映画館では、「飲食物の持ち込みはご遠慮ください」と案内されているケースが少なくありません。その理由は大きく3つに整理できます。1. 衛生・清掃の問題外部から持ち込まれた飲食物は、包装やゴミが一定ではなく、清掃負担を増やします。統一された容器であれば回収が効率的にできますが、持ち込みが増えると衛生管理やゴミ処理にかかるコストが膨らむリスクがあるのです。2. ほかの観客への配慮食べている本人は気にならないかもしれませんが、においの強い食べ物や袋を開ける音は、映画に集中している人にとって大きなストレスとなります。暗く静かな環境では、においや音がほかの人の鑑賞を妨げる原因となり得るのです。3. 収益構造の維持映画館のチケット収入の取り分はおおむね半分ほどです。残りは配給会社と製作会社に分配されるため、映画館の利益は限られます。ポップコーンやドリンクといったフードは原価率が低く、チケット収入より利益貢献度が高いため、売店での飲食販売は運営を支える重要な収入源となるのです。持ち込みが増えれば経営基盤そのものを揺るがしかねません。こうした理由から、持ち込み禁止は「映画館の都合」だけでなく、観客全体が快適に映画を楽しむためのルールといえるのです。
では、なぜ禁止されているのに注意されないのでしょうか。実際にイオンシネマに問い合わせたところ、以下のような回答を得ました。
・持ち込みを確認した場合、注意をしている・映画が始まる前に、必ずスタッフが見回りをしている・ほかの観客からクレームが入った場合については、上映中であっても注意する
つまり、映画館は明確に禁止を徹底し、注意も実際に行っています。しかし、上映中は館内が暗くなり、確認するためにスタッフが歩き回ると、それ自体が鑑賞の妨げになりかねません。そのため、劇場側は状況を見極めながら、できるだけ目立たないタイミングで対応しているのです。「なぜ注意されないのか?」という疑問の背景には、実際は注意しているが、観客に余計なストレスを与えないよう工夫しているという劇場側の配慮があるといえます。とはいえ、ほかの観客からのクレームには素早く対応するという柔軟さもあるため、気になる行為を見かけたら、スタッフに相談すると良いでしょう。
もう1つ気になるのは、館内フードと外部飲食の価格差です。例えば、109シネマズのホットドッグセットは880円、対して朝マックのソーセージマフィンセットなら400円ほどです。同じような食事でも価格差は倍以上あります。外から持ち込めば安く済む、と考える人もいるでしょう。しかし、前記の通り映画館にとってフード販売は単なるオプションではなく、経営を支える仕組みそのものです。チケット収入だけでは劇場にあまり利益が出ず、売店の売り上げが人件費や設備の維持、清掃といった運営コストをまかなっています。持ち込みの是非については、単純に「高いから」「安いから」だけでは語れません。問題の本質は、周囲に迷惑をかけるかどうかです。においの強い食べ物、音の出るスナック菓子、ゴミの放置などは、ほかの観客の劇場体験の価値を強く損ないます。同じ料金を払っているにもかかわらず、一部の迷惑行為が原因でせっかくの映画鑑賞が台無しになりかねないのです。映画鑑賞の基本的なマナーを守るための「原則禁止」である以上、やはりフードの持ち込みは控えるべきでしょう。また、持ち込みに対するクレーム対応や清掃のための人件費、廃棄コストの増加などにより映画館の運営コストが上がれば、巡り巡って価格やサービスに跳ね返る可能性もあります。利用者のマナー違反がもたらす経済的損失は、決して軽視できません。
映画館で飲食物の持ち込みが禁止されているのに、なぜ注意されないのか。それは、劇場側が「周囲の迷惑を最小限にする」ことを優先しているからです。実際には注意が行われていますが、観客の集中を妨げないよう目立たないタイミングで対応するため、私たちが目にする機会は少ないのです。映画を見るという娯楽体験を互いに快適にするためには、観客のマナーやモラルが重要になります。せっかく映画館に足を運ぶのですから、少しだけ「他者への配慮」を心がけてみてはいかがでしょうか。
株式会社東急レクリエーション 109シネマズ 109シネマズ二子玉川 フード&ドリンクメニュー執筆者 : 竹下ひとみFP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種