進次郎・高市出馬で見えた″自民分裂″の近未来 「石破おろし」に批判噴出の自民は「旧安倍派を断ち切るしかない」

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石破首相退陣の波紋が広がり続けている。一時続投の意向を示したものの、収まる様子のない党内からの辞任要求に耐え切れず退陣を表明した石破首相。辞任にあたっては、各社世論調査で内閣支持率が上昇の兆しを見せる中、あまりにも露骨な「石破おろし」の様相に自民党を非難する声も上がっている。石破政権の功罪と与党としてのガバナンスを失った自民党の未来について、東京大学先端科学技術研究センター教授で政治学者の牧原出氏に聞いた。
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参院選ではあれだけの大敗を喫し、参院選総括にもあるような<党としての発信力の弱さ>が露呈した以上、内閣改造で場を乗り切るという判断があったにしても、石破政権は近く次の政権に引き継ぐことが必要な段階であると感じていました。
8月上旬から中旬にかけて、石破首相続投の声が高まりました。これにはいろいろな要素が絡み合っていたと思いますが、「石破さんが辞任して政策を引き継げる人がいるのか」と考えて続投を望んでいた人が一定以上いたことがうかがえます。
このように続投を望んでいた層にしても、石破政権が今後長きにわたって政権を維持することまでは考えていなかったはずです。辞任するにしても新たな政権がまた真っ新な状態から基盤を築くことは望まない、という層が石破政権の内閣支持率を押し上げていたように思います。いずれにしても、来年の通常国会までなのか、あるいは年末までなのか、政権はもって長くても1年程度だったはずです。
石破首相は今月2日の両院議員総会で「しかるべき時にきちんとした決断をすることが私が果たすべき責務だ」と自身の進退について言及しました。しかし、ついに辞任に踏み切るのかと思いきや、石破首相はその後になって解散をにおわせるなど状況を見ながら情報を小出しにしてしまいました。辞任するのであれば、いつを目途にするのか、次の政権に何を残していくのかを明確にしておくべきで、それは政権与党の総裁としての責任のはずです。しかしその言及はなく、結局、党内外に疑念を持たれたまま退陣に至ったことは反省すべき点だったと思います。
石破政権は少数与党でありながら越年編成せずに予算を年内に成立させ、トランプ関税にも一定の決着をつけることができた。コメ価格にしても、備蓄米の放出という判断を下して現実的に値段を下げることに成功しています。これらの点は石破政権の評価できることではないでしょうか。
石破首相は両院議員総会で「“石破らしさ”というものを失ってしまった」として謝罪をしていますが、菅政権のGoToトラベルや岸田政権の国葬などに比べて、石破首相は世論に反することは行っていない。石破首相は辞任発表の会見で「賛成はしていただけなくても納得していただける」と内閣支持率上昇の理由を語っていましたが、まさにそうした層に石破政権は支えられていたのだと思います。
石破首相退陣に至るまでの動きを見ると、自民党は“与党の資格”を失いつつあることを強く感じさせられます。未解決のままである政治資金問題にも手を付けず、「石破を変えれば党のイメージは良くなるだろう」と安易に石破おろしに走る様子を見ると、党のガバナンスが働いているとは到底思えません。自民党は本当に与党でいたいと思っているのかと疑念を抱いてしまうほどです
少数与党に転落して以来、石破政権は政策テーマごとにスタンスの違う野党と話し合って予算などを成立させてきました。自民党が少数与党として政権を運営していくには、今後、ある程度の幅をもって中長期的に与野党間で政策を協議していく与野党連絡会議のようなものが必要で、これは石破政権が実際にやろうとしていたことです。
自民党に力のあった安倍政権時代では賛成か反対かで政策を進めていけば良かったかもしれません。しかし、自民党の力が弱まった今はこのようにはいかない。現実的に必要なのは与野党で協議を進めて妥協点を探ることであり、石破首相には現在の自民党のリーダーとして必要な資質が実は備わっていたのではないかと思うのです。
石破首相が辞任したことで、自民党の中には「これで禊は済んだ」と思っている議員も多い。ただ、1年で内閣を閉じさせてしまった以上、新たな首相の路線によってはまた試行錯誤をして政権運営をしていかなければならないということを忘れてはいけません。今のまとまりを欠いた自民党にとってこれは至難の業です。
林氏が総裁になれば、石破首相の路線をある程度受け継いで政権を運営することが出来るはずなので“試行錯誤” の度合いは小さく済むかもしれませんが、それ以外の方が総裁になった時には政権運営のやり方に大きく手を入れることになるでしょう。
例えば、茂木氏などは国民民主や維新との連立協議を目指すと言いますが、現実的に国民民主を支援する連合は黙っていないでしょうし、維新との連立は公明党が激しく反発します。まとまりを欠いて弱体化した自民党にこれを出来るかと言えば、まず難しい。
そして、裏金議員であった旧安倍派への反発も根強い。総裁選で旧安倍派の一定数は高市氏を支援するはずですが、もし高市総裁が実現した場合には旧安倍派とそれに反発する議員で党内分裂はさらに進むでしょう。こうなると、高市氏に反発する野党と与党とりわけ公明党などが組み、自民党ではない内閣が成立する未来が見えてきます。
自民党が国民からの信頼を取り戻し、大きな塊として政権与党であり続けるのであれば、どこかの段階で旧安倍派を断ち切り、政治資金規正法に手を入れるという荒療治をせざるを得ない。与党としてのガバナンスを失いこのまま弱体化を続けるのか、あるいは分裂覚悟で党内改革を行って求心力を回復するのか、総裁選は自民党の今後を占う大きな分かれ道になるのではないかと思います。
デイリー新潮編集部

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