飲酒量の増加により膵臓に急性の激しい炎症が起こる「急性膵炎」にご注意を(写真:ocsa/PIXTA)
これから迎える年末年始は、忘年会に納会、大晦日、お正月、新年会などで、飲酒の機会が増えがちだ。普段はお酒を控えめにしている人でも、「この時期くらいは」「せっかくの楽しい時間だから」と、つい飲み過ぎてしまうこともあるだろう。
そうして酒量が増えたときに心配になるのが、膵臓に急性の激しい炎症が起こる「急性膵炎(すいえん)」だ。
お酒というと肝臓に目が向きがちだが、膵臓にも多大な負担がかかることを知っておくべきだろう。そこで急性膵炎について、膵臓や胆道の病気に詳しい東北大学大学院医学系研究科教授の正宗淳さんに話を聞いた。
急性膵炎の患者数は年間7万8000人ほど。女性よりも男性のほうが約2倍かかりやすく、男性は40~60代、女性は60~70代に多いのが特徴だ。
その症状は、お酒を飲んだり脂っこい食事を摂ったりした数時間後に突然、激しい腹痛から始まることが多い。胃腸炎の痛みと違って、冷や汗が出るほどの激痛だという。お酒を飲んだ後ということで夜中に発症し、夜間救急に駆け込むケースもあるそうだ。
「最初は胃腸薬や痛み止めの薬を飲んで様子を見る方もいますが、それで我慢できる痛みではないことがほとんどです。そのため多くの方が病院を受診し、急性膵炎と診断されれば、そのまま入院することになります」(正宗さん)
膵臓は胃の後ろ側にあるため、お腹だけでなく背中が痛いと感じることもある。「お腹の奥が痛い」と言う人もいる。
2016年、日本膵臓学会において正宗さんらは「急性膵炎の全国疫学調査 」を実施した。2016年に治療された3000例を詳しく解析したものだ。
その結果によると、急性膵炎の初期症状は腹痛が92.1%、嘔吐が27%、発熱が16.9%、背中痛が16.7%。正宗さんは「飲酒後にこうした症状が生じた場合は、速やかに消化器内科を受診してください」と助言する。
急性膵炎の激しい痛みは、どうして起こるのだろうか。それを理解するためには、まず膵臓について知る必要がある。
膵臓は、胃の後ろにある12~15cmほどの臓器。主に外分泌と内分泌の2つの役割を果たす。外分泌とは、消化液の膵液を分泌し、膵管を通して十二指腸へと送り込み、食べ物を溶かす働きのこと。内分泌とは、インスリンなどのホルモンを分泌して血糖値などを一定に保つ働きのことだ。
「通常、膵液は十二指腸に送り出されてから活性化し、食べたものを消化・吸収できるように溶かします。ところが、急性膵炎では膵臓の中で膵液が活性化してしまい、膵臓自体を溶かしてしまうのです。これを『自己消化』といいます」(正宗さん)
膵液には、糖質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素などが含まれている。これらによって膵臓自体が溶けることで、激しい痛みが引き起こされるのだ。
急性膵炎の原因には、アルコールや胆石のほか、原因がわからない特発性が挙げられる。男性の場合はアルコール性が多く、女性の場合は胆石性が多い。胆石性は、女性のほうが男性の2倍である。
なぜアルコールや胆石が急性膵炎の原因になるのか。正宗さんは次のように解説する。「アルコールの場合、膵臓内の血流が変わったり、アルコールを分解してできたアセトアルデヒドなどの代謝産物による膵臓へのダメージ、また膵管の出口が閉まったりすることなどで、膵炎が起こると考えられています。一方、胆石の場合は、膵管と胆管の出口が一緒になっているため、そこに胆石がつまることによって膵液の流れが悪くなり、膵炎が起こります」(正宗さん)急性膵炎になったら、入院治療が必要になる。「まずは膵臓を休ませるために絶食とします。同時に、炎症によって膵臓をはじめ、全身の血管から大量の水分が出ていってしまうので、点滴を十分に行って水分や電解質を補い、痛みを抑えるために鎮痛薬を投与します」(正宗さん)急性膵炎の治療では特に痛みのコントロールが重要で、順調に経過すれば1~2週間で退院できることが多い。