《「日本の全てのダサいをなくしたい」フランス留学中にそう思いました》──折田楓氏はnoteで、自身の原点をそう説明した。折田氏は2017年5月、兵庫県西宮市に「株式会社merchu」を設立。merchuは「メルチュ」と読む。この頃、斎藤元彦・兵庫県知事は総務省のキャリア官僚で、自治税務局に勤務していた。
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merchuは公式サイトで事業内容を《SNSやWebを活用したオンラインでのブランディングやマーケティングを軸に、プロデュースやプロモーションなどを手がけます》と説明している。大手メディアはPR会社と記述しているようだ。折田氏のnoteによると17年の設立時から順調に仕事を受注し、merchuは急成長を遂げたという。
だが2020年3月ごろからコロナ禍が日本を本格的に襲いかかり、政府は4月に緊急事態宣言を発令。merchuの顧客だった飲食店やホテルの契約が軒並み解除となり、折田氏は《案件の4分の3が民間企業、4分の1が行政という割合》を変更し、行政案件を中心に据えることを決断した。
翌21年3月に斎藤氏は総務省を退職し、兵庫県知事選への立候補を表明。同じ3月にmerchuは兵庫県から「成長期待企業」に選定された。7月の投開票で、斎藤氏は初当選。同じ7月に折田氏は県地域創生戦略会議の委員に就任する(註1)。2人の動きはまるで軌を一にしているように見えるが、この時点では偶然の要素もあっただろう。
だが、折田氏は22年に兵庫県eスポーツ検討会の委員に、23年には県空飛ぶクルマ会議検討会の委員に就任した。こうなると斎藤氏がトップである兵庫県と折田氏は“密接な関係”を結んだと指摘されても仕方ないと言える。
今年3月に斎藤氏のパワハラ疑惑などが浮上。9月に県議会が知事の不信任案を可決すると、斎藤氏は議会の解散ではなく自動失職を選択した。11月17日に出直し知事選の投開票が行われ、斎藤氏は再選を果たす。
11月20日、折田氏はnoteに「兵庫県知事選挙における戦略的広報:『#さいとう元知事がんばれ』を『#さいとう元彦知事がんばれ』に」との記事を投稿。出直し知事選に関する広報全般を斎藤氏に依頼されたと主張した。
その記事では選挙戦の舞台裏、特にSNS戦略の実情がリアルに明かされたのだが、なぜ、これほど包み隠さず率直に書いたのか。その理由の一つとして折田氏は《東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたい》と説明している。
折田氏の記事は公開後「公職選挙法に抵触する可能性がある」と問題視された。そのため記事には修正が加えられた。11月28日現在、noteで公開されている記事は20日に配信された内容とは一部が異なっている。この記事は修正前の記事を元に話を進める。
noteの記事で折田氏は自身が有識者として県の委員を務めていたことから、もともと斎藤氏とは面識があったと主張している。
出直し知事選に出馬する斎藤氏は《政党や支持母体などの支援ゼロ》で戦わざるを得なかった。そして彼は《とある日、株式会社mercheのオフィスに現れた》という。
この記述が事実だとしたら──本当に事前の電話連絡やメールでの相談もなく、ふらりとオフィスを訪れたのなら──ひょっとすると斎藤氏は“わらにもすがる”思いで折田氏の元を訪ねたのかもしれない。
選挙コンサルタントの鈴鹿久美子氏は“勝たせ屋”の異名を持つ。政治家育成、国会議員秘書の人材育成なども手がけながら、これまで立候補した100人以上の“政治素人”を当選させており、その勝率は88%だという。
鈴鹿氏に折田氏のnoteにどのような感想を持ったのか話を聞くと、「公職選挙法に関する知識が欠如した状態で執筆されたのは明らかです。ちょっと驚きました」と言う。
「意外に指摘されていませんが、折田さんが主張する“広報全般”の業務内容が公選法に抵触するかどうかは、告示日の前なのか後なのかという点も非常に重要です。極端に簡略化して説明すると、折田さんの業務内容が告示日の前で全て終わっていれば、これほど問題視されることはなかったと思います。法曹や政治の専門家が『noteの記述が事実なら、公選法や政治資金規正法に抵触する疑いがある』と指摘しているのは、折田さんが告示日の後でも、報酬の発生する業務として広報の仕事を行っていたという疑いを持たれる可能性があるからです」
