警察による人権侵害の中でも、歴史に残る不祥事となった。
愛知県警は1日、岡崎署の留置場で昨年12月に勾留中の男性(当時43)を死亡させたとして、業務上過失致死や特別公務員暴行陵虐などの容疑で留置主任官の警部(46)ら当時署員だった9人を書類送検し、島崎浩志署長(60)を減給、警部を停職3カ月の懲戒処分とするなど、27人を処分。島崎署長と警部は同日、依願退職した。
処分発表で、頭を下げる平松伸二愛知県警警務部長
全国紙社会部記者が語る。
「男性は公務執行妨害容疑で逮捕されて岡崎署に留置されていました。ただ精神疾患があり、大声を出すなどしたため、警部らはベルト手錠と捕縄を使うなどした。ですが、男性は1週間あまりの勾留中に死亡。警部らが男性に暴行を加えるなどした疑いが浮上し、県警が岡崎署に異例の家宅捜索に入るなど、“身内の恥”の洗い出しに乗り出していました」
書類送検と同日に公表された県警による検証結果はおぞましい話のオンパレードだった。
男性が倒れ、頭を便器に突っ込んだ状態になっているのを放置した。頭の入った状態で便器の水を流した。便器にそのまま排泄物を放置した――。
江戸時代の下手人ですら、かくもひどい仕打ちを受けたであろうか、と耳を疑いたくなる内容だった。
「監視カメラの映像の分析から、複数の署員が裸のまま手錠などで拘束されて横たわっていた男性を蹴りながら移動させたことも判明。拘束中の監視を怠っただけでなく、医師に相談したよう装うウソの公文書を作成していたことも発覚するなど、組織犯罪の様相を呈しています」(前出・記者)
警察官による暴行は度々あり、特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕されることもままある。だが、対象の被害者を死亡させ、刑事責任まで追及されるのは異例中の異例のことだ。
捜査関係者が分析する。
「男性の死因は腎不全。単なる暴行だけでなく、持病があったのに医師に相談もせずに投薬しなかったことや、食事や水分の補給も十分にしていなかったことなどが死亡につながったと判断されたのだろう」
警察全体への信頼を揺るがしかねない不祥事に、警察庁までが動いた。男性の扱いを巡っては、「戒具」と呼ばれるベルト状の手錠などで男性をのべ144時間、身動きを取れなくしていたことも判明していた。
「警察庁は書類送検と同じ日に、全国の警察にベルト手錠による拘束は原則3時間に限るよう通達を出した。今回発覚した使用時間の48分の1で、全国で安易な拘束が広がっていたことを危惧したのだろう」(同前)
基本の精神から見直すべき時かもしれない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年12月14日号)