しかし、入院がそれ以上に長引くケースもある。急性膵炎が恐ろしいのは、患者の20%で重症化してしまうことだ。その場合、1~2カ月の入院が必要になる。重症の急性膵炎とは、肝臓や腎臓などの臓器が機能不全となったもの、敗血症など重症の感染症を併発してしまったものをいう。「命にかかわるリスクが高く、輸液管理や栄養管理、臓器不全対策、感染予防などの治療が必要。集中治療室で治療することもめずらしくありません。さらに重症急性膵炎の後、壊死した膵臓に感染が起こってしまうと、内視鏡を用いた治療や手術が必要となることもあります」(正宗さん)前述した全国疫学調査では、2011年には10.1%だった重症急性膵炎の致命率が、2016年には6.1%にまで下がっている。「これは初期治療が奏功している結果と考えられます。ただ、発症2週間以降の致命率は改善しておらず、今後の課題です」と正宗さんは話す。「一度にたくさん」飲酒がリスクでは、急性膵炎を予防するには、どうしたらいいのだろうか。まずは、お酒を飲み過ぎないことが大切といえそうだ。昔、お酒は『百薬の長』といわれていたが、今では少量でも、膵炎に限らず、さまざまな病気の引き金になることがわかっている。でも、実際のところ、「まったくお酒を飲まないのは難しい」という人もいるだろう。「お酒を飲み過ぎたからといって、必ずしも急性膵炎になるわけではありません。しかし、節度のある飲酒を心がける必要があります。1日当たり純アルコール40g以上の摂取で、急性膵炎の発症リスクが3倍以上になるとされています。また、たまにお酒を飲む人が一度に大量に飲んだ場合も、急性膵炎を発症するリスクは上がるので気をつけてください」(正宗さん)女性やアルコールを分解する代謝酵素の働きが弱い人は、1日に純アルコール20g程度でもリスクがあるともいわれている。より少ない量でも注意が必要だ。暴飲だけでなく、暴食にも要注意だ。中性脂肪の値が高くなると、大量の遊離脂肪酸が膵臓の毛細血管や細胞にダメージを与えるため、急性膵炎になるリスクが高まる。喫煙もリスク因子の1つで、禁煙が勧められる。このほか、膵炎になりやすい体質も明らかとなっており、親族に膵炎の人がいる場合は、注意が必要になる。そして、胆石はアルコールと並んで急性膵炎の主要な原因だ。この連載の一覧はこちら「胆石が原因で急性膵炎を起こし、まだ胆のう内に石が残っている場合には、膵炎の再発予防や、胆石関連合併症の予防のために胆のう摘出術が勧められます」と正宗さん。一方、急性膵炎発作のない無症状の胆石は、予防的に胆のう摘出術を行う必要性は低く、経過観察でいいとのこと。「ただし、肝臓と十二指腸をつなぐ総胆管に胆石がある場合には、内視鏡を用いて取っておいたほうがいいと思います。胆石と一括りとせず、ご自身の胆石はどこにあるかを主治医の先生に聞いてみるといいでしょう」(正宗さん)一度なると再発リスクは22%急性膵炎に一度でもなった場合、再び発症することはあるのだろうか。「多くの論文をまとめたメタ解析によると、初めて罹患した人の22%が再発し、再発した人の36%が慢性膵炎になると報告されています。特にアルコールが原因の場合には、38%の人が再発し、再発した人の65%の人が慢性膵炎になってしまいます」と正宗さん。つまり、一度でもなってしまったら、飲酒や喫煙をはじめ生活習慣の改善を心がけていく必要がある。(取材・文/大西まお)東北大学大学院医学系研究科教授正宗 淳1990年東北大学医学部卒業、1996年東北大学大学院修了。2018年より東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野教授。日本内科学会評議員・指導医・総合内科専門医、日本消化器病学会副理事長・専門医・指導医、日本膵臓学会理事・指導医。日本消化器内視鏡学会社団評議員・指導医・専門医。(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)
