2019年7月、京都府伏見区の京都アニメーション第1スタジオで起きた放火殺人事件では、36人が死亡し、34人が重軽傷を負った。
12月7日、京都地裁では論告公判が開かれ、青葉真司被告に死刑が求刑された。青葉被告側は事件当時、重度の妄想性障害があったとして無罪もしくは減刑を求めた。
9月からはじまった公判で、青葉被告は、京都アニメーションのコンテストに執筆した小説を応募したが落選したことへの恨みだと主張していた。そこで、犯行に大きな影響を受けたのが、加藤智大元死刑囚だと明かした。
京都地裁 (c)現代ビジネス
2008年6月8日、日曜日の午後、東京・秋葉原の歩行者天国へ赤信号の交差点にトラックで突っ込み複数の人をはね飛ばした。車からおりるとナイフを手に周囲の人を刺し、死者7人、負傷者10人という前代未聞の事件を起こしたのが加藤元死刑囚だ。加藤元死刑囚は死刑判決が下り、2022年に執行された。
この加藤元死刑囚に対し、青葉被告は次のように法廷で語っている。
「加藤には共感した、他人事ではないと思った」「(加藤の犯行を)眺めてみて、自分も何とかしなければと思い、こんな感じ(放火殺人事件)になった」
青葉被告は何度も「共感」という言葉を使っている。実際、青葉被告と加藤元死刑囚の事件には「共通点」が多々見られる。
まず、青葉被告は、2度、警察に逮捕されるような事件を起こして職を転々としている。派遣労働者として栃木県や茨城県の工場で半年ほど働いて辞めるということを繰り返した。加藤元死刑囚も、青森県の高校を卒業後、関東地方に出て茨城県や静岡県の自動車工場などに何度も転職していた。
加藤元死刑囚は、幼少のころ、母親が「スパルタ教育」で厳しくしつけたことも裁判などで明らかになっているが、このあたりも二人の共通点だ。青葉被告は子どものころに、両親が離婚し父親に育てられたが、「毒親」の記憶をこう裁判で語っている。
「しょっちゅう殴られた」「中学時代、柔道の大会で準優勝して盾をもらった。それを父親に見せると、『燃やせ』という。父親の命令は絶対なので燃やした」
また二人の犯行動機の共通点は、インターネットの掲示板で中傷されたことだ。
犯行直前まで、まるで「実況中継」のように匿名で掲示板に投稿して、犯行に及んだ加藤元死刑囚。一方の青葉被告は、犯行のきっかけとして、京都アニメーションの女性監督から「インターネットの5ちゃんねるで『レイプ魔』などと書き込まれた」「女性監督のブログをインターネットで見て、小説がパクられたと思った」ことを挙げている。
「爆発物もって突っ込む」などとネット掲示板「5ちゃんねる」に青葉被告も投稿していたことが法廷でも明らかにされている。
今回の犯行前、青葉被告は加藤被告に触発されて、事件の1か月前に住んでいた埼玉県・大宮駅で無差別テロを起こそうとして、包丁を6本買っている。午後に自転車で大宮駅まで行ったが、通行人がまばらだったため、決行には及ばなかった。
青葉被告は、京都アニメーションの事件の時にはかばんに入れた6本の包丁を所持していたことから、銃刀法違反でも起訴されている。
いずれの計画でも「包丁6本」であることに注目したい。実は加藤被告も犯行時に所持していたのは包丁6本だったのだ。完全に青葉被告と同じだ。実はこの類似点について、青葉被告は法廷でこう語っている。
「加藤は、自動車で突っ込み3人ほどを殺傷した後に包丁で切った。時代劇ではバサバサ、人を切っているが、あれは正確にいうと血のりがつき、切れなくなる」
青葉被告は加藤元死刑囚との共感や類似点について、こう明かしている。
「加藤は派遣社員で、自動車工場をクビになったと記憶している」「加藤は母親にきつくされたと聞いた」「何をやってもうまくいかない、同じ派遣労働で(自分も加藤元死刑囚も)底辺の人間」
京都地裁 (c)現代ビジネス
青葉被告は、犯行の日の朝、京都アニメーションの第1スタジオ前まで行き、携行缶からガソリンをバケツに移し替えて決行しようとしたが、十数分間、路地に座って頭を抱えて考え込んだ。
「加藤のことがどこか頭にあった」「やるということがあまり好ましいことではない。秋葉原で殺傷した加藤さんも実行前に考えたらしい。自分もやはり本当に実行するか否か考えた」
犯行を迷っていたことを、そう吐露している。
公判では検察官から「考えて『よしやろう』と決めたのですね」と問われると、怒気をはらんだようにこう述べた。
「放火殺人を考えた時、やはりそれだけ大きなこと考える。単純にやろうかでは済む問題ではない」「これは加藤被告もいっていて、やはりためらうものです。自分のような悪党でも、小さな良心がどこかにある」「自分のような悪党でも完全に良心ないかというと、そんなわけではない。良心の呵責抱えたまま(の犯行)ですと正直申し上げておきます」
3ヶ月以上続いている青葉被告の裁判員裁判だが、「猛省する。申し訳ない」と謝罪の言葉が出たのは論告求刑の前日の公判のことだった。それまでは被害者の問いにも、青葉被告は「京都アニメーションのパクりは不問なのか」と食って掛かる始末だった。
遺族のひとりは、涙しながらこう語る。
「青葉被告は、何もしていない被害者こそ悪いとでも言いたいのか。これだけペラペラしゃべり、裁判長に叱られてもまだしゃべる。責任能力は十分ですよ。早く裁判を終わらせてほしい」
判決は1月25日に下される。