【櫛田 泉】「石丸さんは自分が目立つため候補者を捨て駒にした」…全員落選の《再生の道》内部に漂う不信感

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2025年7月20日に実施された参議院選挙。元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏率いる新党「再生の道」は、比例代表を含めて10名の候補者を擁立していたが、全員が落選した。
今回の参院選に出馬しなかった石丸氏自身は、選挙後に行なわれた記者会見で、「できることは全部やった」「国民の意識が可視化された結果」と発言。小選挙区に多くの候補者を立て、比例代表の票を獲得するという選挙戦の常道をとらないことが再生の道の特徴だと強調した。
新興政党が躍進を遂げる中、なぜ再生の道は思うように票が伸びなかったのか。
綻びは、すでに6月の都議選の時点で生じ始めていた–。
【1回目/全3回】
石丸氏が全国的な注目を集めたのは2024年7月の東京都知事選だった。
選挙期間の17日間で228回の街頭演説が行われたが、これがリアルの現場とSNSの双方で大きく盛り上がった。そして、その様子が「石丸フィーバー」として連日テレビなどのメディアで報じられたことにより、石丸氏の知名度が一気に上がり得票に結びついた。結果、当初は小池百合子氏に迫る得票が期待されていた蓮舫氏を上回り、約165万票を獲得して次点での落選となった。
再生の道は、この東京都知事選で躍進した石丸氏が2025年1月に結成した新党だ。もともと同氏は、京都大学経済学部を卒業後、三菱東京UFJ銀行に入行。ニューヨークに駐在するなどの経歴を持つ。
当初、再生の道は東京都の地域政党を標榜し、石丸氏に負けず劣らずの高学歴・高年収の「ハイクラス人材」を都議会に送り込み、政治屋を一掃することなどを目標に掲げていた。党の代表である石丸氏が各所で展開していた持論が「政治のエンタメ化」だ。
しかし、有権者には響かなかった。
候補者は公募により集まった1128人から選抜の52名で、このうち42名が都議選に出馬したものの全員が落選。そして、今回の参院選でも10名全員が落選という結果に終わった。
当初、再生の道では、「政策がないこと」が大きな強みとされていた。
地方議会は二元代表制であり、議員の役割は行政のチェックであることから、政策提案は意味がないという石丸氏の持論によるものだったが、今回の参院選では、国会議員には政策提案能力があるという同氏の持論から「教育を最優先」を政策に掲げていた。
しかし、参院選の候補者は、学習塾経営者が1名いるだけで、教育政策に精通した人材は見られなかった。ほかの9名の候補者は、公認会計士や商社マンなど全体的に教育よりもビジネスに精通した人材の方が多い印象だ。
石丸氏は、さきの都議選でも立候補しなかったばかりか、新党立ち上げ当初より「当選にこだわらない」という発言を各所で繰り返していた。ある関係者は、「石丸氏の選挙姿勢から候補者と応援者の士気が上がりにくい状況があった」と漏らす。
SNSをフル活用して情報発信を行うことが特徴の再生の道では、新党立上げ直後から、石丸氏と候補者により大量の動画配信が行われ、他の政党のSNSとの比較において圧倒的な動画の再生数を獲得してきた。
そんな中で、4月下旬から「ゼロでも勝ちです。なぜならば新しい地域政党を作るという話題が起きただけで僕の目標を達成しているので。その結果この政治改革が上手くいかなかったとしても僕は全く気にしない。知ったこっちゃないんで」と石丸氏本人が意気揚々と語る切り抜き動画がX(旧ツイッター)で数百万人に拡散された。
また、この時期には石丸氏の過去の問題が相次いで表面化している。
広島県安芸高田市長時代に市議から「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」と恫喝されたと石丸氏が主張し、SNSでも同様の投稿を行った件について、裁判所は同氏の主張が真実ではなく、市議への名誉毀損にあたるとして最高裁で敗訴が確定したことが報じられた。
さらに、同市長選挙時の選挙ポスター代金約73万円を業者に支払わなかった問題でも敗訴していたことが蒸し返された。こうした一連のネガティブな話題の拡散を受けて、「石丸氏のメッキががれ始めた」という印象を抱いた有権者も少なくない。
この結果、合格後も仕事を辞めずに本格的な政治活動に入らなかった候補者も見受けられたほか、ある関係者は、「再生の道への投票を知り合いに勧めても『どうせ当選を目指さないんでしょ』と言われ、聞く耳を持ってもらえなかった」と悔しさを滲ませた。
さらに、仕事を辞めて選挙戦に臨んだ候補者については、街頭での選挙活動で手応えを感じられない中で、まさに昇った梯子を外された状態での戦いを強いられた。
しかし、今回の参院選では一転して、東京選挙区から出馬した吉田あや候補への応援演説にはかなり力が入っていたようだ。
6月22日の東京都議選後に行なわれた記者会見では、1月の再生の道設立の記者会見で語った内容を振り返り、「目的は広く国民の政治参加を促すことで、目標は都議選に候補者を擁立することだった」と強調した。つまり当選は目的ではないことから再生の道の目的は達成できているという。
この記者会見については、再生の道の選挙戦は「都民や国民のためではなく石丸氏自身を目立たせるため」で「合格者たちは捨て駒に使われただけ」と感じ落胆したという関係者の声も聞いた。
石丸氏は、この記者会見で獲得議席数ゼロの報を受けて「そうなんですねの感想」「都民の意識が可視化されるのが選挙」と発言したが、これについても得票が少ないのは有権者のせいであるかのような印象を持たざるを得ない。
例えば、どんなに良い商品やサービスを用意しても勝手に売れるわけではない。商品の良さを広めていくためには適切な営業活動や宣伝活動は不可欠で、それは新党の支持を集めるための活動にも同じことが言えるのではないか。
再生の道とその候補者の知名度が不十分な中では、「公示前から候補者に対する注目を集めるために、石丸氏が積極的に候補者を引き連れて聴衆を集める必要があった」と不満を漏らす関係者もいた。
今回の参院選後に行なわれた記者会見でも、候補者10人全員落選の報を受けた石丸氏は、「できることは全部やった」として、「国民の意識が可視化された結果」であると述べた。
他の新興政党が議席を伸ばしている中で、再生の道が議席を獲得できなかったことについては、選挙戦の常道である小選挙区への多数候補擁立とそれを軸とした比例代表票の獲得という手法を取らないことが再生の道の特徴であると強調した。
東京選挙区から出馬した吉田あや氏について「政治未経験の中で、激戦の東京選挙区を戦い抜いたその姿には敬意を覚えた」と評し、その後の記者会見の場に吉田あや氏が登場。「個人の見解としては、勝てなかったことが悔しい」「これからも再生の道からでなければ政治を目指さない。石丸氏が目指していることには非常に共感を覚えている」と述べた。
すでにここでも、「政党を立ち上げることが目的で当選を目指さない」石丸氏の認識と、「当選を目指す」候補者との認識の乖離が生まれている。
つづく記事〈「矛盾を指摘すると他の石丸ファンから攻撃」「盲目的でカルトに近い」…石丸伸二ファンが《再生の道》を見限った「真っ当な理由」〉では、石丸氏の自己矛盾を中心に解説する。
【つづきを読む】「矛盾を指摘すると他の石丸ファンから攻撃」「盲目的でカルトに近い」…石丸伸二ファンが《再生の道》を見限った「真っ当な理由」

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