自営業の夫を支える妻が、もしも突然ひとりになったら……「死ぬまで働くから」が口癖で貯蓄をしない夫を、心配してながら支えていた57歳のAさん。いざ夫が亡くなってみると、そのあまりの「無頓着さ」に絶望するしかありませんでした……。いったいなにがあったのでしょうか。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが事例にもとづき、自営業の家庭における「遺族年金」と資産形成の注意点について解説します。
Aさん(57歳)は、自営業の夫・Bさん(56歳)と長年2人で暮らしていました。2人に子どもはいません。若いころは会社勤めをしていたAさんでしたが、結婚後は家事に専念。時折Bさんの仕事を手伝う日々を過ごしていました。Bさんの事業は固定客も多いことから、毎年の売上は比較的安定しており、生活に苦労はありませんでした。
しかし……。家計を支えていた夫のBさんが、病気により急逝。Aさんの生活は、そこから一変することになります。
Bさんは生前、事業の売上や利益の一部は生活費としてAさんに預けていたものの、Bさん自身の手元に残したお金については貯蓄に回すことなく、趣味などに使ってしまっていました。
それを見かねたAさんは時折、「貯蓄をもっと増やしておいたほうがいいんじゃないの?」「あと数年したら年金暮らしだけど、将来年金だけじゃきっと大変よ」とBさんに忠告していたのですが、楽天的で仕事が大好きだったBさんはいつもこう返していました。
「俺は元気で健康に自信もあるし、死ぬまで働くから余裕だよ。一生養っていけると思う」
それが、56歳という若さで突然の死……Aさんは現実を受け入れられず、絶望してしまいました。Bさんは病院や健診が嫌いで、健康診断や人間ドックを受けてきませんでした。そのため自覚症状がないまま大きな病気が進行していたそうです。
そんななかでもなんとか葬儀を済ませたAさんは、諸々の手続きに奔走しなくてはいけなくなりました。
Aさんの手元に残ったのは、BさんとAさん自身の貯蓄が合わせて600万円程度。子どもがいなかったこともあってか、生命保険などには加入していませんでした。
これからの生活を案じたAさんは、まず年金事務所に相談しました。遺族年金を受け取ることができないかと考えたのです。
しかし、年金事務所の職員からは「残念ですが、遺族年金は支給されません」とまさかの回答。いったいなぜなのでしょうか。
え、なんで?…「遺族年金、ゼロ円です」に2度目の絶望遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあります。会社勤めなどで厚生年金に加入していた人が亡くなった場合、その遺族には原則、老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が遺族厚生年金として支給されることになっています。しかし、Bさんは25年ほど自営業。その前に厚生年金に約10年加入していた期間があったものの、長年国民年金第1号被保険者となっていました。さらに、自営業となったあと、合計7年は国民年金保険料を払っていたBさんでしたが、パラパラと未納している期間が多く、ここ数年間にいたってはほとんど支払っていませんでした。もし、Bさんが自営業になってある程度しっかりと国民年金保険料を納めていれば、10年分の遺族厚生年金がAさんに支給されることになりますが、職員は「Bさんは未納期間が多いので支給されない」といいます。加えて、遺族基礎年金についても、AさんとBさんのあいだに子どもがいないことから支給されないといいます。「あの人、本当になにも考えていなかったのね……」Aさんは、亡き夫Bさんのあまりの無計画さと、なんの支援も受けることができないというまさかの事態に、再び絶望してしまいました。不幸中の幸い…死亡一時金だけは支給も、支給額は「たったの12万円」遺族年金を受け取れないとわかり肩を落とすAさんでしたが、年金事務所の職員より「ただし、死亡一時金は支給されます」と言われました。「死亡一時金」とは、亡くなった人に老齢基礎年金や障害基礎年金が支給されておらず、かつ、その遺族にも遺族基礎年金が支給されない場合、遺族に支給されるお金のことです。国民年金保険料の掛け捨て防止のために作られた制度で、Bさんの場合は国民年金保険料を7年納めていたことから、12万円が一時金として支給されます。しかし、年金のように毎年受け取れるわけではなく、文字通り一時金ですから、1回支払われればそれで終わりです。「なにも貰えないわけじゃなくてよかったけど、たったこれだけか……」Aさんは泣く泣く手続きを進めました。過酷…長年専業主婦→「57歳からフルタイム勤務」にこうしてBさんの死後、Aさんには定期的な遺族年金の収入が入らないことがわかり、Aさんはこれからの生活について真剣に考えなくてはならなくなりました。Bさんの事業は専門技術を必要とするもので、生前少し手伝っていた程度のAさんがそのまま引き継げるものではありません。そのため、Bさんが行っていた事業は廃業することになりました。Aさんがこれから生きていくためには、新しく働いて収入を得るしかありません。