「楽に高収入」「全額即金」――。
SNSでの甘い言葉に誘われ、スマートフォンの不正な転売に手を染めるケースが後を絶たない。埼玉県警は今年3~5月、不正転売の同じグループに属していたとみられる9人を逮捕。うち20~40歳代の5人は「契約者」の役割だった。詐欺罪で起訴された被告の男(35)は公判で涙ぐみ、「自分の契約が犯罪になる意識はまったくなかった」と悔やんだ。(徳原真人)
■法廷で涙
今月6日、さいたま地裁での初公判に男の父親が情状証人として出廷した。「息子の更生を見守る決意です」。黒いスーツに身を包んだ男は、泣いていた。
埼玉県警などによると、男は今年3月、自分で使うと偽って転売目的のスマホを販売店で購入し、だまし取ったとして逮捕された。
東京都内のアパートに住み、不動産会社に勤めていた。週に3~4回、飲み会で毎回2万円ほどを使った。投資用マンションやクレジットカードのローンで、2000万円以上の借金も抱えていた。千葉県の実家の父親はこうした暮らしを知らなかった。
副業を探そうと、男は昨春、LINEで「副業紹介」をうたうチャットのやりとりを始めた。見つけたのが「MNP案件」。スマホを購入・契約すれば「1台あたり2万5000円、現金手渡し」という内容だった。
昨年4月13日、男は東京都新宿区の喫茶店で「購入時の注意がある」という女(28)と会い、「店員に怪しまれないよう振る舞うこと」を念押しされた。ソフトバンク、NTTドコモの2店舗で自分が契約者となって1台ずつ購入。女からは事前に「最初の店で買ったスマホは次の店で見られないように」とも言われていた。中野区のファストフード店で再び女と会い、端末を渡した。引き換えに、2台の頭金の計1万2100円と報酬を受け取った。
■「転売ヤー」
女はスマホの転売・修理業の名刺を持っていたが、実態は「同行役」だ。その報酬は「契約者」1人とのやりとりで4000円。スマホは「転売役」に渡った。稼げる副業をかたり、契約者の闇バイトを募る「指示役」もいた。集めたスマホは特殊詐欺などの別の犯罪グループに流れていたとみられる。男が入手したスマホの行方はわかっていない。
捜査関係者は、「末端の契約者は数百人に上る」とみている。甘い誘い文句はうそだ。契約後の通信費や端末のローン負担は彼らに請求が届く。自分たちが犯罪に加担したという意識は薄く、男も初公判で「いわゆる『転売ヤー』と同じかなと思った」と言った。人気商品を買い占め、高値で転売して稼ぐ人を指す言葉だ。男が抱いた罪悪感も「世の中で嫌われている行為だ」というだけだった。
男に対する検察の求刑は懲役2年。「軽率な行動をした。戻れるなら自分を止めたい」。最終陳述で男は声を詰まらせた。判決は20日に言い渡される。
◆MNP=Mobile Number Portability(携帯電話の番号持ち運び制度)