中絶すると約束したのに、やっぱり出産するので認知してほしいと言われ困っている──。男性からのこんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
元恋人の女性から、別れた数週間後に「妊娠している」との連絡が男性にありました。すでにやり直しは不可能だとして、「女性の求める金銭を男性が支払い、女性は中絶する」旨の合意書を作成し、男性は求められた金銭を支払いました。
ところが数カ月後、女性側から「やはり出産することにした。認知と養育費をお願いしたい」との連絡がきました。中絶が可能な週数はすでに過ぎているとも伝えられました。
男性は「まだ無事産まれるかわからないのに、今認知する必要はあるのか」とモヤモヤしているそうです。また「中絶しなかったのに費用が返されていない」ことにも憤っているようです。身勝手な理屈にも思えますが、法的にはどうなのでしょうか。理崎智英弁護士に聞きました。
──妊娠している女性からお腹の子の認知を求められた場合、男性側にはどのような対応が考えられますか。
男性側の対応として、次の(1)~(4)の選択肢が考えられます。
(1)元彼女の求めに応じて胎児認知する(2)胎児認知しない(3)女性が子を出産した後に認知をする(4)女性が子を出産した後に認知をしない
男性が、そもそも自分の子ではない可能性があると考えているのであれば、認知はせず、DNA鑑定を行ったうえで、その結果を踏まえ、認知するかどうかを検討するということになると思います。
──中絶することを内容とする合意書はそもそも有効なのでしょうか。
子を出産するかどうかは女性のみに決定権がありますので、仮に、女性が中絶することを約束したとしても、そのような約束は無効です。
そのため、男性としては、女性に対して、合意書に基づき中絶することを求めることはできません。
──中絶の合意と引き換えに支払ったとされる金銭について、中絶しなかった女性は男性に返還しないといけないのでしょうか。
中絶することを前提に女性が金銭を受け取ったのに中絶しなかったという場合には、女性は「法律上の原因」なく金銭を受け取ったことになりますので、不当利得として男性に返還する義務があります。
なお、双方の合意があれば、女性が受け取った金銭を将来の養育費の一部に充てるといったことは可能です。
【取材協力弁護士】理崎 智英(りざき・ともひで)弁護士一橋大学法学部卒。平成22年弁護士登録。東京弁護士会所属。弁護士登録時から離婚・男女問題の案件を数多く手掛ける。事務所名:高島総合法律事務所事務所URL:http://www.takashimalaw.com