しかし、ずっと自営業の妻だったAさんがいきなり外で勤めるのは容易なことではありませんでした。あらゆるサイトや雑誌、人づてに職を探し、なんとか時給制の仕事に就くことに。57歳6ヵ月になってから、月曜から金曜、朝から夕方までフルタイムで働くことになりました。収入は額面で月額20万円、手取りは月15万円ちょっとです。「本当にギリギリかも……」過酷さを感じながらも、やりくりするしかありません。少なくとも、Aさんが老齢年金を受給できるようになる65歳まではフルタイムで継続して働く必要があります。さらに、少しでも65歳以降の生活を安心して過ごすためには、65歳以降も同じように勤務することを考えなくてはなりません。幸いにもAさんの勤務先は70歳まで働けることになっていますが、年齢もあり体力勝負です。厚生年金に加入→年金が増える可能性もただし、Aさんは働きはじめたことで、新たに厚生年金に加入することができました。これにより、65歳からの年金は2階建て(老齢基礎年金+老齢厚生年金)で増やすこともできそうです。「ねんきん定期便」を確認したところ、Aさんが60歳まで国民年金のみに加入・納付をしていた場合、65歳からの老齢年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)は80万円ちょっとの見込みです。一方、厚生年金に加入後、65歳までいまの給与で勤務した場合、厚生年金に未加入の場合と比べると、老齢厚生年金が19万円以上増え、老齢年金はあわせて約100万円になります。さらに、65歳から70歳まで引き続き同じ条件で厚生年金に加入すると、70歳時点の年金は116万円程度になる見込みです。また、上記はあくまで年金を65歳から受給開始した場合の試算ですので、退職後の年金生活のことを考えると、「繰下げ受給」による増額も検討するといいでしょう。受給開始を5年繰下げ70歳からにすると、もらえる年金額はさらに増え158万円(100万円×142%+16万円)となります。決意を新たにしたAさん夫のBさんは年金に無頓着でしたが、Aさんは今回の件で重要性を痛感。「将来安心して暮らせるよう、自分でしっかりやりくりしなくちゃ」厳しい生活はしばらく続きますが、少しでも年金額が増えるように頑張ろうと、Aさんは決意を新たにしたのでした。井内 義典株式会社よこはまライフプランニング代表取締役特定社会保険労務士/CFP認定者
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあります。
会社勤めなどで厚生年金に加入していた人が亡くなった場合、その遺族には原則、老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が遺族厚生年金として支給されることになっています。
しかし、Bさんは25年ほど自営業。その前に厚生年金に約10年加入していた期間があったものの、長年国民年金第1号被保険者となっていました。
さらに、自営業となったあと、合計7年は国民年金保険料を払っていたBさんでしたが、パラパラと未納している期間が多く、ここ数年間にいたってはほとんど支払っていませんでした。
もし、Bさんが自営業になってある程度しっかりと国民年金保険料を納めていれば、10年分の遺族厚生年金がAさんに支給されることになりますが、職員は「Bさんは未納期間が多いので支給されない」といいます。
加えて、遺族基礎年金についても、AさんとBさんのあいだに子どもがいないことから支給されないといいます。
「あの人、本当になにも考えていなかったのね……」Aさんは、亡き夫Bさんのあまりの無計画さと、なんの支援も受けることができないというまさかの事態に、再び絶望してしまいました。
遺族年金を受け取れないとわかり肩を落とすAさんでしたが、年金事務所の職員より「ただし、死亡一時金は支給されます」と言われました。
「死亡一時金」とは、亡くなった人に老齢基礎年金や障害基礎年金が支給されておらず、かつ、その遺族にも遺族基礎年金が支給されない場合、遺族に支給されるお金のことです。
国民年金保険料の掛け捨て防止のために作られた制度で、Bさんの場合は国民年金保険料を7年納めていたことから、12万円が一時金として支給されます。
しかし、年金のように毎年受け取れるわけではなく、文字通り一時金ですから、1回支払われればそれで終わりです。
「なにも貰えないわけじゃなくてよかったけど、たったこれだけか……」Aさんは泣く泣く手続きを進めました。
