧問で千代流の豊田侃也さん(78)は「言葉で言い表せない衝撃で、残念でならない。情報を収集、検証し、会議を重ねながら対策を取りたい」と話した。
千代流の山笠は、18日から福岡県庁1階ロビーで展示される予定だったが、死亡事故を受けて中止された。
■780年の歴史、ユネスコの無形文化遺産
博多祇園山笠は約780年の歴史があり、全国33の「山・鉾(ほこ)・屋台行事」の一つとして、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている。豪華な人形が飾り付けられた高さ10メートルほどの「飾り山笠」と、担いで走る「舁き山笠」がある。
舁き山笠を担いで博多の中心部を疾走してタイムを競う「追い山笠」は最大の見せ場で、数十人の男たちが交代しながら担ぐ。期間中の舁き山笠行事では、過去にも、参加者が骨折するといった負傷事故が起きたことがあるという。
山車を巡る死亡事故は他の祭りでも起きており、安全対策が課題となっている。