高校生に大人気「しゃぶ葉」安くても儲かる戦略

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若者の心をガッチリ掴んだ「しゃぶ葉」。人気を獲得した背景とは? 写真は筆者が訪れた、吹田佐井寺店(筆者撮影)
ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載。第6回は、すかいらーくグループが展開するしゃぶしゃぶ食べ放題の店『しゃぶ葉』が、10代、20代から圧倒的な支持を受ける「なぜ」に迫ります。
「しゃぶしゃぶ店なのに、こんなに若者がいるの?」–。先日「しゃぶ葉」を家族で訪れて、筆者が真っ先に抱いた疑問だ。「高級」「フォーマル」というイメージが強いしゃぶしゃぶ店で、食べ放題といえど平日の夜20時、10~20代で店があふれ、待ちも出ている状況だったからだ。体育会系らしき高校生の団体もいた。
しゃぶ葉は、2022年から急速に店舗数を拡大、2025年3月現在で300店舗を突破した、すかいらーくグループの飲食チェーンだ。
2020年からはマレーシア、台湾、アメリカにも進出。2024年1月に279店舗だったことを考えると、わずか14カ月で20店舗ほど増やしたことになる。
【画像16枚】「カスタマイズは無限」「なぜかワッフルもある」…急成長中の「しゃぶ葉」のメニューや内観
その出店ペースは、すかいらーくグループの中でも際立って速い。今回、急成長の背景と若者を惹きつける経営戦略について、紙面回答での取材が叶った。
しゃぶ葉 富山中島店。ゆとりをもってテーブル席が配置されている(写真提供:すかいらーくホールディングス)
なぜ従来「高級」「フォーマル」なイメージのしゃぶしゃぶ店に若者が集まるのか。その背景には大きく3つの戦略がある。まず1つめは「徹底したカスタマイズ性」だ。
例えばだしは、基本となる甘めの「白だし」に加えて、さっぱりとした「柚子塩だし」、ピリッとあとをひく辛さがくせになる「赤チゲ味噌だし」など、6種類以上から基本2種類を選べる。白だしともう1種類を選ぶ場合は無料、白だし以外の2種類を選ぶ場合はプラス110円(以下、すべて税込)。プラス440円を払えば、4種類を選ぶこともできる。
4つのだしをセレクトした鍋。右上から時計回りに、薬膳風火鍋(+150円)、白だし、柚子塩だし、鶏がら醤油だし(筆者撮影)
たれも豊富だ。「たれBAR」と銘打ったコーナーには、ポン酢、胡麻だれ、自家製梅だれほか5種類以上のたれがラインアップ。
隣接する「薬味BAR」には、ネギ、紅葉おろし、豆板醤など15種類以上が揃っている。これらを組み合わせることで、「自分好みの味」をつくり出すことができるのだ。アレンジ可能な数は「5万通り以上」というから驚く。
胡麻だれ、ぽん酢、和だしつゆほか6種類のたれが並ぶ「たれBAR」(左)と「薬味BAR」(右)(写真提供:すかいらーくホールディングス)
一方で、20種類以上の野菜類が食べ放題という点も、健康志向の若い世代の来店動機になっている。
野菜は、トマト、キャベツなどサラダとして食べられるものに加えて、白菜、青菜や香味野菜、茸ほかしゃぶしゃぶに具材として入れられるものも。こちらも、カスタマイズの一手となっているのだ。
「鍋に使える野菜」と「サラダとして食べられる生野菜」、両方がとり放題の「新鮮野菜畑」コーナー(写真提供:すかいらーくホールディングス)
多数の選択肢を用意する理由を同社は、「毎回新しい味の発見をしていただき、何度でも通いたくなるお店づくりを目指しています」と説明する。自店を、「お手頃価格で自分好みのアレンジを楽しめる、食のテーマパーク」と表現し、それこそが支持を得ているポイントだと分析している。
野菜コーナーには、地場産の野菜や豆腐なども(写真提供:すかいらーくホールディングス)
若年層獲得戦略の2つめの柱となっているのが、充実したデザートコーナーによる「体験価値」の提供だ。
しゃぶ葉には、かき氷、ソフトクリーム、プリン、綿菓子など、子どもでも自分で作れるデザートが幅広く用意されている。