なぜアルコールや胆石が急性膵炎の原因になるのか。正宗さんは次のように解説する。
「アルコールの場合、膵臓内の血流が変わったり、アルコールを分解してできたアセトアルデヒドなどの代謝産物による膵臓へのダメージ、また膵管の出口が閉まったりすることなどで、膵炎が起こると考えられています。一方、胆石の場合は、膵管と胆管の出口が一緒になっているため、そこに胆石がつまることによって膵液の流れが悪くなり、膵炎が起こります」(正宗さん)
急性膵炎になったら、入院治療が必要になる。
「まずは膵臓を休ませるために絶食とします。同時に、炎症によって膵臓をはじめ、全身の血管から大量の水分が出ていってしまうので、点滴を十分に行って水分や電解質を補い、痛みを抑えるために鎮痛薬を投与します」(正宗さん)
急性膵炎の治療では特に痛みのコントロールが重要で、順調に経過すれば1~2週間で退院できることが多い。
しかし、入院がそれ以上に長引くケースもある。急性膵炎が恐ろしいのは、患者の20%で重症化してしまうことだ。その場合、1~2カ月の入院が必要になる。
重症の急性膵炎とは、肝臓や腎臓などの臓器が機能不全となったもの、敗血症など重症の感染症を併発してしまったものをいう。
「命にかかわるリスクが高く、輸液管理や栄養管理、臓器不全対策、感染予防などの治療が必要。集中治療室で治療することもめずらしくありません。さらに重症急性膵炎の後、壊死した膵臓に感染が起こってしまうと、内視鏡を用いた治療や手術が必要となることもあります」(正宗さん)
前述した全国疫学調査では、2011年には10.1%だった重症急性膵炎の致命率が、2016年には6.1%にまで下がっている。「これは初期治療が奏功している結果と考えられます。ただ、発症2週間以降の致命率は改善しておらず、今後の課題です」と正宗さんは話す。
では、急性膵炎を予防するには、どうしたらいいのだろうか。
まずは、お酒を飲み過ぎないことが大切といえそうだ。昔、お酒は『百薬の長』といわれていたが、今では少量でも、膵炎に限らず、さまざまな病気の引き金になることがわかっている。
でも、実際のところ、「まったくお酒を飲まないのは難しい」という人もいるだろう。
「お酒を飲み過ぎたからといって、必ずしも急性膵炎になるわけではありません。しかし、節度のある飲酒を心がける必要があります。1日当たり純アルコール40g以上の摂取で、急性膵炎の発症リスクが3倍以上になるとされています。また、たまにお酒を飲む人が一度に大量に飲んだ場合も、急性膵炎を発症するリスクは上がるので気をつけてください」(正宗さん)
女性やアルコールを分解する代謝酵素の働きが弱い人は、1日に純アルコール20g程度でもリスクがあるともいわれている。より少ない量でも注意が必要だ。
暴飲だけでなく、暴食にも要注意だ。中性脂肪の値が高くなると、大量の遊離脂肪酸が膵臓の毛細血管や細胞にダメージを与えるため、急性膵炎になるリスクが高まる。喫煙もリスク因子の1つで、禁煙が勧められる。このほか、膵炎になりやすい体質も明らかとなっており、親族に膵炎の人がいる場合は、注意が必要になる。そして、胆石はアルコールと並んで急性膵炎の主要な原因だ。この連載の一覧はこちら「胆石が原因で急性膵炎を起こし、まだ胆のう内に石が残っている場合には、膵炎の再発予防や、胆石関連合併症の予防のために胆のう摘出術が勧められます」と正宗さん。一方、急性膵炎発作のない無症状の胆石は、予防的に胆のう摘出術を行う必要性は低く、経過観察でいいとのこと。「ただし、肝臓と十二指腸をつなぐ総胆管に胆石がある場合には、内視鏡を用いて取っておいたほうがいいと思います。胆石と一括りとせず、ご自身の胆石はどこにあるかを主治医の先生に聞いてみるといいでしょう」(正宗さん)一度なると再発リスクは22%急性膵炎に一度でもなった場合、再び発症することはあるのだろうか。「多くの論文をまとめたメタ解析によると、初めて罹患した人の22%が再発し、再発した人の36%が慢性膵炎になると報告されています。