スマホ認知症とは、スマホを使いすぎて記憶力や集中力が低下し、認知症のような症状が現れること。6月14日、全国で初めての「スマホ認知症外来」が金町駅前脳神経内科(東京・葛飾区)に開設された。
「1日の受診者は10人前後。30代の方が多いです」
こう言うのは、金町駅前脳神経内科の内野勝行院長。
「多くの人は、『人の名前を忘れる』『やるべきことを忘れる』『ぽっかりミスが増えた』など記憶障害に悩んで来院されます。高齢者だったら認知症外来に行けばいいけれど、若い人が認知症外来に行くのはハードルが高い。若い人でも気軽に相談できる場を提供したいと思い、開設しました」
動画やTikTok、YouTube、インスタグラムなどスマホは情報の宝庫。
「スマホをだらだらと見続けていると、脳は情報過多になります。記憶を整理するためには、ボーッとしている時間が大切なのに、その時間がない。
そのため情報が雑多になって、記憶を取り出す作業ができなくなる。脳の中がゴミ屋敷のようになって、その結果、名前が出てこなかったり、約束を忘れたりすることになるのです」
仕事で一日中パソコンやスマホを使うこともあるが、
「目的をもって、主体的に集めた情報なら、自分で処理できる。仕事で使っている分には心配ありません」
中には寝る前に1時間ほどしか見ていなくても、記憶障害が心配で受診する人もいるとか。
「こうした心配をなくすために開設したのですから、『もしかしたら』と思ったら、気軽に受診していただければと思います」
入浴するときも、トイレに行くときも、片時もスマホを手放せないようになると、もはやスマホ依存症。スマホ認知症へ一直線になりそうだ。しかし、内野院長によると、
「漫然と1時間以上見ていることがあればスマホ認知症になる可能性はあります」
症状を改善するためには、とにかくスマホを手放す時間を作ること。だらだら見るのは1日1時間以内にすることだという。
「そばに置くと、つい見たくなってしまう。スマホに起床時間を設定している人もいると思いますが、寝室にスマホを持ち込まない。目覚まし時計で起きるようにするなど、スマホと距離を置く習慣をつけることが大切です」
受診者の中には21時間「だらだら見」を続けている人もいたとか。
「さすがに、まず半分くらいにしましょうと伝えましたが、むずかしそうでした。でも、物忘れの段階で改善させなければ、そのうち自律神経失調症からうつ病になり、その後真性の認知症になる可能性もあります」
記憶の処理に関わるのは脳の前頭葉という部分。脳の中がゴミ屋敷になると、前頭葉の機能が低下してしまうのだとか。
「前頭葉は、思考力の中心であり、意思決定の中枢、さらには状況判断をする、感情をコントロールする働きもあります。前頭葉の機能が低下することで、伝えたいことをうまく伝えられなくなったり、情緒不安定になったり、注意散漫、集中力の低下なども起こってきます」
スマホを長時間見ることでブルーライトの影響を受けやすくなり、それによって自律神経が乱れることもあるという。
内野院長によると、下記のチェック項目のうち3つに当てはまるとスマホ認知症の可能性が高いという。「もしかしたら」と思ったら、受診したほうがよさそうだ。
気軽に受診してほしいとスマホ認知症外来を開設した内野院長だが、実はもう一つ開設した目的がある。
「物忘れで来院されたことがきっかけで若年性アルツハイマーや脳腫瘍が見つかった例もあります」
スマホ認知症と、真性の認知症との違いは物忘れを自覚できるかどうか。真性の認知症の場合は、忘れたことさえ忘れてしまうので、自覚できないのだとか。
「物忘れが多いと他者から指摘されたり、睡眠や食事のリズムが乱れてきたりしたら要注意です」
なんだかおかしいと思ったらスマホから距離を置くことも大事だが、受診したほうが安心なようだ。
▼内野勝行 金町駅前脳神経内科院長。医療法人天照会理事長。薬や検査だけでは対応できない患者に対して、さまざまな角度からの診療を目指している。日本内科学会認定医、厚生労働省認定認知症サポート医、日本医師会認定産業医なども務めている。
取材・文:中川いづみ