今後もさらに変化が予想される不動産市場。不動産を所有する際には「住む」にも「売る」にも最適な人気エリアを知っておきたいところです。東京都近郊の埼玉県で注目したいエリアについて専門家の解説をみてみましょう。本記事では長嶋修氏の著書『2030年の不動産』(日経BP 日本経済新聞出版)より一部を抜粋・編集し、埼玉県・和光市の魅力をご紹介します。
埼玉県の注目エリアを紹介します。埼玉県内の推計人口は、2024年まで3年連続で減少。栃木や群馬、長野、山梨寄りの郊外エリアは人口が少なく、東京に隣接しているエリアや都市部は人の出入りが活発です。ここで取り上げるのは、東京都の板橋区や練馬区に隣接している埼玉県南部の和光市です。
和光市駅には東武東上線、東京メトロ有楽町線、副都心線という3つの路線が乗り入れており、いずれも東京の主要ターミナル駅の一つである池袋駅につながります。たとえば、東上線の急行であれば約13分で池袋に出られます。
池袋以外にも、有楽町線なら永田町、有楽町、副都心線なら新宿三丁目や渋谷の各駅に乗り換えなしで行くことが可能。副都心線は渋谷駅から東急東横線、みなとみらい線に直通のため、横浜方面にも一本で行けます。和光市駅始発の路線が多いため、座って通勤しやすいほか、帰路も乗り過ごすことが少ないところも魅力です。
和光市でも、エリアによっては和光市駅以外に都営三田線沿いの西高島平駅(板橋区)や、都営大江戸線沿いの光が丘駅(練馬区)を利用できます。どちらの路線も都心の主要駅とつながっているため、さまざまな場所に出やすいでしょう。
さらに、東京外環自動車道(外環道)の和光北ICや首都高速5号池袋線の高島平ICとの距離が近く、車で遠出をすることが多い人も便利さを実感できるはずです。こうした強みを活かし、和光市は着々と人口を増やしています。
2024年7月24日に総務省が公表した人口動態調査によると、埼玉県内の自治体で人口増加率が1位なのは、さいたま市緑区の1.01%ですが、和光市は0.91%で第2位です。和光市の人口が自然増(死亡数に比べて出生数が多いこと)を続けている理由は、若い世代が流入し、定着しているからです。
和光市は子育て世帯の呼び込みに熱心で、2014年にはフィンランドの制度をモデルに「わこう版ネウボラ」制度を導入しました。ネウボラとは「アドバイスの場」を意味し、子育ての不安を解消することを目的とした子育て世代包括支援センターを市内5カ所に置くなど、子育て世帯を手厚く支援しています。
ほかにも、和光樹林公園や大規模遊具のある総合児童センターなど家族で楽しめる施設が充実しているため、子育て世帯にとって住みやすいことは間違いありません。和光市駅周辺は再開発も進んでいます。2020年3月には駅ビルが開業し、2021年12月には総合児童センターや保健センター、民間収益施設などを一体的に整備した複合施設「わぴあ」が開業しました。
駅の北口周辺は道路が狭く、住宅が密集しているエリアですが、和光市は2008年度から区画整理事業を推進。2024年3月には「和光市駅北口第一種市街地再開発事業」の都市計画を決定しました。計画によると、大規模複合施設の建設などに取り組み、2026年度の着工を目指します。新たな施設がオープンすれば、駅前にはますます賑わいが生まれるでしょう。
和光北IC東部地区の土地区画整理事業も進められています。国道245号バイパスの整備と外環道の延伸計画を機に、沿道の土地と広域的な幹線道路を活用した新産業関連施設及び物流関連施設を主体とした工業地としての土地利用を図るという内容で、新たな産業の集積を図るのが狙いです。
駅周辺と和光北IC地区を自動運転バスで結び、路線バスやコミュニティバス、タクシー、シェアサイクル、マイクロモビリティなど、さまざまな交通手段と連携し移動のしやすさを確保する「和光版MaaS」の導入も検討されています。
MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、専用アプリによりバスや電車、タクシーといった複数の交通機関や、シェアサイクルなどの移動手段を組み合わせて、最適な移動手段の検索・予約・決済を一貫して行うサービスのこと。和光市では利便性の高い公共交通網を整えることで多くの地域住民の外出機会を増やし、健康増進や介護予防に寄与することも想定。末永く住みやすい街づくりが進められています。
長嶋 修
さくら事務所 会長らくだ不動産 顧問