11月25日、斎藤氏は出席した全国知事会が終わると、報道陣の取材に応じた。折田氏のnoteについて質問されると、公選法に抵触する事実は「ないと思っている」と否定し、merchuには「ポスター制作しか頼んでいない」と反論した。
「確かに選挙コンサルタントの仕事でポスターの制作は重要な業務です。候補者のイメージを、髪型や表情、服装を専門的な観点から決定し、専門家集団のチームで進めます。策定されたコンセプトの元、カメラマンが撮影してデザイナーがポスターに完成させます。ただしこの前提として、デザインのコンセプトを固めるためには、どういう選挙戦を展開し、どんな主張を訴え、何を争点にするかを明確化する必要があります。選挙戦のグランドデザインを正しく描くことで、ポスターや政策ビラなどを、効果的な戦略アイテムとしてのデザインを決めることができるのです」(同・鈴鹿氏)
折田氏のnoteにも、斎藤氏の写真を撮影し、選挙戦のコピーやメインビジュアルを策定し、それに基づいてポスターやチラシ、選挙公報などを作成したと記されている。
鈴鹿氏の場合も選挙のグラウンドデザインを決める過程において、選挙戦での主張や争点、演説の内容、演説での喋り方、演説での表情、政策ビラの文面、候補者のキャッチコピー……など、ありとあらゆる分野で提案、指導を行う。
ただし、鈴鹿氏は全ての業務を告示日の前に終える。公選法は選挙期間中の応援は無報酬が原則とし、事前に選挙管理委員会に届け出を出したウグイス嬢、手話通訳者、事務員などしか例外を認めていない。
「折田さんは公選法に関する知識がなかったと考えられます。選挙関連の業務は告示日の前に全て終え、告示日の後はボランティアの選挙スタッフに委ねるのがセオリーなのです。もし折田さんが本当にボランティアとして斎藤知事を支えていたとしても、仕事として業務を継続していたのではないかと誤解されるのは仕方がないのではないでしょうか。選挙を知っている人、例えば市議会議員の方などでも一人でも傍にいてアドバイスをしてくれていたら、こんなことにはならなかったのではないかと思うと、気の毒に思います」(同・鈴鹿氏)
先に見たとおり、折田氏は有識者として県の委員を複数、務めている。委員は公正や中立が求められるはずだ。その委員が県知事選において特定の候補を積極的に支援することは、たとえボランティア活動だったとしても問題があると言えるのではないだろうか。
折田氏はnoteの記事で「斎藤氏のX本人アカウント、X公式応援アカウント、Instagram本人公式アカウント、YouTube」──以上、4つのSNSや動画サイトなどで運営に関わっていたと明記。《私のキャパシティとしても期間中全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修できるアカウント数はこの4つが限界でした》と説明している。
引用した上の一文で《期間中》とあるのは、「知事選の期間中」の意味だと受け取るべきだろう。告示日の後も含まれると解釈するのが通常で、折田氏がSNSの管理・監修で報酬を得ていたとしたら完全に公選法に抵触する。だから斎藤氏は「SNSは自分たちが主体的に運営し、折田氏はボランティアで参加していた」と反論しているわけだ。そう反論するより他に方法がないとも言える。
ちなみに折田氏はnoteでSNSや動画サイトなどの管理・監修における具体的な業務内容として、次のように説明している。
《私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました。写真および動画の撮影については、現地で対応してくださっているスタッフの方々にお願いすることをベースに、私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました》
