「私は事故物件」…鳥取県知事と同姓同名で県議選初当選 直撃した「平井伸治」氏が語った過去と未来

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「選挙に行ってください。そして、私以外の誰かに投票してください」。
9日に投開票された鳥取県議選(定数35)で、無投票当選阻止のためこう主張し立候補した無所属新人の平井伸治氏(54)が初当選した。同日に行われた同知事選で5選を果たした全国知事会長(61)と同姓同名。しかし、県議当選の平井氏は、7年前に名前の表記を変えた改名「伸治」で、県議選には昨年12月に大阪から鳥取に転居して臨んでいた。
当選してよかったのか
「通る(当選する)とは思っていなかった。でも、当選してよかったのか。今は誹謗(ひぼう)中傷がひどく、とんでもない状況。ことの重大さをひしひしと感じる」
当選から10日ほどたち、平井氏は困惑を隠さない。
立候補したのは定数12に対し13人が立った鳥取市選挙区だった。3613票を獲得し12番目で当選した。落選した候補は鳥取市長を3期務めた元参院議員(71)で、平井氏は元参院議員の獲得票2975票を630票余り上回った。「ほかの候補への反発票、当選するのはだれでもよいという票、平井知事と間違えた票、そして自分の票」。後援会員約200人の平井氏は、その18倍にもなる自身の得票の内訳をこう推測した。
大阪市生まれで、本籍は奈良県生駒市。もともとの名前は、知事と同じ読みだが、1字違いの「平井伸知」だった。「7年前の改名当時、選挙に出ることなど考えていなかった」と平井氏は語る。
東京の私立大学を中退し、有名商社の関連会社を経て、大手旅行会社に勤務していた平成22年、顧客の会社から旅行代金積み立て名目で約7億円をだまし取ったとして、詐欺罪で懲役6年の判決を受け、服役した。これに絡んで、姓も名も変えた。
逮捕時には「家族に迷惑がかかる」として、親類と養子縁組し別の姓に。出所後、その姓を平井に戻し、さらに名前も「伸治」に改めた。平井氏は「小学3年生のとき、占いで『伸治』に変えたほうがよいといわれ、子供のころから日常は『伸治』を使っていた」。 正式に改名したことについては、刑期を終えて「就職するために必要だった」と明かした。
「間違いは200票程度?」
鳥取県とは縁もゆかりもなかったが、「旅行会社勤務のころから日本海側の土地が好きで」、4年ほど前から年に10回程度、鳥取県を訪れていた。
「夜、居酒屋で知り合った若者たちが『給料が安い。都会で働きたい』と嘆いていることに問題意識をもち、鳥取県のことを考えるようになった」
そして、漠然と選挙に出ることを思い描くようになったという。当然、平井知事と同姓同名であることは意識したが、「間違えて投票されることはあるだろうが、それは200票程度だろう」と思っていたという。
迷いに迷った末、立候補を決意したのは3月の立候補予定者説明会の数日後。無投票阻止を立候補の動機として主張する一方で、選挙公報には服役歴も掲載して、「すべてを理解したうえでそれでも自分を応援してくれるなら一票を投じてほしい」と訴えた。
「地盤も看板もカバンもない自分にはアイデアしかない」として、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などを駆使して独自の選挙戦を展開した。
全国一有名な県会議員
「ある意味、平井『珍事』が起きた。もうひとりの方が認めているように『投票誤り』があったとすれば、できるだけそれを防ぐ仕組みや工夫があってもいいと思う」
得票率91%を超える約20万票を獲得し当選した知事の平井伸治氏は、初登庁後の記者会見でこう語り、自身の知名度が県議選に影響を与えたとの見方を示した。
これに対し、県議の平井氏は、自身について「事故物件、際物」と自嘲的に表現し、「ツイッターに寄せられている膨大なコメントの8割が否定的なもの。今、全国で一番有名な県会議員だ」と語る。
一方、選挙戦では「関西で長く仕事をした経験から、関西との人的交流、物流を増大させる」と主張し、最低賃金アップや新規イベントの誘致などを公約に掲げた。現状に困惑しながらも、「政策実現のためには一人では無理。まず先輩議員に自分を知ってもらうことから始める」と、今後の議員活動に意欲をみせた。(松田則章)

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