道端に平然と捨てられているタバコの吸い殻。景観が損なわれるだけではなく、小さな子どもや動物などに害が及ぶ可能性もあるため、ポイ捨てに対する批判は少なくない。
ネットでは「逮捕されてほしい」という声もみられる。弁護士は「タバコのポイ捨ては立派な犯罪行為」と語る。では、どのような場合に罪に問われるのだろうか。
そもそも、タバコのポイ捨てに関する摘発事例をみかけることはめずらしい。
だが、報道によると、今年5月、北九州市の路上でタバコのポイ捨てを繰り返したとして、50代男性が書類送検されている。2月上旬から下旬にかけて、タバコの吸い殻計86本を路上に捨てた疑いがあるという。
また、今年6月には、埼玉県内で車の窓からタバコの吸い殻を捨てたとして、70代男性が逮捕されている。捨てられたタバコは15本とされている。
いずれも、廃棄物処理法違反の疑いとされている。同法では「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」(16条)と定められており、違反した場合の刑罰は、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金(25条14号)となる。元警察官僚の澤井康生弁護士は、次のように説明する。「廃棄物処理法は、『廃棄物』について、『ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)をいう』と包括的に定義しています。したがって、タバコの吸い殻も、理論的には『ごみ』として廃棄物に該当しますので、みだりに捨てると廃棄物処理法違反になります」●なぜ「廃棄物処理法」を適用したのか?タバコのポイ捨ては軽犯罪法にも抵触するおそれがある。同法は「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」(1条27号)に対して、拘留または科料に処するとしている。一方、埼玉県のケースは、廃棄物処理法違反の疑いでの逮捕だった。澤井弁護士は「拘留または科料という軽い刑罰にしかならない犯罪をした人を当然に逮捕できるかというと、そうでもない」と語る。「軽犯罪法違反のように、拘留または科料にあたる罪については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕できるとされています(刑事訴訟法217条)。これらの罪で通常逮捕する場合については、容疑者が定まった住居を有しない場合、または正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限り、逮捕できるとされています(刑事訴訟199条1項ただし書)。したがって、軽犯罪法に違反した人については、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれがあるという要件を満たさないと逮捕できません。そういう意味で、逮捕するためのハードルが意外に高いということができます。これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、通常の犯罪行為として、罪証隠滅や逃亡のおそれがあれば逮捕できるとされています(刑事訴訟規則143条の3)。つまり、埼玉の事件については、軽犯罪法違反で逮捕しようとすると、罪証隠滅のおそれがあるだけでは足りずに、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれの要件まで必要ということになります。廃棄物処理法違反で立件するほうが、逮捕の要件を満たしやすかったといえるのではないでしょうか」●迷惑を被る市民にとっては深刻な問題澤井弁護士は、上記の2つのケースが単発的な犯罪ではなく、常習犯または余罪が多数ある悪質な「たばこのポイ捨て」とされていることにも注目して「少額の科料となる軽犯罪法違反ではなく、それなりの刑罰となる廃棄物処理法違反を適用したのではないか」とみる。「軽犯罪法違反の刑罰である『拘留』は、1日以上~30日未満、刑事施設で身柄を拘束する刑罰です。『科料』は、1000円以上1万円未満の金銭の支払いを命じられるという最も軽い刑罰です。『拘留』は、検察の統計データを見ても年間に数件しか適用されないので(2020年は5件)、実務上はほとんどは科料ということになります。科料は1000円以上1万円未満の金銭支払いで済むので、違反者にとって、それほど抑止効果があるとはいえません。これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金です。決して軽い刑罰ではなく、違反者にとってそれなりの抑止効果があるといえます。タバコのポイ捨ては重大な犯罪行為ではありませんが、実際に迷惑を被っている市民にとっては深刻な問題です。今回の警察による立件は、市民の日常生活に寄り添うスタンスとして評価できるのではないかと思います」【取材協力弁護士】澤井 康生(さわい・やすお)弁護士警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。事務所名:秋法律事務所事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/
いずれも、廃棄物処理法違反の疑いとされている。同法では「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」(16条)と定められており、違反した場合の刑罰は、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金(25条14号)となる。
元警察官僚の澤井康生弁護士は、次のように説明する。
「廃棄物処理法は、『廃棄物』について、『ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)をいう』と包括的に定義しています。
したがって、タバコの吸い殻も、理論的には『ごみ』として廃棄物に該当しますので、みだりに捨てると廃棄物処理法違反になります」
タバコのポイ捨ては軽犯罪法にも抵触するおそれがある。同法は「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」(1条27号)に対して、拘留または科料に処するとしている。