過酷…長年専業主婦→「57歳からフルタイム勤務」にこうしてBさんの死後、Aさんには定期的な遺族年金の収入が入らないことがわかり、Aさんはこれからの生活について真剣に考えなくてはならなくなりました。Bさんの事業は専門技術を必要とするもので、生前少し手伝っていた程度のAさんがそのまま引き継げるものではありません。そのため、Bさんが行っていた事業は廃業することになりました。Aさんがこれから生きていくためには、新しく働いて収入を得るしかありません。しかし、ずっと自営業の妻だったAさんがいきなり外で勤めるのは容易なことではありませんでした。あらゆるサイトや雑誌、人づてに職を探し、なんとか時給制の仕事に就くことに。57歳6ヵ月になってから、月曜から金曜、朝から夕方までフルタイムで働くことになりました。収入は額面で月額20万円、手取りは月15万円ちょっとです。「本当にギリギリかも……」過酷さを感じながらも、やりくりするしかありません。少なくとも、Aさんが老齢年金を受給できるようになる65歳まではフルタイムで継続して働く必要があります。さらに、少しでも65歳以降の生活を安心して過ごすためには、65歳以降も同じように勤務することを考えなくてはなりません。幸いにもAさんの勤務先は70歳まで働けることになっていますが、年齢もあり体力勝負です。厚生年金に加入→年金が増える可能性もただし、Aさんは働きはじめたことで、新たに厚生年金に加入することができました。これにより、65歳からの年金は2階建て(老齢基礎年金+老齢厚生年金)で増やすこともできそうです。「ねんきん定期便」を確認したところ、Aさんが60歳まで国民年金のみに加入・納付をしていた場合、65歳からの老齢年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)は80万円ちょっとの見込みです。一方、厚生年金に加入後、65歳までいまの給与で勤務した場合、厚生年金に未加入の場合と比べると、老齢厚生年金が19万円以上増え、老齢年金はあわせて約100万円になります。さらに、65歳から70歳まで引き続き同じ条件で厚生年金に加入すると、70歳時点の年金は116万円程度になる見込みです。また、上記はあくまで年金を65歳から受給開始した場合の試算ですので、退職後の年金生活のことを考えると、「繰下げ受給」による増額も検討するといいでしょう。受給開始を5年繰下げ70歳からにすると、もらえる年金額はさらに増え158万円(100万円×142%+16万円)となります。決意を新たにしたAさん夫のBさんは年金に無頓着でしたが、Aさんは今回の件で重要性を痛感。「将来安心して暮らせるよう、自分でしっかりやりくりしなくちゃ」厳しい生活はしばらく続きますが、少しでも年金額が増えるように頑張ろうと、Aさんは決意を新たにしたのでした。井内 義典株式会社よこはまライフプランニング代表取締役特定社会保険労務士/CFP認定者
こうしてBさんの死後、Aさんには定期的な遺族年金の収入が入らないことがわかり、Aさんはこれからの生活について真剣に考えなくてはならなくなりました。
Bさんの事業は専門技術を必要とするもので、生前少し手伝っていた程度のAさんがそのまま引き継げるものではありません。そのため、Bさんが行っていた事業は廃業することになりました。Aさんがこれから生きていくためには、新しく働いて収入を得るしかありません。
しかし、ずっと自営業の妻だったAさんがいきなり外で勤めるのは容易なことではありませんでした。あらゆるサイトや雑誌、人づてに職を探し、なんとか時給制の仕事に就くことに。57歳6ヵ月になってから、月曜から金曜、朝から夕方までフルタイムで働くことになりました。
収入は額面で月額20万円、手取りは月15万円ちょっとです。「本当にギリギリかも……」過酷さを感じながらも、やりくりするしかありません。
少なくとも、Aさんが老齢年金を受給できるようになる65歳まではフルタイムで継続して働く必要があります。さらに、少しでも65歳以降の生活を安心して過ごすためには、65歳以降も同じように勤務することを考えなくてはなりません。幸いにもAさんの勤務先は70歳まで働けることになっていますが、年齢もあり体力勝負です。
ただし、Aさんは働きはじめたことで、新たに厚生年金に加入することができました。これにより、65歳からの年金は2階建て(老齢基礎年金+老齢厚生年金)で増やすこともできそうです。
「ねんきん定期便」を確認したところ、Aさんが60歳まで国民年金のみに加入・納付をしていた場合、65歳からの老齢年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)は80万円ちょっとの見込みです。
一方、厚生年金に加入後、65歳までいまの給与で勤務した場合、厚生年金に未加入の場合と比べると、老齢厚生年金が19万円以上増え、老齢年金はあわせて約100万円になります。
さらに、65歳から70歳まで引き続き同じ条件で厚生年金に加入すると、70歳時点の年金は116万円程度になる見込みです。
また、上記はあくまで年金を65歳から受給開始した場合の試算ですので、退職後の年金生活のことを考えると、「繰下げ受給」による増額も検討するといいでしょう。受給開始を5年繰下げ70歳からにすると、もらえる年金額はさらに増え158万円(100万円×142%+16万円)となります。
夫のBさんは年金に無頓着でしたが、Aさんは今回の件で重要性を痛感。
「将来安心して暮らせるよう、自分でしっかりやりくりしなくちゃ」
厳しい生活はしばらく続きますが、少しでも年金額が増えるように頑張ろうと、Aさんは決意を新たにしたのでした。
井内 義典
株式会社よこはまライフプランニング代表取締役
特定社会保険労務士/CFP認定者