特にアルコールが原因の場合には、38%の人が再発し、再発した人の65%の人が慢性膵炎になってしまいます」と正宗さん。つまり、一度でもなってしまったら、飲酒や喫煙をはじめ生活習慣の改善を心がけていく必要がある。(取材・文/大西まお)東北大学大学院医学系研究科教授正宗 淳1990年東北大学医学部卒業、1996年東北大学大学院修了。2018年より東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野教授。日本内科学会評議員・指導医・総合内科専門医、日本消化器病学会副理事長・専門医・指導医、日本膵臓学会理事・指導医。日本消化器内視鏡学会社団評議員・指導医・専門医。(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)
暴飲だけでなく、暴食にも要注意だ。中性脂肪の値が高くなると、大量の遊離脂肪酸が膵臓の毛細血管や細胞にダメージを与えるため、急性膵炎になるリスクが高まる。喫煙もリスク因子の1つで、禁煙が勧められる。
このほか、膵炎になりやすい体質も明らかとなっており、親族に膵炎の人がいる場合は、注意が必要になる。
そして、胆石はアルコールと並んで急性膵炎の主要な原因だ。
この連載の一覧はこちら
「胆石が原因で急性膵炎を起こし、まだ胆のう内に石が残っている場合には、膵炎の再発予防や、胆石関連合併症の予防のために胆のう摘出術が勧められます」と正宗さん。
一方、急性膵炎発作のない無症状の胆石は、予防的に胆のう摘出術を行う必要性は低く、経過観察でいいとのこと。
「ただし、肝臓と十二指腸をつなぐ総胆管に胆石がある場合には、内視鏡を用いて取っておいたほうがいいと思います。胆石と一括りとせず、ご自身の胆石はどこにあるかを主治医の先生に聞いてみるといいでしょう」(正宗さん)
一度なると再発リスクは22%急性膵炎に一度でもなった場合、再び発症することはあるのだろうか。「多くの論文をまとめたメタ解析によると、初めて罹患した人の22%が再発し、再発した人の36%が慢性膵炎になると報告されています。特にアルコールが原因の場合には、38%の人が再発し、再発した人の65%の人が慢性膵炎になってしまいます」と正宗さん。つまり、一度でもなってしまったら、飲酒や喫煙をはじめ生活習慣の改善を心がけていく必要がある。(取材・文/大西まお)東北大学大学院医学系研究科教授正宗 淳1990年東北大学医学部卒業、1996年東北大学大学院修了。2018年より東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野教授。日本内科学会評議員・指導医・総合内科専門医、日本消化器病学会副理事長・専門医・指導医、日本膵臓学会理事・指導医。日本消化器内視鏡学会社団評議員・指導医・専門医。(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)
急性膵炎に一度でもなった場合、再び発症することはあるのだろうか。
「多くの論文をまとめたメタ解析によると、初めて罹患した人の22%が再発し、再発した人の36%が慢性膵炎になると報告されています。特にアルコールが原因の場合には、38%の人が再発し、再発した人の65%の人が慢性膵炎になってしまいます」と正宗さん。
つまり、一度でもなってしまったら、飲酒や喫煙をはじめ生活習慣の改善を心がけていく必要がある。
(取材・文/大西まお)

東北大学大学院医学系研究科教授正宗 淳
1990年東北大学医学部卒業、1996年東北大学大学院修了。2018年より東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野教授。日本内科学会評議員・指導医・総合内科専門医、日本消化器病学会副理事長・専門医・指導医、日本膵臓学会理事・指導医。日本消化器内視鏡学会社団評議員・指導医・専門医。
(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)