食道がんを発症すると口臭はどんな臭いがする?Medical DOC監修医が食道がんの初期症状・口臭が変化する原因・なりやすい人の特徴などを解説します。
監修医師:和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。
食道とは、口から入った食物が咀嚼された後に運ばれる、咽頭と胃の間をつなぐ管状の臓器です。この食道の内側にある粘膜にがんが発生したものが食道がんです。食道の粘膜から発生したがんは、進行すると外側に向かって広がります。食道粘膜に留まるがんを早期食道がん、粘膜内から粘膜下層までのがんを食道表在がんと呼びます。
がんが進行すると、がんの組織が一部死んでしまい、腐っていく「壊死」を起こします。この壊死により悪臭が発生することがあります。また、この壊死した部分に細菌感染が起こるとさらに悪臭が起こるため注意が必要です。これらの悪臭が発生し、それが血液中に取り込まれ、その後に息として吐きだされます。この臭いが、肉が腐ったような臭いや生ごみのような臭いと言われることが多いです。
食道や胃の中で食べ物が通過できずに停滞すると、そこで腐敗して悪臭を放つようになります。食べ物が腐った臭いであるため、卵か腐ったような臭いや生ごみの臭いのような悪臭として表現されることも多いです。
胃酸が上がる様になると、すっぱいにおいを感じることもあります。これは、食道がんが胃食道逆流症を合併することも多いためです。
食道がんでがんの組織が壊死したり、この壊死巣に感染が起こることで悪臭を放つことがあります。この悪臭成分が血液中に取り込まれ、息が独特な悪臭を放つようになります。
食道がんになり内腔が狭くなって食べ物が通過しづらくなると、食べ物が食道や胃で停滞、発酵して臭うようになります。食べ物の腐敗臭のような臭いがおこることがあります。
食道がんは逆流性食道炎や胃炎、胃がんなど他の消化器疾患を合併することもあります。胃食道逆流症では胃酸のすっぱい臭いが感じられたり、胃炎や胃がんによる口臭が起こる可能性も考えられます。
食道がんの初期症状は自覚がないことが多いです。しかし、がんが進行すると、下記のような症状がみられることがあります。
食道がんの初期症状として、食べ物を飲み込むと胸がチクチク痛んだり、しみる感じが起こることがあります。胃食道逆流症などでも同様の症状がみられることもありますが、食道がんの初期では症状が乏しいことが多いため、少し気になる事でも早めに専門医に相談することが大切です。胸のチクチクする感じやしみる感じは、がんが大きくなると消えてしまうこともあります。症状が消えたからと言って放置しない様にしましょう。
食道がんが大きくなると、内腔が狭くなり、食べ物がつかえやすくなります。最初は大きな肉の塊などが詰まりやすく感じるかもしれません。しかし、がんが大きくなると食べ物の通り道を塞いでしまい、水分も通らなくなり、唾液も飲み込めなくなることもあります。食べ物がつかえる感じが続いたら、早めに消化器内科を受診しましょう。
食道がんが進行すると、肺や背骨、大動脈などに周囲の臓器に広がっていきます。そうすると、胸や背中に痛みを感じるようになります。しかし、胸や背中の痛みは食道がんだけとは限りません。胸や背中の痛みは、肺や心臓、大動脈などの病気に伴いみられることもあります。胸や背中の痛みが持続する場合には、何かしらの病気の可能性があるため、内科を受診しましょう。
食道がんが進行すると、隣接する肺の気管支まで浸潤し、咳が出たり、声帯を動かす反回神経に浸潤すると声がかすれることもあります。咳の症状が声のかすれが持続する場合には耳鼻科や呼吸器内科を受診しましょう。
米国での研究では、現在喫煙をしている人では、一度も喫煙したことがない人と比較して食道がんのリスクは7~8倍と言われています。日本の研究でも、喫煙経験者は非喫煙経験者と比較して食道がんのリスクは約3倍と報告されています。地域での差はあるものの、喫煙は食道がんのリスクと考えられるでしょう。食道がんを予防するためにも、禁煙が重要です。
飲酒量により食道がんのリスクが上がることが報告されています。1日当たり日本酒1合(エタノール換算23g/日)以上より多くなるほど、食道がんのリスクが上がると言われています。飲酒と喫煙が食道がんの大きな原因です。さらに、飲酒で顔が赤くなるタイプのヘビースモーカーで飲酒量が増えると食道がんのリスクが非常に高くなることが分かっています。飲酒、喫煙ともに気をつけなければなりませんが、特に飲酒で顔が赤くなるタイプの人では注意が必要です。
熱い食べものや飲み物を摂取することは、食道がんのリスクになると報告されています。熱い食べ物をとることで、食道の粘膜が傷つき、がんが発生しやすくなるためと考えられています。食べ物、飲み物は十分に冷ましてから食べるようにしましょう。
アルコールを日本酒で一日1合以上飲む人では、食道がんになりやすいです。また、アルコール摂取量が多くなればなるほどこのリスクは増加すると言われています。アルコールを多く飲む人は、食道がんに気をつけましょう。
喫煙は多くのがんでリスクとなりますが、食道がんでも同様にリスクをあげます。特に、喫煙、飲酒が重なることでさらに食道がんのリスクをあげることになるため、注意が必要です。
飲酒で顔が赤くなる人は、アルコールを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが弱いタイプであると考えられます。このアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱いと毒性の強いアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいため、食道がんのリスクとなります。日本人の約45%はアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱いと言われています。特に、ヘビースモーカーで影響が強く現れるため注意が必要です。ヘビースモーカーの人で、一日当たり日本酒2合以上の大酒家で顔が赤くなる体質の人は、1日当たり2合未満で顔が赤くならない体質の人と比較して食道がんのリスクが3.4倍高くなると言われています。
ここまで食道がんと口臭などを紹介しました。ここでは「食道がんと口臭」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
和田 蔵人 医師
胃がんも食道がんと同様に、初期では口臭を感じることは稀です。しかし、進行すると、がんが壊死した臭い、壊死した組織に感染したときにおこる臭い、食べ物が通りづらくなることで胃に停滞し、腐敗したときの臭い、また胃酸が逆流するようになるとすっぱい臭いなどを感じることがあります。
口臭は口腔内の虫歯や歯周病などで起こることが多いですが、時に口腔内以外の問題で口臭が出ることもあります。この原因の一つに食道がんが挙げられます。口腔内をいくらきれいにしてもなかなか改善しなかったリ、腐敗臭の様な悪臭を感じた場合には食道がんなどの消化器疾患の可能性もあり、注意が必要です。口臭以外に、食べ物のつかえ感や、痛みやしみる感じなど症状がみられる場合には、早めに消化器内科で相談をしてみましょう。
「食道がん」と関連する病気は8個ほどあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
扁桃腺炎
胃炎
胃がん
口臭が起こる可能性のある病気を挙げました。口臭のみでは病気の区別はつきませんが、なかなか改善しない口臭やいつもと違う腐敗臭などを感じたときには早めに消化器内科で相談をしてみましょう。
「食道がん」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
食べ物がつかえる
食べ物がしみる
胸や背中の痛み
咳
体重減少
食道がんでみられる症状を上に挙げました。しかし、初期では症状がないことも多く、しみる感じなどは途中で消えてしまうこともあるため注意が必要です。気になる症状がある場合には、内科・消化器内科で相談をしましょう。
参考文献
食道がん(がん情報サービス)
がんの発生要因(がん情報サービス)
飲酒と食道がんの発生率との関係について(がん対策研究所)