史上最年少の26歳で初当選し、5月1日に就任した高島崚輔(りょうすけ)・兵庫県芦屋市長。若さと灘高、東京大をへて、米ハーバード大卒業という華麗な経歴で全国から注目を集める中、「対話」を政治姿勢の第一に打ち出して市政に乗り出した。「期待だけで選ばれた」と自身も公言した市長の半年を振り返った。
【写真まとめ】史上最年少・26歳で初当選した高島氏 「要望の場でなく対話の場に」。10月に始めた市内を巡る市民との対話集会。約30人が参加した「子育て・教育」がテーマの初回、高島市長は冒頭にこう強調した。「要望は大事ですが、今の状況では正直『考えておきます』『できません』としか言うことがない」と念押しも。意見交換が始まる直前には、「否定より提案を」「話し過ぎに注意」など、対話の「作法」にまで言及した。
集会の話題は、不登校の子がいる家庭の実情や、日曜日に子どもの預け先がない共働き夫婦の訴え、教員の働き方改革の手法など多岐にわたったが、市職員の口出しは一切なし。進行役も兼ねた高島市長が逆質問したり、市役所内での検討状況を説明したりと1人で対応した。欠席者への学校の授業のオンライン配信を提案した小中学生2人の母親(43)は「こんなふうに話を聞いてくれて、提案が実現につながるかもと思える市長はいなかった」と話す。 同じテーマで臨んだ臨海部での第3回は、財源を問う質問や、市職員が市民の提案を受けないとの指摘に対し、「黒字分をどこまで市民サービスに使うかだが、今後の歳入の予測も難しい」「市職員は超真面目で、変な期待感を持たせる事に大きな恐れがある」などと返した。会社経営の男性(44)は「役所の現状を第三者目線で説明してくれるので納得感があった」と振り返る。傍聴した市議は「市民の要望に『できない』と伝えても、『市議になった途端、市職員の肩を持って』と言われがち。市長は役所側の事情の伝え方がうまい」とうなった。 これまでの市長の市民集会とは参加者の顔ぶれや雰囲気も変わった。以前は高齢層が多く、いつも同じ顔ぶれで1人が長時間話したり、市政への不満から怒り出したりする人が目立ったという。 今回は現役世代が大半で、10代や0歳の子連れ夫婦も参加し、ざっくばらんに会話が弾んだ。「市民の力をもっと活用して」と申し出る参加者には、高島市長が「行政を待たず自分たちで先に始めてほしい。後から『ここはサポートして』と言われる方が乗りやすい」と発破をかけた。終了後、参加者同士が連絡先を交換し、立ち話に花を咲かせた。 また、人口9・4万人の首長で約5・6万人がフォローする市長個人のX(ツイッター)でも市の方針を長文で発信。立憲民主党の泉健太代表(約4・1万)をしのぐ注目度で、10月に滋賀県東近江市長が「不登校の責任の大半は親にある」などと発言した直後には、「不登校は社会の課題。学校がすべてではなく、学びに接続し続けられる環境づくりが最も重要」と書き込み、1500件以上の「いいね」がついた。 対話重視の姿勢は高島市長が特に力を入れる教育分野でも見せる。教育委員や指導主事と面談し、7月から全3中学を訪問して生徒の代表と交流した。校則への不満を訴える生徒たちに、高島市長は「なぜそんな校則があるのか。他の地域はどうしているか調べてみたら」と助言し、生徒自身で考えて、現状を変えるよう促した。「話を聞いて、『市長の私がやります』という風にはしたくなかった」と狙いを語る。また、旧知の鈴木寛・東京大教授が教える東京大公共政策大学院と連携協定を結び、助言を得られる体制を作った。駅前再開発、ごみ処理施設 行方注目 一方、市長選の争点になり、就任時に「喫緊の課題」と挙げたJR芦屋駅南再開発事業は停滞している。「緑」「歩ける」など市長独自の見直し5原則を公表し、再開発ビルに加え、芝生広場や図書館の整備に意欲を見せた。だが再公募に唯一応募した事業者が辞退し、公募手続きは中断。予定より6カ月以上遅れたままだ。 前市長時代に隣接する西宮市との統合協議が破綻したごみ処理施設の建て替えは、公約で近隣自治体との連携を打ち出し、8月に神戸市との協働を模索すると表明した。だが、市単独での建て替え計画も同時進行中で、「協働」の実態ははっきりしない。とはいえ、「市民からの期待感はまだまだ大きい」との点で市議たちの見方は一致する。ある市議は「施策が若い世代に傾いているが、バランスよくやってほしい。これからが力の見せ所だと思う」と指摘する。 高島市長は「うまくいっていないこともあるけれど、前向きに取り組む職員が増えてきた。できることをどんどん進めたい」と語った。【稲田佳代】課題解決への志、市民と共有を 井関崇博・兵庫県立大教授(コミュニケーション論)の話 行政と市民や企業、NPOなどがみんなで課題解決に取り組む現代において、首長が市民と対話する意味は、市民の要望を単に聞き入れる、あるいは聞き入れられない言い訳を言うためではなく、「それは大事な問題だ。一緒に取り組みましょう」と課題や解決への志を共有するためにある。首長が市民の信託を受けて行政組織を動かしていくことは重要だ。他方で、高島市長がその若さも生かし、課題意識を持つ市民に「若い人が頑張っているなら自分も」と思わせ、自らも解決に乗り出すよう触発していく存在になれば、これからの時代の首長と市民の新しい関係性として先進的なモデルになっていくのではないか。