果たして、【1】これほどの激務を本当にボランティアとして“手弁当”で行ったのか、【2】ボランティアが事実だったとしても後に見返りを求めるなど何か思惑があったのではないか──折田氏の記事に対する根本的な疑問は、現時点では以上の2点に集約されるだろう。
ちなみに鈴鹿氏の元にも「ネット戦略やSNSの運用も引き受けてほしい」という依頼は非常に多いという。
「私は基本的にお断りしています。折田さんは4つのアカウントの運営を行っていたようですが、noteに書かれていたように大変な激務です。私のキャパシティでは無理だと考えていますし、たとえネット戦略の方向性を取りまとめたとしても、告示日の後は全くタッチできないという現実があります。選挙コンサルタントの中には告示日までにSNSやネット戦略などの準備を全て終え、ボランティアスタッフが運用可能な状態にして、告示日の後は全くタッチしないというやり方で引き受けている人もいます。ところが折田さんの場合、noteにあるように告示後も《私自身も現場に出て撮影やライブ配信》を行っていたと書かれていたので驚かれたのですよね」
特に話題を集めているのは選挙戦の最終日だ。折田氏は選挙カーの上に立ってスマホを手に持ち、斎藤氏が演説する様子などをネットでライブ配信した。
「選挙カーの上に一般の人を立たせることは極めて危険です。選挙中は、選挙事務所であれ選挙カーであれ、どんな人が近づいてきても拒否することは難しく、手も愛想も振りまくのが原則です。でも、選挙カーの上だけは、誰でも乗せることはしません。そこには候補者がいますし、高いところから周囲に集まった支持者や聴衆を見下ろすこともできます。もし、悪意のある人が、そこに乗ってきたら、これらの人を危険にさらすことになってしまいます。ですから、選挙カーに近づくことができる人は、選対内部の信頼できる人だけに限定されます。安全を期するには、こんなことにも細心の注意を払うのが事務局の大切な仕事の一つです」(同・鈴鹿氏)
斎藤氏や折田氏は今後、ボランティアだったという主張を押し通すことで、公選法違反を逃れようとするのだろう。だが、これで問題は一件落着となるのだろうか。
次に政治資金規正法の問題が浮上する可能性も指摘されている。斎藤氏の代理人弁護士は11月27日に神戸市内で記者会見を開き、merchuの請求書を公開。そこには計71万5000円分の内訳が記載されていた。
「支援者の方が候補者に『空き家があるからタダで貸すよ。選挙事務所に使えるよ』と声をかけることはよくあります。家賃が無料でも極端に安くても寄付行為に該当しますから、政治資金規正法に抵触する可能性も出てきます。ただ選挙コンサルの世界で『契約額が高いか安いか』を判断する基準額は存在しません。今はカメラが良ければポスター用の写真は撮れますし、デザインをするアプリも沢山あります。ですからいくらだったら高い安いと単純には言えません。ただ、その写真を撮影するコンセプトを追求すればするほど、プロの手は必要になります。そうなると、費用が上がってくるのは当然のこと。ここでその70万円が高いか安いか妥当かどうかは、今後内容が明らかになってから判断されることだと思っています」(同・鈴鹿氏)
神戸新聞NEXTは11月27日、「PR会社の書き込み『事実異なる』 斎藤知事代理人 70万円は口頭契約、内訳5項目も説明」との記事を配信した。
斎藤知事の代理人弁護士は神戸新聞の取材に対し、「ブログ(註:折田氏のnote記事のことを指す)は事実と異なることが記載されている」と説明したという。これを受け、一部の識者は「知事という公職にある斎藤氏は自らの疑惑を晴らすため、折田氏に名誉毀損などの訴訟を起こすべき」と指摘している。
「折田さんのnoteを拝読し、驚いたというのが率直な感想です。政治の世界には『秘書の秘は秘密の秘』という言葉があります。議員事務所で知ったことは、秘書には守秘義務があるという意味です。選挙スタッフは黒子です。裏側を支える人が選挙戦の中で目立っていて良いことなど何一つありません。自分の背中を守ってくれるという信頼がなければ、選挙は戦えませんから」(同・鈴鹿氏)
註1:兵庫県庁に電話で問い合わせた際の回答
デイリー新潮編集部