【亀山 早苗】「オレは稼いでいるから、おまえは黙って家事をやれ」エリート気取りのモラハラ夫と離婚した40歳女性の「失敗」

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県知事やら東京都知事候補やら、パワハラ・モラハラ体質の男性が一定数の理解と共感を得ることが不思議でならない。
厚生労働省の調査によれば、2022年の職場でのハラスメント相談は12万件を超えている。
また、配偶者暴力相談支援センターには2022年度、12万件を超える相談が寄せられている。これにいわゆる「モラハラ」を加えれば相当数になるだろう。
夫からモラハラやパワハラを受けてきた女性たちの証言をもとに、どんなハラスメントがあるのか、また、なぜ見抜けなかったのかなどを考えていきたい。
暴力や激しいモラハラとまではいえないが、「夫に抑えつけられている」と感じている妻は少なくない。
その現象はいくつかあると、やはり離婚して「自由の身になった」サオリさん(40歳)は話してくれた。
「私はマッチングアプリで出会った人と半年ほどのつきあいで結婚したんですが、あとから考えれば、いくつか『あれ?』と思うことはありました」
たとえば話が白熱したとき、彼は大声を上げて彼女を封じ込めようとした。分が悪いときは、質問に質問を返す。
さらに機嫌が悪いとき、ものに当たるのを見たことがある。ドアを力任せに閉めたり、ソファに拳を叩きつけるのも目撃した。
「それでも『大声を出さないでよ』『質問に質問で返すのは卑怯だよ』といえば黙った。結婚前はそのあたりで止まっていたんですよ」
だが結婚したとたん、それがエスカレートした。気まずくなれば妻が謝るはずだし、行くところのない妻が簡単に出ていくとは思っていなかったようだ。
「私が30歳、彼が33歳で結婚したんですが、当時、私にはすでに両親がいなかった。きょうだいもいないし親戚づきあいもない。彼はそんな私を『もらってやった』と思っていたようですね。あとから彼の友人が『きみたちが結婚したとき、彼が相手は天涯孤独の女で、親戚づきあいもないし金がかからないと冗談交じりに言っているのを聞いて腹が立った』と教えてくれたんです。そんなこと、友人に言いますか? 彼は私が思っているよりずっと、男尊女卑が激しくて、なおかつ私をバカにしていたんだとわかりました」
結婚生活が始まっても、彼はマイペースを貫いた。共働きなのに家事もしない。洗濯も掃除も知らん顔だ。家事のことで話があるとサオリさんが夫に伝えると、「オレと同じだけ稼げるようになったら話を聞くよ」と言われた。
「そう言われると何も言えなくなる。それは私の問題というより、むしろ社会のシステムの問題ですから。だったら稼げるように努力すればいいと言われました。『努力するから、家事分担をしてほしい』と言ったら、それは無理って」
彼は結婚するまで都内の実家で育っていた。母親は専業主婦で、社会人になってからも息子が帰宅するのを待って夕飯を一緒にとっていたような人だ。父親はそんな母と息子を苦々しく思っているところがあった。
「結婚したとき、義父から『母親が息子に密着したがるので、何かあったら言ってほしい』と言われたんです。義父はとてもまっとうな人で優しい。でもこちらも世帯をもったのだから義父に甘えたり頼ったりするのも違う。彼にはなんとか生活面で自立してほしいと思い、そういうアプローチもしたんですよ。たとえば子どもができたり私が病気になったりして家事ができなくなったら、どうするのって。そうしたら実家に戻るから無問題って」
いざとなれば実家を頼れば生活できる。それよりオレは稼いでいるんだから、おまえは黙って仕事も家事もやれ。それが夫の言い分だった。
そこからサオリさんは必死で努力を重ねた。最低限、夫に文句を言われない程度の家事をこなし、仕事のあと集中的にスキルアップのための勉強を重ねた。週末は専門学校の講義にも通った。
「夫はもともと週末は自分の趣味に時間を使っていたので、私がいてもいなくてもいいんです。夕飯さえ用意してあれば」
