40代、50代でも珍しくない「突然死」最大の原因

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40代、50代の突然死の原因と対策について解説します(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
中山美穂さんが54歳で亡くなられました。60歳を超えた筆者からすると50代という年齢はまだまだ若く、残念でなりません。
しかしながら、データから見ると40代~50代の突然死はそう珍しいともいえません。
例えば50代に関しては、後述する監察医データでも東京23区では2022年に年間1027人が病死および自然死で亡くなっていて、これは全世代合計の1万1130人の1割弱にあたります。
同年の交通事故死132人(東京都、全世代合計)と比較しても、とても大きい数字であることがわかります。
特に、突然死が冬場には多くなることが知られています(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

突然死に関しては、この東京都監察医務院のデータが参考になります。
このデータの基になる監察医制度とは、不慮の死に関して死亡原因を医学的に究明し、公衆衛生に役立てるため、終戦直後にGHQの指導で作られたものが存続しています。この制度の中で死因不明の死体を検案、解剖することがあります。
本制度は、東京都23区のほかには数都市(大阪、横浜、名古屋、神戸)に限られますが、教訓的なデータが数多く含まれています。
このデータから40代、50代を抽出してみると、循環器疾患、特に虚血性疾患(心筋梗塞、狭心症)による死亡が多く、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)などが目立ちます。

突然の体調変化のベースには、循環器、なかでも心臓の関与があるケースが多いです。
出血の要因になる高血圧はもとより、不整脈、虚血などの急激な変化も生死に直結します。虚血というのは少し難しい言葉ですが、寒さやストレスなどが原因で血管が収縮し、血管の供給がうまくいかなくなって、血液が足りなくなってしまう状況をいいます。
ほかにも、喫煙や過度な飲酒、ストレス、睡眠障害などは大きなリスク因子ですし、暴飲暴食、不摂生によるメタボ体型や、自分の健康に対する過信(健診に行かない、健診の指摘事項を無視する、など)も、忙しい現代人にははまりがちな陥穽です。
ところで、お風呂場や寝室で亡くなるケースは、意外と多いものですが、医師からするとまったく驚きではありません。というのも、風呂場は安全な場所などではないからです。
入浴時や睡眠中の死の背景には、先の虚血性疾患や脳血管障害などによるものが考えられます。当たり前ですが、服を脱いで冷気にさらされたり、40℃以上という体温からかけ離れた温度に設定されたお湯につかったりすることは、場合によっては突然死のリスクになりえます。
特に日本の家屋は、風呂場や脱衣所の温度がほかの部屋より低くなっているケースも少なくありません。
著者も住んでいたことのある東北地方などは典型的ですが、暖房を重視しない家屋も多いので、そういう場では、温度変化による心臓、血管への負担が一時的に、しかも一気に高まります。この負担が心筋梗塞や不整脈につながるのです。
マンションなど都会型の生活では、極端な寒暖差に見舞われることは一見多くないものの、ふとしたタイミングで寒い思いをすることはあると思います。入浴を軽く考えずに、“命を預けて入る”という意識を持っていただければと思います。
同様に、お酒を飲んだ後や、睡魔に襲われるほどの疲労の蓄積があるときの入浴は避け、薬(睡眠薬や抗不安薬などのわかりやすい薬だけではなく、かぜ薬やアレルギー薬でも眠くなる成分が入っていることが多い)を服用したら風呂に入らないというような基本は、必ず守ってほしいです。
こういう話で特に気になるのが、1人暮らしという要因でしょうか。
昨今は、60代以降の独居世帯が注目されていますが、1人暮らしの40代、50代も少なくありません。この事実を踏まえて突然死を考えたときに、やはり人と連絡が取れないことが生命リスクを増大させている面は無視できません。
発見者を見ても、家族が一番多いわけではなく、知人が家族の数を超え、行政による発見も少なくありません。

やはり倒れてからすぐに見つけてもらえるかが、大きなカギとなります。
数として多い心筋梗塞の場合を考えてみます。
発症してから6時間といわれるいわゆる「ゴールデンタイム」のうちに病院で治療が開始できるなら、救命できる確率は9割を超えるとされています。発症後4~5時間以内なら血栓溶解療法(tPA)、その後も数時間はカテーテルを用いた血管内治療など、積極的治療の選択肢が残っています。
1人暮らしだと、この「ゴールデンタイム」を逃してしまう危険が増えるということなのです。
突然死は入浴時のほか、就寝時にも見られます。1人暮らしの方、また家族と暮らしている方でも入浴時、就寝時における対策として、筆者が以前からお伝えしているのは、スマートフォンをつねに持っておくこと。そして、フル充電しておくことです。
入浴時には、できれば浴槽までもっていってほしく、それが難しくても、すぐ手に取れる場所には置いておいてほしいと思っています。
入浴時間がつい長くなりそうという方は、持ち込んだスマホを使って、タイマーをセットして出る時間を決めておくのもいいと思います。お湯もあまり熱くしすぎず、40℃くらいまでにとどめると、体への負担は少なくなります。
また、心筋梗塞、脳梗塞などによる突然死の背景に脱水があることも多いので、その予防としては、浴室や寝室に水分を持ち込むこともお勧めしています。
入浴前や就寝前にコップ1杯の水を飲んでもいいでしょう。このタイミングで水分の摂取することは、血液の濃度を薄くし(いわゆる血液サラサラ状態)、血管や腎臓の負担を和らげるという直接の効果も期待できます。
夜中にトイレに立つのが嫌で水分を控えている、という高齢者の話をよく聞きます。そちらも気になるのはわかりますが、脱水のリスクもちゃんと考えてほしいところです。
突然死対策として必要な「スマホ」と「水」(写真右:Luce、左:Graphs/PIXTA)
さて、万一、あくまで万一ですが、ご家族や知人が倒れていた、あるいは息をしていないことがわかった後の対処法について、お話しします。
人が死んでいるかどうか――この判断はとても難しいです。ですので、その場に遭遇したら、躊躇なく救急車を呼んでください。もちろん、かかりつけ医がいて、すぐに連絡を取れるのであれば、それが理想です(心臓マッサージなどをするなどの方法もありますが、今回は触れません)。
亡くなっていることが確実な場合には、救急隊員は何もできません。救急車は生きている人、生きている可能性のある人しか対応、搬送できないと決まっているからです。
その場合は、警察が呼ばれることになり、それ以降のさまざまなことは警察が対応することになります。剖検、つまり解剖をするのかしないのかも、亡くなり方が自然であるかどうかを判断して、警察が決めます。
冒頭でお伝えしたとおり、これからの季節は突然死が増えます。
だから、自分の体が発信するSOSサインと早めに感じ取ることも大事。そのためにも、小さな異常や「あれ?」っと思ったことはそのまま放置せず、かかりつけ医や会社の産業医などに相談してみてください。
例えば、胸のあたりの違和感があったら狭心症が疑われますし、急に手に力が入らなくなったら脳梗塞や神経の異常が起きている場合もあります。とにかく、普段とは違う状況があれば、放っておかないことです。
若くして突然、亡くなってしまうのは、周囲の多くの人に深い悲しみをもたらします。もちろん防ぎきれない死もありますが、突然死のなかには予測できうるもの、予防できるものもあります。だからこそ正しい知識と、行動で、自分の身は自分で守ることが大事なのです。
(奥 真也 : 医療未来学者・医師)

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