海外でもPBが話題の「業務スーパー」…世界中で売れてる「あの商品」の意外すぎる人気のワケ

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業務用食材をはじめ、自社グループ製造のオリジナル商品や世界中から直輸入した商品を低価格で提供する「業務スーパー」、通称“業スー”。
フランチャイズ加盟店は全国1077店舗(’24年9月末時点)まで拡大し、売上高は右肩上がりで増加。運営元の神戸物産の発表によると、’23年11月~’24年4月の連結決算では、純利益が前年同期比約36%増の約123億円に。上半期としては過去最高を記録した。
そんな業スーが、海外にも進出していることはあまり知られていない。ベトナムでは全域に14店舗を展開。香港とマレーシアにはそれぞれ2店舗を有する。また、タイ、シンガポール、カンボジア、米国、ニュージーランドなど、商品だけ輸出している国もあるという。
海外の業スーは日本の業スーとどう違うのか。どんな商品が売れているのかーー。
神戸物産の海外事業部担当役員である西田聡さんに話を聞いた。
海外店舗第1号店がベトナムにオープンしたのは’19年。以降、店舗を増やすも、コロナ禍の厳しいロックダウンで閉店を余儀なくされた。
しかしコロナ収束後に完全復活。現在はハノイ市、ダナン市、ホーチミン市などで計14店舗を展開する。とはいえ「ベトナムはようやく軌道にのったところ。海外事業はまだ実験段階にあります」と西田さん。そのため、海外店舗の情報はHPで一部見られるものの、詳しいことは公表してこなかった。
そもそも海外店舗は直営ではなく、国内のようなフランチャイズ形式でもない。ライセンス契約(大義では商標権や特許権などの知的財産権の使用を許諾する契約のこと)の形式で現地のパートナー企業が運営にあたっている。
「フランチャイズ契約では、FC加盟店に経営ノウハウを提供するのが一般的ですが、海外の場合、国民性や宗教などさまざまな違いがあり、日本の経営手法をそのまま持って行くのは極めて難しい。現地に暮らす人に任せるべきとの判断から、ライセンス契約という形をとることにしました」(西田さん・以下同)
店舗の看板は香港では『業務スーパー』、規制があって日本語表記ができないベトナムとマレーシアでは、『GYOMU Japan』と表記する契約で、商品は神戸物産が提供し、日本から輸送している。
気になるのは業スー最大の魅力である“リーズナブルな価格”だ。海外でも「安さが魅力」と言えるのだろうか。
「現地のパートナー企業は、もともと日本の業務スーパーに好感を持っている方々で、当然ながら『エブリデーロープライス』『いい商品をより安く』といったコンセプトについても理解と共感をいただいています。
その上で、海外においても、弊社が提供する商品に関してはどこよりも安い価格で販売してほしいとお伝えしていますので、その点はしっかり守っていただいています。
ただ、輸入コストや関税がかかるため、日本で100円の商品が、現地では200円~300円になってしまいます。また、国ごとに年収も異なりますから、価格の捉え方にも大きな差が生じます。
香港人の平均年収は日本と大差ありませんが、ベトナム人は50万円前後。月5万円ほどですから、業務スーパーの商品は高級品です。現地の人にとって業スーは “高級スーパー”ということになり、日本人が業務スーパーに抱くイメージとはだいぶ違うかもしれません」
また、業スーは、“割安感”の演出や従業員の作業効率を上げる策として、商品を箱に入れたまま陳列する“箱陳”が特徴だが、そのあたりの事情も海外では異なるという。
「海外店舗では、商品はほとんど棚に陳列しています。箱を積み上げるほど一つの商品が売れるわけではないので、棚に並べるほうが売り場効率はいいのでしょう。また、“高級スーパー”のイメージのため、割安感の演出は求められていないのだと思います。
とはいえ、天井から販促物をぶら下げたり、店頭に業務スーパーののぼりを出したりといった仕様は国内と同じですし、棚割の確認も事前にさせていただき、違和感があれば修正もしてもらっていますので、業務スーパーをよくご存じの方が違和感を抱くようなことはないと思います」
客層は、価格が高くても質のいいものを求める“ミドルアッパー層”が中心だ。
「ベトナムの場合、韓国や中国人などアジア系のお客様も多いのですが、最も多いのは現地に暮らすベトナム人のお客様です。また、日本で度々購入していたオリジナル商品を求めて足を運ばれる日本人のお客様もいらっしゃいます。