なかでも評判がいいのが、ワッフルメーカーで焼き上げるワッフルだ。外はサクッと、中はふんわり。専用の生地を使用して、焼きたての食感の設計にこだわったという。2024年11月からは、クレープも導入された。デザートのトッピングも、チョコレートソース、ホイップ、ソフトクリームほか約25種類以上が用意されており、ここでもカスタマイズが楽しめる。
好みに合わせて自由にアレンジが可能な、デザートのトッピングコーナー(写真提供:すかいらーくホールディングス)
こうした「自分で作る楽しさ」を提供することで、単に食事するだけでなく、「体験価値」を重視する若年層の嗜好にマッチ。大きな差別化につながっているのだ。
外はパリッと、中はふっくら焼き上がるワッフル。子連れ客から、とくに大きな人気を誇っている(写真提供:すかいらーくホールディングス)
とはいえ、いくら魅力的なカスタマイズと体験があっても、若年層の財布事情に合わなければ支持は得られない。そこで第3の戦略が重要になる。それが、料金と時間設定だ。
しゃぶ葉では、ランチで60分食べ放題1539円~、ディナーで100分食べ放題1979円~と、しゃぶしゃぶにしては手頃な価格設定がなされている(価格はいずれも税込み/都市部店舗では価格が異なる)。
また、平日限定で食べ放題は開店の10時または11時~16時まで(※14:40以降の入店の注文は80分制)時間無制限で食べられる。これが、時間に余裕のある学生にとって大きな魅力となっているそうだ。
平日ランチメニューのひとつ、「国産牛 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」3189円。肉は国産牛、牛みすじ、牛肉、筑波あじわいポーク、豚バラ肉、豚肩ロース、鶏肉が食べ放題。新鮮野菜、サラダに加えて、うどん、ラーメン、ご飯、カレー、デザートも(写真提供:すかいらーくホールディングス)
学生の多くは、食事後も店内に長く滞在し、友人と談笑しながらデザートを楽しんでいる。時間を区切らない戦略が、彼らの「居場所」としての価値を高め、リピート率向上につながっているわけだ。
この価格競争力の源泉は、もちろん、すかいらーくグループ約3100店のスケールメリットと調達力にある。
「すかいらーくグループは自社にバイヤーがおり、時期ごとに適した産地から目利きして食材を調達しています。それらを複数ブランドで共通化することで、他社にはできない仕入価格を実現しています」
平日ディナーメニューのひとつ、「国産牛 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」3849円。さきほどのランチメニュー「国産牛 しゃぶしゃぶ食べ放題コース」に加えて、つくね、握り寿司も食べ放題に(写真提供:すかいらーくホールディングス)
ところで、いくら価格が手頃でも、しゃぶしゃぶの生命線である肉のおいしさが伴わなければ客は離れていくものだ。その品質と安全性については、独自の取り組みが行われている。
鮮度を保つため、塊で仕入れた肉を店舗でスライスして提供する方式を採用しており、これを「肉マイスター」と呼ばれる社内資格制度が支えているのだ。
肉マイスターは、肉の知識や取り扱いの高いスキルを持つ「達人」の称号で、スライス作業の速さから、厚さ・盛り付けなど見た目のきれいさ、衛生管理の知識まで、厳しい基準をクリアしなければなることはできない。現在は全国に約100名が在籍しているそうだ。
専用のスライサーで肉をスライスする肉マイスター(写真提供:すかいらーくホールディングス)
そうして、「肉マイスター」を育てて肉の品質を担保する一方で、効率化も進めている。たとえば、近年「ガスト」ほかグループ内で導入が進む配膳ロボットを導入。配膳はほぼロボットが行うため、人手不足対策になると同時に、人間の負担も軽減している。加えて、そこで生まれた余裕を客への目配りや教育に投資することで、より良い店づくりに努めているのだ。
スタッフのモチベーション維持にも工夫を凝らしている。土日や繁忙期に働いたスタッフには、「すかいらーくポイント」を付与。溜まったポイントはすかいらーくグループの店で飲食する際に使える。従業員からは「やる気が出る」と好評を博しているそうだ。
