2014年9月の御嶽山噴火災害でともに犠牲となった所祐樹さん(当時26歳)と、結婚を前提に交際していた丹羽由紀さん(同24歳)(いずれも愛知県一宮市)の「結婚式」が19日、同山8合目の登山道で営まれた。
噴火から約9年。両家の遺族は「ようやく2人が結ばれた」と喜びをかみしめた。(柳沢譲、鈴木直人)
式は、由紀さんの亡き父・邦雄さんが発案したものだった。「2人が亡くなった現場で三三九度の儀式をしてやりたい」と京都府内で道具を購入したが、邦雄さんは願いを果たせぬまま16年6月、急性心筋梗塞(こうそく)を発症し54歳で他界した。
娘の死からわずか1年9か月で夫も失った由紀さんの母・真由美さん(59)。得意な裁縫の腕を生かし、2人のために身長の約5分の1サイズのウェディングドレスとタキシードを着せた人形を作ろうと準備した直後だった。ショックでしばらくは慰霊行事から足が遠のき、ドレス作りも進まなかった。
転機は21年9月。祐樹さんの両親、清和さん(61)、喜代美さん(61)夫妻の支えもあり、真由美さんは初めて遺族有志による慰霊登山に参加して8合目まで登った。今年に入り人形製作も本格化させ、7月下旬までに完成させた。
邦雄さんの願いどおりであれば、2人が亡くなった山頂・剣ヶ峰から延びる「八丁ダルミ」で式を営むところだが、この日は真由美さんの体調や天候を考慮し、8合目を目標とした。
3人は長野県王滝村の登山口・田の原から入山。支え合うように歩を進め、途中、眼下に広がる雲海を見つけると、真由美さんは「由紀もこんな素晴らしい景色を見ていたのかしら」と思いをはせた。約3時間半後の午前8時45分、8合目にたどりついた3人は、持参した人形、三三九度の道具、2人が好きだったヒマワリの花束などを並べた。真由美さんは「ほっとした。やはり2人はいとおしいね」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。邦雄さんについて、喜代美さんは「自分の空想の中だけでも2人を一緒にしてあげたかったのでは」と真由美さんと口をそろえた。
清和さんは「同じ男親として邦雄さんの遺志を体現でき、由紀ちゃんがきょう所家に嫁いでくれた」と達成感をにじませながら、「邦雄さんが願ったとおり、2人の最期の場所へ今夏中に私が出向き、結婚式をやり遂げたい」と誓っていた。