東急不動産ホールディングス(HD)が運営を担当している『東急プラザ銀座』が香港のファンドに買収された。オープン当時はかなり話題になった商業施設だが、銀座の一等地にありながら、どうしてここは衰退してしまったのか? 現地のいまの様子をレポートした【前編】に引き続き、後編では都市ジャーナリストの谷頭和希氏がその原因を分析する。
というわけで『東急プラザ銀座』の現在の様子をレポートしてきた。では、その苦境の原因はなんだろうか。
それは主に2つある。1つ目が建物の構造の問題、2つ目が施設全体のコンセプトの問題だ。
1つ目について。
『東急プラザ銀座』で感じたのは、建物全体の構造が分かりにくいこと。エスカレーターでは行けない場所があったり、1階のエントランス部分が奥まっていたりと、全体を把握するのが難しい。
前編で私は建物内での回遊性が薄いことを指摘したが、それはこうした建物の構造にも原因があると思う。ある特定の場所が混んでいたとしても建物全体で人々がうろつくことは難しいと思う。
また、『東急プラザ銀座』は入口が狭く、全体としてどこか閉鎖的な印象も与えてしまう。特に銀座のようにウィンドーショッピングを前提とする街では、ファサードと呼ばれる建物の前面の部分が広く、通行人にとって開かれていなければ入りにくい。
外から見て入口だと分かるのは一本のエスカレーターぐらいで、ふらりと外を歩いていて中に入ろうとはなかなか思わないのではないか。黒いフォルムはシックでかっこいいが、それが逆に人を遠ざけてしまっているような気もする。
2つ目は、施設全体のコンセプトの分かりづらさだ。
館内を歩いていて気付くのは、館内のテナントのどことない統一感のなさ。
1階や2階は『BOSS』や『バレンシアガ』のようなブランドショップが入っているが、3階以降は雑多なショップが立ち並ぶ。中には整体の店があったり、突然パーソナルジムがあったりする。また、地下はどちらかといえば普段使いできるレストランや喫茶店が入っており、全体としてこの施設がどんな施設なのかイメージがしづらい。いじわるな言い方をすると「どこぞの雑居ビル」みたいな感じで、建物全体としてのコンセプトが分からないのだ。
人口減少が進む一方で新しい商業施設が増えるなか、新しい施設には独自のカラーが求められる。『東急プラザ銀座』はそんなカラー作りに失敗しているように感じられる。
カラーがないことは、訪日観光客の減少につながる。
銀座は『東急プラザ銀座』以外にも観光客を惹きつけるコンテンツがたくさんだ。特に商業施設でいえば、『銀座三越』や『松屋銀座』などの老舗百貨店が強く、特に『銀座三越』はインバウンドに支えられて好業績を叩き出している。逆にいえば、インバウンドからしたら銀座での買い物は「百貨店」というイメージが付いている。
参考程度にしかならないが、旅行サイト『TripAdvisor』の口コミ数は『歌舞伎座』が1028件、『銀座三越』が506件、『GINZA SIX』が438件に対して、『東急プラザ銀座』は200件ほど。ちなみに『ユニクロ銀座店』が481件なので、訪日観光客にしてみれば『東急プラザ銀座』は観光地としてあまり意識されていないことがよく分かる。
これらの2つの理由から、インバウンド観光客だけでなく、国内の人々にとっても需要を喚起しない建物になってしまったのが『東急プラザ銀座』なのではないだろうか。
前編で書いた通り、『東急プラザ銀座』は香港の投資ファンドに買収されることになった。このようなガラガラの状況であれば当然といえるが、香港のファンドは「新たなテナント構成と一貫性のあるコンセプトを備えた、これまでにない活気ある商業施設として刷新し、新たなリテールのハブへと変革していく」とコメントしているらしい。
ここでの「一貫性のあるコンセプトを備えた」というコメントは、まさに先ほど私が指摘した施設の問題点を捉えているといえそうだ。建物自体の構造はいかんともしがたいが、その中に入るテナントについてはいくらでも検討の余地がある。
香港の会社による『東急プラザ銀座』の変革は、名称も変更されて’26年から始まるという。その時、この施設が新しい銀座の顔となるのかどうか。期待して待ちたいと思う。
取材・文・写真:谷頭和希都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材等を精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ニセコ化するニッポン』『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネス、文春オンラインなど、さまざまなメディアにて記事・取材を手掛ける。メディア出演に『めざまし8』(フジテレビ)や『Day Day』(日本テレビ)、『Abema Prime』(Abema TV)、『STEP ONE』(J-WAVE)などがある。