配膳にやってきたネコロボ(筆者撮影)
店舗運営の工夫に加えて、しゃぶ葉のユニークな点は、顧客との関係構築にもある。特に注目すべきは、2023年6月に発足した「おやさい学校 しゃぶしゃ部」というファンコミュニティの存在だ。
このコミュニティではメニュー開発への提案・提言が行われており、「だし開発」に特化したプロジェクトもスタートしている。フェアテーマに合わせた新だしのアイデア創出や、出てきたアイデアに投票したり、ランキング付けしたりをファンが担っているのだ。
一部のメンバーは本部を訪れ、試作しただしを試食。意見したり、おすすめのアレンジなどを提案しているという。
「おやさい学校 しゃぶしゃ部」出汁開発プロジェクト 試食会の様子(写真提供:すかいらーくホールディングス)
このように顧客を巻き込んだ商品開発は、ブランドへの帰属意識を高めるとともに、SNSを通じた自発的な情報拡散にもつながっている。
「お客様が多くのアレンジレシピをSNSに上げてくださり、新しい食べ方の発見・共有をしてくださっています。お客様に育てていただき、成長させていただいております」と手応えを語った。
ここで少し、しゃぶ葉の歴史を振り返りたい。
その原点は2007年、横浜に開業した1号店にある。当時、しゃぶしゃぶといえば「敷居の高いイメージ」があったことから、「お手頃な価格で、より多くのお客様にしゃぶしゃぶの楽しさを知っていただきたい」と、主にファミリー層をターゲットにした業態開発がはじまったそうだ。
その最中に、「外食でしか味わえない体験を求められるお客様が増えている」という市場変化にも着目。だしやたれ、新鮮な野菜や薬味をバイキングスタイルにして「自分好みの味」にアレンジできるだけでなく、ワッフルやソフトクリーム、綿あめやクレープなど「作る体験」を重視した「食のアミューズメントパーク」としてのポジショニングを明確にしていったのだ。
クリームやフルーツを使ってアレンジしたクレープ(写真提供:すかいらーくホールディングス)
昨今のしゃぶ葉の売上高推移を見ると、着実な成長軌道に乗っていることがわかる。売上高は2018年の291億円から、2023年には419億円へと大幅に伸長。2024年には500億円を超えた(同社への取材による)。
コロナ禍の2020年、2021年は一時的に落ち込んだものの、その後は急回復。冒頭に述べた通り、現在は全国に300店舗を展開するまでに成長した。今後についても、「全国の皆様に豊かな食体験をお届けできるよう、出店を進めてまいります」と、積極展開に意欲を示している。
しゃぶ葉 渋谷井の頭通り店(写真提供:すかいらーくホールディングス)
しゃぶ葉の成功の背景には、いくつかの重要な要素が絡み合っている。第1に、「敷居が高い」というしゃぶしゃぶのイメージを覆し、カジュアルな形で提供したこと。第2に、単なる「食事」ではなく「5万通り以上」というカスタマイズ性を前面に打ち出したこと。第3に、「自分で作る」というデザートの体験価値を重視したこと。そして第4が、すかいらーくグループのスケールメリットを活かした価格競争力だ。
ゼリーの素を使ってプリンも手作りできる(筆者撮影)
とりわけ「カスタマイズ性」と「体験価値」は、従来型の飲食店とは一線を画す特徴であり、SNSを通じた自発的な情報拡散を促す要素にもなっている。顧客自身が「自分だけの食べ方」を見つける楽しさ、そして、それをSNSで共有することで得られる帰属感。この循環が若年層を中心とした熱心なファン層を生み出し、業績を押し上げているのだ。
「食のアミューズメントパーク」というコンセプトが単なるキャッチフレーズではなく、明確な戦略とそれを支える仕組みとして機能している点が、しゃぶ葉の成功要因といえそうだ。
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(笹間 聖子 : フリーライター・編集者)

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