1年間、勉強を積み重ねて、彼女はとある国家資格に合格。仕事に直結する資格だったため昇進して収入も増えた。その後、再度、家事分担の話をしたとき、夫はドヤ顔で給与明細を見せてきたが、僅差ながら彼女のほうが上回っていた。
「それを突きつけると、夫は一瞬、固まっていましたね。でも『その結果がこれか』とめったに掃除しない窓枠のホコリを指先につけて見せてきた。『おまえの給料が多少上がったからといって、こういう場所でオレが生活しなくてはいけないというのはおかしいだろ』と。意味がわからない言い分ですよね」
それ以来、夫は不機嫌を隠さなくなった。何かというと「高給取りの人にはわからないと思うけど」と嫌味を言う。たいした学歴がなくても昇進できる会社はいいなあ、オレもそっちの会社に就職しようかなとも言われた。
「たいした学歴がなくてもって本当に失礼ですよね。私はごく普通の私大ですが、夫だって大差ない私大。エリートぶっているけど、それほどエリートじゃありません。似たような経歴だからわかりあえると思ったんですが、夫はエリート感情だけは持ち合わせているから困るんです」
このまま生活していても夫との関係に希望は見えない。離婚という言葉が頭をかすめたころ、妊娠が発覚した。夫に無理矢理されての妊娠だったことが悔しかった。
「夫の希望で、結婚当初から寝室を別にしているんです。めったに関係は持たなかったし、私もそれでいいと思っていた。だけどあのときは私が受験勉強で必死になっているときに夫がいきなり部屋に乱入してきて、無理矢理されてしまった。抵抗したけど力で負けてしまった。試験に受かって、これから仕事に精を出そうというときに妊娠がわかって、正直、迷いました。あの夫の子はほしくなかった」
それでも命を中絶することはできなかった。子どもができれば夫も変わるかもしれないとかすかな希望ももった。だが、子どもができても、もちろん夫は変わりはしない。しかも不幸なことに、サオリさんの育休中に会社が倒産した。
「夫は、『だからさ、サオリはオレに頼って生きていけばいいんだよ』とヤケにうれしそうだった。こういうのも立派なモラハラだと思います。とても不快でした」
それからは周到に準備を重ねた。保育所のある企業を調べて、採用試験を受けた。今後、離婚を視野にいれている。仕事には全力を傾けると面接で訴えた。数社受けて、ようやく採用が決まり、彼女が2歳になる子どもを連れて家を出たのが35歳のときだ。
「家を出るにあたっては義父が力になってくれました。義父がいたことでどれだけ救われたか……」
オレに離婚をつきつけるなんて100年早いんだよと怒鳴った夫に、「おまえは何様だ」と義父は言ってくれた。義母は「もう、いいじゃない。こんな裏切り者の女とは離婚しなさい」と息子の味方になった。
「結果的に義父母も離婚することになりかけたんですが、義父はそうすると母と息子がますますダメになると踏みとどまったようです。義父母のところは結局、妻が夫にモラハラをしていたんですね。怒鳴ったりしない父親を見て育った夫は、もっと男が強くあるべきだと思っていたみたい。それでも夫も母親には唯々諾々と従っているのだから、一貫性はありません。妙に歪んだ夫婦関係と親子関係の中で夫は育った。そして自覚がない。だから私に対してもモラハラしている意識などなかったんでしょう」
モラハラの加害当事者は、自分が相手を傷つけているとは思っていないのだろう。だから平気なのだ。ときとして「冗談なのに、そんなにムキになるなんて心が狭い」と逆ギレすることもある。いずれにしても自分のことしか考えていないのは明らかだ。
「気が合うようなつもりになっていたこと、家族がいないので結婚して家庭を作りたいと焦っていたことが私の結婚の失敗ですね」
サオリさんは離婚後、モラハラについて勉強した。自分の男性を見る目について反省し、自分の意見をプライベートな場であってもきちんと主張することの大切さを感じているという。
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