身近に発達障害を抱えていて親子関係で悩んでいる、苦しんでいる人はいませんか?
または、もしかしたら、あなた自身が親子間の繰り返される問題に直面していませんか?
ADHD(注意欠如・多動症)は、発達障害の1つで、不注意や注意持続の困難、衝動的な行動が特徴です。遺伝が影響することも多く、海外の研究では両親がADHDの場合、子どもがADHDになる確率は20~54%とされています。
ADHD専門のカウンセリングルーム「すのわ」の代表であり、臨床心理士・公認心理師の南和行さんが、「親子ともにADHD傾向のある人のトラウマ、親子関係の困難さ」の特徴と解決策を親の視点を中心に解説します。
私が運営するカウンセリングルームでは、子育てに悩みを抱えた発達障害の方がしばしば訪れます。似た特性を持つ親子間では、衝突が頻発し、問題を深刻化させることがあります。
前回の記事「酒に溺れ、暴力を振るう父親が放った衝撃の一言…30代男性をどん底に落とした『過去のトラウマ』」では、親子で発達障害を抱える家族の問題を、成人した子どもの立場からトラウマの連鎖という視点で書きました。今回は親の立場から、親子で発達障害を持つ家族の苦悩について見ていきましょう。
・小学生2年生になる息子との関わりに悩む尚子さん(仮名)
母親の尚子さんと小学2年生の息子との間では、日常的に些細なことで喧嘩が絶えません。息子はだらしなく、忘れ物が多く、スマホやゲームの約束が守れないことが頻繁にあります。片付けも苦手で、彼の行動の跡が家中に残っています。さらに、彼は癇癪もちで、注意されるたびに母親との衝突が起こります。
一方、尚子さんは非常に真面目で、白黒思考の持ち主です。一度こうと決めたら、その考えを変えることができません。例えば、鉛筆の持ち方や箸の持ち方についても、「こうあるべき」が強く、厳しく指導し、息子がそれに従わないと強く叱ります。子どもを寝かしつける際にも、子どもが素直に寝ようとしないときには、脅すような言葉を使ってしまうことがしばしばあります。
子育ての方針について、夫婦間での意見の相違が大きな問題となっていました。父親は自分と似ている息子に対して共感的にサポートしたいと考えていますが、母親は息子のだらしない行動が許せず、厳しく叱責します。このような親の意見の対立から、夫婦げんかに発展してしまうことも多く、家庭内のストレスを増幅させ、子どもの行動にも悪影響を与えています。
ある日、学校の先生から連絡があり、息子が同級生に対していじめの加害者になっていることが発覚します。息子が同級生を脅し、厳しい態度をとる様子は、母親の行動と似ていました。そしてスクールカウンセラーから、息子の行動の背景には発達障害の傾向があることを指摘され、病院を受診することになりました。
検査の結果、息子がADHDであることが分かりました。医師からの説明で、息子の理解できない行動が脳のタイプで起こっていることが分かり、目の前の霧が晴れるように感じました。さらに発達障害について学ぶことで、自分の性格と思っていた、几帳面さ、こだわり、感情コントロールの苦手の背景に自閉症スペクトラムの傾向があることにも気が付くことができました。
尚子さんは息子の発達障害を知ることで、自分自身の行動に葛藤を持つようになりました。自分が落ち着いているときには、癇癪を起こしている息子に対して、感情的に接することが効果的でないことは理解できています。それでも、息子が怒り出すと、ソワソワし、心臓もバクバクして、考えることができなくなり、恐怖と怒りが混ざった感情に飲み込まれてしまい、気が付くと激しく怒鳴ってしまっている自分に気が付くのでした。
怒りが抑えられない背景には、息子が激しい癇癪で大暴れを繰り返して、リビングがめちゃくちゃにされていた一番荒れていた時期の辛い記憶がありました。その時期は、夫からも自分の関わりを責められており、誰も自分のことを分かってくれないと感じて、いつも悶々としていました。息子の癇癪を見ると、どうしても当時の苦しい時代が思い出され、冷静な自分ではいられなくなってしまうのでした。
怒鳴っている自分に気が付くと落ち込んでしまい、さらに感情のコントロールが難しくなるという悪循環に陥っていました。「このままではいけない、でも自力での解決は難しい」と感じて、カウンセリングを受けることを決意したのでした。
記事後編は「癇癪を起こす、ADHDの息子が怖い…自閉症スペクトラムの母親がいままで誰にも言えなかった『強烈な苦しみ』」から。
癇癪を起こす、ADHDの息子が怖い…自閉症スペクトラムの母親がいままで誰にも言えなかった「強烈な苦しみ」