「お金は頑張れば普通のサラリーマンの何倍も何十倍も稼げます。ただその分、美味い店に行ったり高い買い物をしたり、あとは旅行とかギャンブル、そういうのにほとんど使ってしまうので、貯金はあんまりないですけど……」
こう語るのは国内最強(最凶)のスカウト組織と称される『ナチュラル』の現役メンバーである。
待ち合わせ場所となったシティホテルの部屋。ソファに座っているのは、一見すると昼間の渋谷や六本木にいそうな普通の20代の若者だった。夜の仕事をしている人物にありがちな隠しきれない独特の雰囲気もなく、言葉遣いは丁寧で人当たりもソフトだ。しかしよく見ると、服装はカジュアルながらもハイブランドで、さりげなくではあるが高価そうな貴金属を身につけている。そして、とにかく異常なまでに周囲を警戒しているのが印象的だった。偽名だとことわったうえで、自らを「佐伯」と名乗った。
「ほんとに、上がうるさいんですよ。こんなふうに外の人と会っているのがバレたら、すぐにコレもんですから」
佐伯はそう言うと、手のひらをグーにして頭を殴られるようなジェスチャーをした。そして、外部から遮断された部屋にもかかわらず、聞き取りにくいほどの小声で組織について語り始めた――。
FRIDAYは3月21日発売号で、大手企業のように組織化されたナチュラルの内部構造や彼らが使用する「闇アプリ」について明らかにした。昨年だけで50億円を売り上げた巨大組織の輪郭は朧気(おぼろげ)ながら見えてきたが、トップをはじめとする上層部の実態や2000人ものメンバーを抱える支配構造など、謎は多かった。
内情を知る現役メンバーに接触しようと取材を進めていたが、もともと情報管理が厳しいうえにスカウトグループに対する最近の警察の包囲網もあってか、誰もが警戒心が強く難航を極めた。そんななか、ある情報を頼りに、数年にわたって組織に在籍する現役メンバー・佐伯にようやく会えることになったのだ。(以下、とくに記述のない「」内の発言はすべて佐伯)
「現役の大学生もまあまあいます。あとは学生時代に組織に入り、卒業後もそのまま仕事を続けているパターンが多いですね。最近はスカウトといっても路上ではなくSNSや紹介で女性を集めることも多く、押しが強い典型的なタイプはむしろ少ないかもしれません。見た目は、キラキラしているビジネスマンのような人もいます。女性の相談に乗りながら一番フィットしそうな風俗店などを提示して話をまとめ、店に送り込むという、内容的には営業職やコンサルみたいな仕事と重なる部分もあると思います」
これまでの取材で、組織内には有名大学の学生や出身者が多く在籍していることがわかっている。早慶をはじめとする東京六大学やMARCH、関関同立クラスの錚々(そうそう)たる学校名が並び、なかにはある大学のサークルのメンバーの多くが加入しているケースもあった。勧誘に際して、組織名は『クリア』などと名乗り、ナチュラルであることは隠すという。
「自分もそうでしたけど、最初は割のいいバイトだなという感じで、あまり深く考えずに入ってくる人がほとんどじゃないですかね。学生で羽振りがいいとモテますし、稼いでいるという優越感みたいなのもありますので。でも組織に入ってある程度時間が経つと、抜けられなくなるんです」
まるで″秘密結社″のごとく内部統制が厳しいナチュラル。内部の連絡用の「闇アプリ」内には、″会社″の決まり事としてさまざまな規則が記された条文のようなものが数多く存在し、「違反した場合は責任を取らせます」とある。
「普段のスカウト業務だけでなく私生活に至るまでいろいろとルールが決められていて、違反すると減給、つまり罰金の処分になります。罰金は小さな違反なら1万円から、重大なものは数百万円まで細分化され、原則として次の月の給料からの天引きになります。ただ、給料の支給額以上に罰金の額が多くなることもあって、そうした場合だと給料はもらえず逆に借金になります。その借金がある限り辞めることは許されませんし、実際に『カネがないなら働いて返すしかないだろう』と言われ、無給の状態でしばらく働かされている人もいました」
ちなみに外部の人間に内部の情報を漏らすことは最大の御法度らしく、規則によると500万円の罰金となっている。
こうした金銭面による締め付けだけではなく、暴力による″恐怖支配″もある。ナチュラルは’23年に、グループのカネを着服したなどとしてメンバーにフライパンで殴るなどの暴行を加えて、全治半年の重傷を負わせる事件を起こしている。被害者は警察に駆け込まないようアパートに何日も監禁され、凌辱的な行為を受けていたという。
このようなリンチは、当事者への制裁だけでなく組織内に恐怖心を植え付けることも目的になっているという。なかには、ルール違反をしたメンバーが数人に囲まれて殴られている様子をあえて目の前で見せられたり、暴行の様子を撮影した動画が回覧されたりすることもある。
「世間的には公になっていないだけで、制裁はそれなりの頻度でありますよ。現場のスカウトとは別に、『本社』の直轄で動く暴力担当みたいなガタイがいい人が何人かいます。その人たちは、『現役』と呼ばれる本職のヤクザの方々とも関係が深い人たちだと聞かされています」
普段、メンバー同士はアプリ内でも偽名を使ってやり取りしているが、組織に入る時に自分の本名や住所を免許証などと一緒に届け出ることが義務付けられている。このため勝手に逃げ出すことはできず、短期間でも連絡が取れなくなると、上司や本社の担当者が家に押しかけて来て「詰められる」ことになるという。
「何かやらかして遠くの地方にまで逃げ出したヤツもいましたが、結局はボコボコになって連れ戻されていました。組織内でも指名手配みたいなシステムがあります。規則を守らずに勝手にバックレると、そこに顔写真や本名が晒(さら)され、全国の支部の人間が見ることになります」
たしかに、入手した闇アプリの内部データの中にも、「指名手配」なる掲示板のようなものがあり、規則違反をして所在不明になっているとして、複数の人物の顔写真や本籍などの個人情報が掲載されていた。
さらに、ルール違反や不穏な行動をしているメンバーを本社に通報する密告制度まであるという。誰かが罰金の処分になると、その金額の半分が通報者に支払われる決まりになっているというのだ。まるで戦時中の『隣組制度』のように、巧みにメンバー同士を相互に監視させる仕組みを作り上げていることに、空恐ろしさを覚えた。
「大学のサークルみたいなノリもあって、仲間意識が強くて結束が固いので、それはそれで楽しいと思うこともありました。でも、いまは恐怖心のほうが強くなっていますね。いつも誰かに監視されている感じで、少しでも組織に背(そむ)くようなことをしようものならすぐにチクリが入るので。勤務時間だけでなく、プライベートの旅行でインスタとかに写真をアップしても、行き先とかをチェックされることがあります。
本当にいい思いをしているのは、現場のスカウト業務をしなくても毎月億単位のカネが入ってくる上層部の一部だけ。周りでも辞めたいけど辞められないというヤツが多いと思いますよ」
女性を風俗店や海外売春などに斡旋することで得られるスカウトバックと呼ばれる報酬は、すべてが現場のスカウトに渡るわけではなく一部は上納される仕組みになっている。このため組織としては下の人数が多ければ多いほど莫大なカネが上に集まることになり、メンバーが辞めるとすなわち収入減につながる。誰かが辞めるとその直属の上司までも責任を問われ、追及が簡単に終わることはない。
日本橋グループ*メディアや官僚、政界、ITなどの出身者で構成される新しい形の取材・情報チーム。国内外の機関と連携し、主に調査報道やドキュメンタリーの制作などを行っている
『FRIDAY』2025年4月18日号より