一方、埼玉県のケースは、廃棄物処理法違反の疑いでの逮捕だった。澤井弁護士は「拘留または科料という軽い刑罰にしかならない犯罪をした人を当然に逮捕できるかというと、そうでもない」と語る。
「軽犯罪法違反のように、拘留または科料にあたる罪については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕できるとされています(刑事訴訟法217条)。これらの罪で通常逮捕する場合については、容疑者が定まった住居を有しない場合、または正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限り、逮捕できるとされています(刑事訴訟199条1項ただし書)。したがって、軽犯罪法に違反した人については、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれがあるという要件を満たさないと逮捕できません。そういう意味で、逮捕するためのハードルが意外に高いということができます。これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、通常の犯罪行為として、罪証隠滅や逃亡のおそれがあれば逮捕できるとされています(刑事訴訟規則143条の3)。つまり、埼玉の事件については、軽犯罪法違反で逮捕しようとすると、罪証隠滅のおそれがあるだけでは足りずに、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれの要件まで必要ということになります。廃棄物処理法違反で立件するほうが、逮捕の要件を満たしやすかったといえるのではないでしょうか」●迷惑を被る市民にとっては深刻な問題澤井弁護士は、上記の2つのケースが単発的な犯罪ではなく、常習犯または余罪が多数ある悪質な「たばこのポイ捨て」とされていることにも注目して「少額の科料となる軽犯罪法違反ではなく、それなりの刑罰となる廃棄物処理法違反を適用したのではないか」とみる。「軽犯罪法違反の刑罰である『拘留』は、1日以上~30日未満、刑事施設で身柄を拘束する刑罰です。『科料』は、1000円以上1万円未満の金銭の支払いを命じられるという最も軽い刑罰です。『拘留』は、検察の統計データを見ても年間に数件しか適用されないので(2020年は5件)、実務上はほとんどは科料ということになります。科料は1000円以上1万円未満の金銭支払いで済むので、違反者にとって、それほど抑止効果があるとはいえません。これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金です。決して軽い刑罰ではなく、違反者にとってそれなりの抑止効果があるといえます。タバコのポイ捨ては重大な犯罪行為ではありませんが、実際に迷惑を被っている市民にとっては深刻な問題です。今回の警察による立件は、市民の日常生活に寄り添うスタンスとして評価できるのではないかと思います」【取材協力弁護士】澤井 康生(さわい・やすお)弁護士警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。事務所名:秋法律事務所事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/
「軽犯罪法違反のように、拘留または科料にあたる罪については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕できるとされています(刑事訴訟法217条)。
これらの罪で通常逮捕する場合については、容疑者が定まった住居を有しない場合、または正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限り、逮捕できるとされています(刑事訴訟199条1項ただし書)。
したがって、軽犯罪法に違反した人については、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれがあるという要件を満たさないと逮捕できません。そういう意味で、逮捕するためのハードルが意外に高いということができます。
これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、通常の犯罪行為として、罪証隠滅や逃亡のおそれがあれば逮捕できるとされています(刑事訴訟規則143条の3)。
つまり、埼玉の事件については、軽犯罪法違反で逮捕しようとすると、罪証隠滅のおそれがあるだけでは足りずに、住居不定や氏名不詳または逃亡のおそれの要件まで必要ということになります。
廃棄物処理法違反で立件するほうが、逮捕の要件を満たしやすかったといえるのではないでしょうか」
澤井弁護士は、上記の2つのケースが単発的な犯罪ではなく、常習犯または余罪が多数ある悪質な「たばこのポイ捨て」とされていることにも注目して「少額の科料となる軽犯罪法違反ではなく、それなりの刑罰となる廃棄物処理法違反を適用したのではないか」とみる。
「軽犯罪法違反の刑罰である『拘留』は、1日以上~30日未満、刑事施設で身柄を拘束する刑罰です。『科料』は、1000円以上1万円未満の金銭の支払いを命じられるという最も軽い刑罰です。
『拘留』は、検察の統計データを見ても年間に数件しか適用されないので(2020年は5件)、実務上はほとんどは科料ということになります。科料は1000円以上1万円未満の金銭支払いで済むので、違反者にとって、それほど抑止効果があるとはいえません。
これに対して、廃棄物処理法違反の場合は、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金です。決して軽い刑罰ではなく、違反者にとってそれなりの抑止効果があるといえます。
タバコのポイ捨ては重大な犯罪行為ではありませんが、実際に迷惑を被っている市民にとっては深刻な問題です。今回の警察による立件は、市民の日常生活に寄り添うスタンスとして評価できるのではないかと思います」
【取材協力弁護士】澤井 康生(さわい・やすお)弁護士警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。事務所名:秋法律事務所事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/