【清水 芽々】「トランスジェンダーの子を持つ母親」が明かした「葛藤」と「理解」…「性転換した息子は『お母さんごめんなさい』と泣いていました」

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2023年に施行された「性的少数者(LGBTQ)への理解増進法」をきっかけに広がった「トランスジェンダー」への認知。多様性の時代となり、トランスジェンダーへの理解は深まっているが、実際に我が子がトランスジェンダーだった場合に親はどのように向き合っているのだろうか。女性が抱える問題や家族間のトラブル、子育てなどをテーマに取材を続けるライターの清水芽々氏が、トランスジェンダーの子を持つ母親たちに取材した。
愛知県在住の杉本敦子さん(仮名・58歳)は25年前に離婚し、当時8歳の長女、7歳の次女、5歳の長男の3人の子どもを連れて実家に戻った。実家には敦子さんの母親と妹が暮らしており、末っ子の裕也さん(仮名・30歳)以外は全員が女性。経済的なこともあり、裕也さんは衣類、玩具、学用品に至るまで姉たちのお下がりを与えられて育ったという。
敦子さんが振り返る。
「嫌がる素振りはまったくなかったんです。最初は子どもながらに気を使っているのかと思いましたが、全然そんな感じじゃなかったですね。可愛いものが好きだったみたいで、持ち物がピンクや赤でも気にならない様子でした」
裕也さんはおとなしい性格で、お人形遊びやままごとが好きで遊び相手は女の子ばかり。男の子向けの玩具や活発な遊びには一切興味を示さなかった。
「最初は環境のせいかなと思っていたんですが、姉のお下がりの赤いランドセルを背負って、花柄のセーターを着て登校することに抵抗を見せない裕也に少しずつ違和感を持つようになりました」
赤いランドセルや女性向けの服を身に着けている裕也さんに対し、一部の心無い保護者から「あれは虐待ではないか?」という声が上がったこともあった。そこで敦子さんは男物を買い揃えたが、裕也さんはいかにも不満そうだったという。
そして中学校に入学する頃になると、裕也さんの性自認が女性であることが顕著になって来る。
「詰襟の制服を嫌がって、姉たちのセーラー服を着たいとダダをこねたんです。『決まりだから』と説得したんですが、小学生の頃から伸ばし始めた髪の毛は絶対に切らせてくれなくて、ゴムで縛っていました。部活も手芸部。学校内でも女の子と一緒にいることが多かったですね」
学校では「オカマ」「男女」などとからかわれることもあったそうだが、裕也さん自身のおっとりした性格が幸いしたのか「イジメ」にまで発展することはなかったという。
「そこだけは安心でした。まだLGBTという言葉が浸透していなかった時代でしたが、『個性を尊重する』という考え方の学校だったんです」
祐也さんの子育てについて悩むことが多かった敦子さんは、「男らしくしてもらいたい」と考えた末、半ば強引に裕也さんを男子高に進学させる。だが、裕也さんは学校に馴染めず、1年生の冬休み前に中退した。
結局、裕也さんは通信制の高校を卒業し、その後就職した。
「『ユニセックス(男女の区別がない)な仕事がしたい』と希望して、服飾メーカーに就職したんです。有名なブランドでしたし、店舗に覗きに行った時も楽しそうに働いていたので安心しました。ただ、裕也の言葉遣いや身のこなしが、学生時代よりも女性っぽくなっていたことに抵抗を感じていたのも事実です」
5年後、裕也さんは「自分の店を持ちたいから、服飾の専門学校に行く」と告げると多忙を理由に家に寄り付かなくなる。
「電話やメールで連絡はとっていましたけど、海外留学したりもして、4年くらい顔は見せなかったですね」
実はこの頃裕也さんはゲイバーで働いており、そこで出会った男性から資金援助を受け、3年前に性転換手術を受けていたのだった。
「一昨年のことです。姉ふたりの結婚が同時に決まったこともあって、裕也を強引に帰省させました」
女性の姿になった裕也さんとの再会……だが、家族のなかでショックを受けたのは敦子さんだけだったという。
「私の母や妹は『理解できる』と言っていました。娘たちは前から知っていたようです。私だけが何の覚悟もできていませんでした。でも、玄関先で立ちすくみ『おかあさん、ごめんなさい。家に入れてくれる?』と泣き出しそうになっている顔は子どもの頃の裕也のままでした。私は思わず抱きしめていました。裕也は大事な我が子に変わりはない……そう思ったんです」
姉の結婚式では姉の友人らと共にドレスを着てブライズメイドを務めたという裕也さん。当初は驚いていた親戚も、「そういう生き方もあるよ」と受け入れてくれたそうだ。敦子さんも今はそっくりな「三人姉妹」と撮った家族写真をスマホの待ち受けにして持ち歩いている。
続く後編記事『トランスジェンダーの子を持つ母親が「義理の両親」から告げられた「信じがたい暴言」』では、「性自認が男性」という娘をもった母親にも取材している。
【つづきを読む】トランスジェンダーの子を持つ母親が「義理の両親」から告げられた「信じがたい暴言」

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