いつか必ず死を迎えると分かっていても、近しい家族を見送るのは辛く悲しいものです。
だからこそ、故人を見送る「お葬式」は個人に思いを寄せたいものですが、日高恵子さん(仮名・42歳)は「あるハプニング」のせいで、悲しみどころではなかったと言います。
いったい、なにが?
◆抜け殻状態の母の代わりに、葬式を手配
「もともと身体が弱かった父は、肺や心臓が弱く、入退院を繰り返していました。実家は田舎でしたが、わたしは都内で一人暮らしをして仕事をしていたので、看病は母に任せきり。ですが、いよいよ危ないとの連絡を受け急いで帰省したその日に父は亡くなりました」
母は呆然として、お葬式の手配などできない状態。
仕方なくひとり娘だった日高さんがすべての葬儀を取り仕切ることになったそうです。
その中で、積極的に動いてくれたのが、両親が経営する店を手伝ってくれていたSさんという人。ただ、このSさんが後々、ハプニングの火種となります。
◆両親を支えるSさんとは?
「当時、父は小さな商店を経営していました。そこで支えとなっていたのがSさん。父が入院して動けない間は、運転ができない母を店まで送り、1人で切り盛りする母と共に店を回してくれていたようです。
離れて暮らしていたので、詳しいことは分からなかったのですが、父は自分の死後も店の運営、母を支えてくれるよう、Sさんにお願いしていたようです」
Sさんは物静かな人でしたが、父亡き後の役所や事後処理などに加え、日高さん一家の運転手まで。
日高さんと母、そしてSさんの3人で家族葬のような形で、お通夜を執り行いました。
◆お通夜で気づく「異臭」
お通夜の中で、日高さんは、ある異変に気付きます。
「近くのお寺にお願いして、お通夜にお経をあげてもらっていました。それまでは、父が亡くなったショックよりも実際にお葬式の手配に追われて悲しむ暇さえなかったのですが、お通夜を迎えてやっと静かに父を見送れると思ったんです。でも、お通夜の最中、変なニオイがしてきて…」
お経に耳を傾けつつも「なんのニオイだろう」と気になって仕方がなくなってしまった日高さん。
なんともいえない納豆のような異臭が鼻をつき、お寺の住職なのか、それとも葬儀場の何かのニオイなのか、と気になり、お通夜どころではなかったのだとか。
◆異臭が気になったのは、自分だけではなかった
もともと鼻が敏感で、わずかなニオイも感じ取る日高さんでしたが、この異臭は自分だけが感じたのかと気になり、母に「今日のお通夜で変なニオイがしなかった?」と聞いてみたそうです。
すると母も「すごく変なにおいがしたよね!」と激しく同意。お通夜なのでその日は葬儀場に母と宿泊。お線香の火を絶やさないため夜も寝ずの番が必要だったのですが、ついついその「ニオイ」の話で母と深夜トークが盛り上がってしまったようです。
「すると、母が急に『もしかしたらSさんの足のニオイかもしれない』と言い出しました。Sさんは水虫持ちで、通気性が大事だからと仕事中は常にサンダル履きでいるそうなのです」
それを聞いて日高さんは、確かにあの酸っぱいニオイは「足のニオイ」と言われれば納得がいくかもしれないと思いました。翌日の葬儀でも、もし同じニオイがすれば、絶対にSさんの足のニオイだろうと予想していました。
◆お葬式当日、さらにパワフルなニオイにやられる
いざ葬儀当日、亡くなった父のことよりも「謎のニオイ」が本当にSさんの足のニオイなのかを確かめることに気持ちを持っていかれてしまった日高さん。
そのとき、やはり日高さんの鼻を強烈な刺激臭が襲いました。
昨日と同じく、やはり強烈に酸っぱいニオイ。
今日はSさんが前に正座していて、足の裏が日高さんの目の前。ニオイが日高さんの鼻を直撃し、昨日より強烈です。
◆ただただ「早く終わって」と祈るのみ
「せっかく葬儀に参列してくれたのに『足が臭い』なんて言えないし、もう耐えるしかないのですが…本葬のお経は特に長く、鼻で息をするのをこらえても、あのニオイを口から吸っていると思うと辛くなり『早く終わって!』と祈るばかりの地獄の時間でした」
もはや父への悲しみよりも、ダイレクトに直撃する異臭に気を取られてしまい、気づいたら葬儀が終わっていたのだとか。
「父のお葬式のことを思い出すたびに『あの異臭』も一緒に思い出してしまい、母とも『あのときのSさんの足のニオイはすごかったね』という笑い話になっています」
身近な人との別れは辛いけれど、いつかは訪れるもの。異臭騒ぎで気持ちが紛れて、逆にありがたかったのかもしれませんね。<文/塩辛いか乃>