「要望の場でなく対話の場に」。10月に始めた市内を巡る市民との対話集会。約30人が参加した「子育て・教育」がテーマの初回、高島市長は冒頭にこう強調した。「要望は大事ですが、今の状況では正直『考えておきます』『できません』としか言うことがない」と念押しも。意見交換が始まる直前には、「否定より提案を」「話し過ぎに注意」など、対話の「作法」にまで言及した。
集会の話題は、不登校の子がいる家庭の実情や、日曜日に子どもの預け先がない共働き夫婦の訴え、教員の働き方改革の手法など多岐にわたったが、市職員の口出しは一切なし。進行役も兼ねた高島市長が逆質問したり、市役所内での検討状況を説明したりと1人で対応した。欠席者への学校の授業のオンライン配信を提案した小中学生2人の母親(43)は「こんなふうに話を聞いてくれて、提案が実現につながるかもと思える市長はいなかった」と話す。
同じテーマで臨んだ臨海部での第3回は、財源を問う質問や、市職員が市民の提案を受けないとの指摘に対し、「黒字分をどこまで市民サービスに使うかだが、今後の歳入の予測も難しい」「市職員は超真面目で、変な期待感を持たせる事に大きな恐れがある」などと返した。会社経営の男性(44)は「役所の現状を第三者目線で説明してくれるので納得感があった」と振り返る。傍聴した市議は「市民の要望に『できない』と伝えても、『市議になった途端、市職員の肩を持って』と言われがち。市長は役所側の事情の伝え方がうまい」とうなった。
これまでの市長の市民集会とは参加者の顔ぶれや雰囲気も変わった。以前は高齢層が多く、いつも同じ顔ぶれで1人が長時間話したり、市政への不満から怒り出したりする人が目立ったという。
今回は現役世代が大半で、10代や0歳の子連れ夫婦も参加し、ざっくばらんに会話が弾んだ。「市民の力をもっと活用して」と申し出る参加者には、高島市長が「行政を待たず自分たちで先に始めてほしい。後から『ここはサポートして』と言われる方が乗りやすい」と発破をかけた。終了後、参加者同士が連絡先を交換し、立ち話に花を咲かせた。
また、人口9・4万人の首長で約5・6万人がフォローする市長個人のX(ツイッター)でも市の方針を長文で発信。立憲民主党の泉健太代表(約4・1万)をしのぐ注目度で、10月に滋賀県東近江市長が「不登校の責任の大半は親にある」などと発言した直後には、「不登校は社会の課題。学校がすべてではなく、学びに接続し続けられる環境づくりが最も重要」と書き込み、1500件以上の「いいね」がついた。
対話重視の姿勢は高島市長が特に力を入れる教育分野でも見せる。教育委員や指導主事と面談し、7月から全3中学を訪問して生徒の代表と交流した。校則への不満を訴える生徒たちに、高島市長は「なぜそんな校則があるのか。他の地域はどうしているか調べてみたら」と助言し、生徒自身で考えて、現状を変えるよう促した。「話を聞いて、『市長の私がやります』という風にはしたくなかった」と狙いを語る。また、旧知の鈴木寛・東京大教授が教える東京大公共政策大学院と連携協定を結び、助言を得られる体制を作った。
駅前再開発、ごみ処理施設 行方注目
一方、市長選の争点になり、就任時に「喫緊の課題」と挙げたJR芦屋駅南再開発事業は停滞している。「緑」「歩ける」など市長独自の見直し5原則を公表し、再開発ビルに加え、芝生広場や図書館の整備に意欲を見せた。だが再公募に唯一応募した事業者が辞退し、公募手続きは中断。予定より6カ月以上遅れたままだ。
前市長時代に隣接する西宮市との統合協議が破綻したごみ処理施設の建て替えは、公約で近隣自治体との連携を打ち出し、8月に神戸市との協働を模索すると表明した。だが、市単独での建て替え計画も同時進行中で、「協働」の実態ははっきりしない。とはいえ、「市民からの期待感はまだまだ大きい」との点で市議たちの見方は一致する。ある市議は「施策が若い世代に傾いているが、バランスよくやってほしい。これからが力の見せ所だと思う」と指摘する。
高島市長は「うまくいっていないこともあるけれど、前向きに取り組む職員が増えてきた。できることをどんどん進めたい」と語った。【稲田佳代】
課題解決への志、市民と共有を
井関崇博・兵庫県立大教授(コミュニケーション論)の話 行政と市民や企業、NPOなどがみんなで課題解決に取り組む現代において、首長が市民と対話する意味は、市民の要望を単に聞き入れる、あるいは聞き入れられない言い訳を言うためではなく、「それは大事な問題だ。一緒に取り組みましょう」と課題や解決への志を共有するためにある。首長が市民の信託を受けて行政組織を動かしていくことは重要だ。他方で、高島市長がその若さも生かし、課題意識を持つ市民に「若い人が頑張っているなら自分も」と思わせ、自らも解決に乗り出すよう触発していく存在になれば、これからの時代の首長と市民の新しい関係性として先進的なモデルになっていくのではないか。