「セミが鳴いていない!?」空梅雨と急激な暑さで羽化に失敗か「35℃を超えるとあまり鳴かなくなる」

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いよいよ夏を迎え、毎日暑い日が続いていますが、7月に入ってなんだかいつもと違うなぁ…と感じることがありませんか?
【閲覧注意】羽化に失敗したセミ「酷暑のせいか…」
岡山県南部在住の筆者は、まだセミの声を聞いていません。
例年なら6月下旬から7月上旬には、クマゼミの「シャワシャワシャワシャワ…!」という声や、アブラゼミの「ジリジリジリジリ…」という鳴き声が聞こえていたはずなのですが…。
虫の生態に詳しい東洋産業の大野竜徳さんに聞きました。

ー梅雨が明けると「セミの大合唱」というイメージだったのですが、今年はどうしたのでしょう。(東洋産業 大野竜徳さん)「そうですね。今回は、そんな違和感について、私なりの解釈をお話ししたいと思います。 既にうだるような暑さですが、春先は涼しかったような…しかし気象庁のデータを見ると、今年の5~6月の平均気温は都市部では平年並みかやや高めだったようです。 ただ、今年は梅雨が短く、体感としては6月中旬から後半にかけて涼しい日が多く、その後一気に暑くなったように感じられました」
「ところで、セミの羽化には地温が18~23℃程度に達することが重要とされています。 特に都市部で多いアブラゼミやミンミンゼミは、地温20℃以上が数日続かないと、『羽化するぞ!』というスイッチが入りにくいと言われています。 さらにクマゼミは特に温暖な地域を好むため、涼しい日が続くと羽化が遅れやすい傾向があります」ーなるほど、今年は涼しい時期が長く続き、急に暑くなったことで一気に地温も上がりすぎてセミが羽化のタイミングを掴み損ねたのかもしれません。
ーさらに今年の梅雨はとても短く、雨が少なかったですね。「短時間の局地的大雨はあったものの、地中深くまで水分が届きにくかったのかもしれません。セミは樹木の根から樹液を吸って成長しています。乾燥した日が続いて樹木の元気がなくなるとセミの幼虫は羽化前の最後のエネルギーになるエサと水をおなか一杯吸うことができません。 さらに、セミの幼虫は、雨で土が柔らかくなると地上に出やすくなります。 これも『羽化するぞ!』スイッチの一つなので、まとまった雨がないと、幼虫たちも戸惑ってタイミングを逃してしまうことがあります」
ーでは、都市部より涼しい山間部ではどうでしょうか。「もともと山間部では、羽化時期が都市部より1~2週間遅れてやってきます。 さらに、今年は平年より1~2℃低い日が多かったため、セミの大合唱が聞こえるのはこれからかもしれません。 ここまで、今年の空梅雨と急激な暑さが影響しているというお話をしましたが、そもそもセミの幼虫は4~6年という長い年月を地中で過ごしています」「街路樹や公園、庭木の下で、幼虫たちは木の根から樹液を吸い続け、何度も季節を越えて成長を続けます。そして地温が十分に上がった年、ようやく地上に出てくるのです。 つまり、今鳴くはずのクマゼミやアブラゼミは、2019~2021年頃に孵化した世代だと考えられます。 今年の気温や天気だけでなく、幼虫期の天候や土壌環境、生存率など、何年も前からの条件が大きく影響しているのです」
「実際、2023年にはこんな現象が報告されました。『クマゼミは気温35℃を超えるとあまり鳴かなくなる。そんな日が続くと、暑さに耐えられず活動が鈍る』というものです。 そして、2024年7月下旬も、夜は熱帯夜、昼は猛暑日が続き、そうした地域では『セミの鳴き声が聞こえない』という声も出ていました。 そして今年、ついに私の身の回りでも、セミの声がほとんど聞こえない夏がやってきました。 単に羽化が遅れているだけではなく、2023~2024年の猛暑を乗り越えられなかった幼虫もいたのかもしれません」 「また、都市部では街路樹の伐採や地面の舗装化が進み、幼虫が育つ土壌環境が減っています。 近年の台風や豪雨で地盤環境が変わった影響も否定できません。 今年、街路樹や庭木を見ていると、抜け殻がほとんど見られず、代わりに羽化に失敗した幼虫を複数見かけます。(※閲覧注意【画像】羽化に失敗した様子)
『羽化するぞ!』スイッチがうまく入らなかったのか、暑すぎて力尽きてしまったのか…。セミにとって異変が起きているのは間違いなさそうです」
ー今年の夏は、この後どうなるでしょうか。(東洋産業 大野竜徳さん)「セミの幼虫が絶滅したわけではないはず。今も地中で『羽化するぞ!』スイッチが入るのを待っている幼虫がいるはずです。 これから適度に雨が降り、気温がいったん下がってくれれば、クマゼミもアブラゼミも一気に羽化し、いつもの騒がしい夏が戻ってくるかもしれません」「しかし、このまま暑い日が続いて雨も降らなければ、幼虫のまま死んでしまったり、慌てて羽化して力尽きるものが増えたりして、静かな夏のまま終わるかもしれません。 そうなると、数年後の夏にもセミの鳴き声が減ってしまうでしょう」「毎年、早朝から安眠を妨げるほど大音量で鳴いていたセミ。セミの鳴き声も夏の訪れを教えてくれる自然の一つ。そんな喧噪も恋しく感じる、静かな朝が続きますね。 本来なら、土の中で4年以上も過ごし、ようやく訪れた短い夏に恋の季節を迎えるセミたち。彼らが紡ぐ命の時間の長さに思いを馳せながら、響き渡る大合唱の日を楽しみに待ちたいものですね」

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