コロナ禍以降、首都圏では私立小学校を受験する児童の数がかつてと比較し増えている。
その背景には、緊急事態宣言が出され、公立の学校が授業方法にまごつくなかで、いち早くオンライン授業への切り替えができた私立小学校への評価が上がったこと、さらに、一時はなくなりつつあった学歴偏向に対する価値観が変わってきたなどの影響がある。
小学校受験を志願する子どもの親たちのなかには、その後に待ち受ける中学校受験を避けたいという考えもあるようだ。
首都圏模試センターの調査によれば、2024年度の首都圏における中学校受験の受験率は「18.12%」と過去最高をマーク。今後の少子化を考えると小学校受験は少しずつ右肩下がりになるが“中学受験熱”は変わらず高く、逆に中学受験者数が増えるという予測をしており、13歳に満たない子どもの受験競争過酷さはますます激化していくようだ。
都内在住の専業主婦、スミレさん(仮名、42歳)も、ひとり息子の小学校受験をしたひとりだ。幼稚園で友達ができない悩みをママ友に打ち明けたところ「この園があわないだけじゃない?」という一言で決意。
しかし、選んだ教室が息子に合わずやむなく家庭教師をつけることにしたのだが、思いがけない「落とし穴」に陥る。
「模試の結果が平均点以下だったんです。志望校別順位も下から数えた方が早かった。家では勉強もきちんと身についていたように見えたので、あまり疑いたくはなかったんですが、ふたりの勉強の様子を見せてもらって驚きました。
勉強はするにはしていたのですが、実は息子が分からない問題の答えを先生が教えていたんです。聞いた答えはそのまま答案用紙に丸写しだったんですね。つまり、公のカンニングです。
先生に聞いた答えを白紙の答案用紙に埋めて「できた」と喜んでいる息子の姿に複雑な思いでした……。
先生が解説をしている時もあったのですが、息子の様子から理解できているようにはまったく見えませんでした。月8万円の費用や貴重な受験準備期間がこんなことになっていたとは思っておらず愕然としました」
再び夫婦で話し合い、家庭教師には辞めてもらうことにして、改めて別の教室を探したスミレさん。しかし年長から入会ができる教室はなかなか見つからず、ようやく決まったところは片道1時間かかかるところだった。
「志望校の合格実績が良いと評判の教室に、キャンセル待ちで入れたんです。先生も他に通われているご家庭の雰囲気も良くて親子ともに楽しく通っているように見えました。なにより息子に声をかけてくれるお友達もいてホッとしました。
でも、既にこの時には年長の夏。小学生受験では追い込み時期でした。スタートはかなり出遅れましたが、巻き返そうと必死でした。
ペーパー、行動観察、運動、志望校対策……受講できるものは全て申し込み、週4日で教室に通いました。自宅学習は私が息子に勉強を教えると雰囲気が悪くなるので、一切やらないことにしました」
もはや背に腹は代えられないと費用の総額は把握していないものの、スミレさん曰く「月15万円近くはかかっていた」そうだ。費用に関して夫は何も言わなかったが、育児を任せられていたスミレさんとしては“無言の圧”と、何としてでも合格を勝ち取らなければいけないプレッシャーを感じていたという。
すでに絞り込んである志望校は、自主性を大切にした教育を大切にしている私立で筆記試験よりも、協調性や表現力などの人間性を重視した試験内容で倍率は10倍近くある人気の学校だ。
高倍率とその教育理念の高さから決して簡単な受験ではないものの、ペーパーが苦手な息子からすると相性がよいのではないかとスミレさんが選んだものの、結果は惨敗。ほかにも併願で受けた2つの小学校も不合格通知だった。
地元の公立小学校に進学することも検討したが、息子の“痛い経験”から、なかなか踏ん切りがつかず、定員割れしている私立小学校を受けて合格。そこに入学させることを決めたそうだ。
「多額のお金と大量の時間を費やして、あれだけ頑張ってきたのに……と思ったのが正直な気持ちです。
一緒に頑張ってきたお友達は志望校に合格してるのになんで息子はダメだったんだろうって。幼稚園での一連の出来事や、勉強の失敗を振り返って、この頃は夫婦で息子に発達障害があるのではと思い始めるようになりました」
スミレさんの話では、以前から息子の表情の乏しさや記憶力の低さ、対人関係が苦手なことには気が付いていたが、それも成長していけば変わっていくだろうと様子を見ていたそうだ。
しかし今回の小学校受験を機に考え方がガラリと変わったという。じつはスミレさんの夫も「自分もそう感じていた」と同意見だった。
「親しいママ友にこの悩みを打ち明けると『そんなこと心配しなくても……』と困惑していましたが、きっと気を遣われていたんだと思います。息子が発達障害ならば、いまこの地点から、息子のために私が出来ることは何かを考えるようになりました」
とはいえ、医療機関や行政支援の相談をするのではなく、十五穀米などの健康に良い食材を曲げわっぱの弁当箱に入れたり、肌に優しい素材の衣服を選んで刺激を軽減させるという“独自努力”にとどまっている。
自己表現の苦手意識を克服してほしいと、新たに絵画や音楽教室に通わせはじめた。一方で、スミレさんが悪影響を及ぼすと思う配信動画や化学調味料がたっぷり入ったお菓子は禁止。しかし、息子から改善の様子はまったく見ていられず、現在も習い事の孤立状態は続いたままだ。
最近では、今年の春から入学したその私立の小学校も、我が子にとって居心地が良いのかどうか不安だと話す。
「学校見学をほとんどしないまま入学を決めたので、これでよかったのか不安です。学費は年間100万円。ひとりっ子なので学費自体はいまのところ大きな負担ではないものの、この先も私が居ないと生きていけないのかなと心配になることが増えました」
最近では、無理に改善させるよりも、それが息子を個性と捉えた方がいいと思うようにもなりはじめています。
でも周囲の目が気にならないわけではないのでそこでグラグラと揺れています。夫も気にかけているのですが、特に何をするわけでもないので、うちの場合はやっぱり私が肝心なんだと子育ての難しさを痛感しています」
最近は、都心を離れて山奥の田舎で生活することに魅力を感じているとのことだった。人目を気にしてか、それともすべてが息子のためなのかは分からないが、まずはそんな息子の特性も受け入れられるように努力していきたいと話す。
子どもにとって大きな負担である小学校受験。この経験を経て気付きを得る人も多い人もいるかもしれない。しかし一方的に考えを決めつけたりするのは注意が必要だ。
もしかしたら親の過干渉が子どもの成長を阻害している可能性もある。手出し口出ししたくなる気持ちを抑えて、失敗を見守ることも大切なのかもしれない。

引き続き関連記事の<40代「セレブ妻」が絶句…息子を「インターナショナルスクール」に入れたら「地獄」が待っていた>でも、小学校受験に関しての実例を紹介しています。
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