現地の方は、業務スーパーの“業務”についてはおそらくご理解いただいてないと思うのですが、近くに日本食レストランや中国、韓国の飲食店がある店舗では、お店の方が食材の仕入れに利用されるケースも。でも、多くを占めるのは一般のお客様ですね」
商品は日本の業スーで販売されているものと変わりはなく、冷凍食品や調味料、缶詰、自社グループ製造の冷凍デザートやレトルト食品、瓶詰めなどおなじみの商品が並べられている。
パートナー企業が独自に仕入れた商品も販売されているが、7~8割が業スーの商品だという。
業スーは、国内外にある自社グループ工場で製造したオリジナルのPB商品を数多く揃えており、業スーファンからの根強い人気を誇っているが、海外でもPB商品への評価は高い。
売れ筋商品も然り。最も売れるのは日本の自社グループ工場で製造している「冷凍讃岐うどん」と「銀の胡麻ドレッシング」。また、「鍋の素」も通年で人気が高い。
「店舗展開している国以外にも、商品だけ輸出している国も含め、すべての国で最も売れているのが、『冷凍讃岐うどん』なんです。うどんは世界中に浸透しているようで、外食でも家庭でも使われている食材であることと、値段的にも品質的にも評価をいただいたということだと思います。
また、店舗があるベトナム、香港、マレーシアの場合は、一年中、鍋を食べる“鍋文化”がある国。自ずとうどん人気は高くなり、『鍋の素』もよく売れる。なかでも“鶏白湯しょうゆ鍋”や“寄せ鍋”が人気です。
海外でも鍋の素は日本食を扱うスーパーなら大抵手に入りますが、多くがナショナルブランド(NB)。弊社が販売する鍋の素は自社グループ製造ですから3~4割は安く買えると思います。
『銀の胡麻ドレッシング』はサラダのドレッシングに使用するというよりは、しゃぶしゃぶのタレのように“ディップソース”として使う方が多いようです。そのためか、ほかにもドレッシングには青じそやシーザーなどあるのですが、銀胡麻が圧倒的に売れています」
またOEM商品の「冷凍の納豆」、1リットルボトルの「醤油」や「うまみ調味料」といった調味料類。意外なところでは「食用油」も人気だとか。日本製でありながら安いことが売れている理由だと分析する。
「例えばイタリア産のパスタソースなど弊社が自社輸入した海外製のPB商品も安定的に売れてはいるのですが、やはり人気は日本で製造している商品。“日本の食は安全”といったイメージが強いことも理由だと思います。
とはいえ海外製の商品が売れないというわけではなく、“業務スーパークオリティ”への安心感で買ってくださる方が多いように感じています。
海外店舗で販売する商品には、日本から輸入した業務スーパーの商品であることが認識できるようラベルを貼っていますので、安心してお買い物をしていただけているのだと自負しています」
今後、食文化が異なる海外で店舗展開していくには、「より多くの人に日本の食品を使ってもらうための『食育が必要』」と西田さんは言う。
「例えば“めんつゆ”という調味料は、日本人なら麺を食べる以外にも、炒め物やどんぶりなど、さまざまな料理に使えることがわかります。ところが現地の人には『めんつゆは麺を食べるときに使うもの』でしかなく、ほかの使い道をイメージできません。
いろいろなアレンジが楽しめる日本の食文化を他国でも育て、かつ、SNSでのコマーシャルでブランディングしていけば、さらに販売数を伸ばしていけると思います。食育は今後の課題の一つですね」
ベトナムの場合、パートナー企業が14店舗を運営しており、同社は現地で卸売り事業やオンラインショップ事業も行っていることから、多様なチャンネルを用いて業スーの商品をベトナム全土に広めることができているという。
今後、ベトナムではさらに店舗を増やす予定で、FC展開などさまざまな可能性も視野に入れている。
「弊社の規模では、日本国内でもそうしてきた通り、一度に集客できる大型店舗ではなく、小型店舗をよりたくさん作るほうが合っている。それにはベトナムのような経済成長著しい国で店舗数を拡大していくべきだと思っています。
この“ベトナムモデル”を生かせば、ベトナムの近隣諸国、例えばカンボジアやフィリピンなどでも展開できると思うのですが、まずはベトナムの店舗を増やすことに注力したいですね」
取材・文:辻啓子

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