「政府が健康保険証を2024年秋に廃止、マイナンバーカード一本化へ」という件。私は新聞で使われる言葉がとても気になった。
【写真】この記事の写真を見る(3枚) よく見かけたのが「事実上の義務化」という言葉だ。何だろうそれ。「事実上の強制」でしょう。ちゃんと書いてくれないと困る。 それにしても政府の「事実上」案件が最近多いことに気づく。 9月末に安倍元首相の国葬があったが、当日おこなわれたものを見るとあれは事実上の政府自民党の合同葬だった。首相が十分な説明をしないことで反対の声が増えると、シレっと国葬たる要素を削っていった。岸田首相は故人に対する敬意と弔意を「国全体」として表す儀式と当初言っていたが、最終的に「国全体」は消えた。

JMPA《取り繕おうとすればするほど、国葬の性格はあいまいになった。》(毎日新聞9月28日) そうしておこなわれた国葬のようなものを国葬と言い続ける。リアルタイムでおこなわれた歴史修正と言っていい。やってしまえばこっちのものという態度が見えた。マイナンバーカードが普及しない理由は? それは今回の健康保険証廃止も同様だ。今年6月に「将来的な原則廃止方針」を掲げていたが急に何があったのだろう。気になった記事があった。8月にデジタル相に就いた河野太郎氏は頻繁に口にしていた言葉があった。「保険証があるからマイナンバーカードをみんな持たないんだよ」(朝日新聞10月14日) 政府関係者によると、そう口にした河野氏は厚生労働省に対して保険証の廃止時期の前倒しを強く求めていたという。 しかしマイナンバーカードが普及しないのはそんな理由だったっけ? デジタル庁が今年1~2月に実施したアンケート調査での、「カードを取得しない」おもな理由を見てみよう。・情報流出が怖いから(35.2%)・申請方法が面倒だから(31.4%)・カードにメリットを感じないから(31.3%) ここからわかることは政府が信頼を抱かれていないことや、政府も意義をきちんと説明していないことだ。政策を進めるためには丁寧に説明し、信頼を醸成していくことが先だろう。それなのに河野氏は「保険証があるからマイナンバーカードをみんな持たない」と言い始めた。話をすり替え、国民皆保険制度を人質に取ったように見える。政府への信頼がますます失われていく。悪循環である。「突破力」という表現におぼえた違和感 一方で疑問に感じたのは新聞報道も同じだ。今回の河野氏の手法に対し「突破力」と書いているのを見かけた。《持ち前の突破力で普及の道を開けるのか。手腕が問われる。》(毎日新聞10月14日)《河野氏の「突破力」に期待する岸田文雄首相も、マイナカードの普及率について面会を重ねるたびに、「こんな数字じゃだめだ」「しっかりやってほしい」と発破をかけたという。》(朝日新聞10月14日) 朝日はカギカッコでの表現だが、強引な手法にしか見えないものを「突破力」と書いていて疑問に思わないのだろうか? 岸田政権はなし崩しが多い。国葬のほかには原発の運転期間延長もあった。こういう態度って、参院選前から選挙に勝ったら「黄金の3年」と書いてきた新聞の責任も大きいのではないか? 勘違いさせている一因ではないか。河野流ツイッターの使い方 ちなみに今回の「健康保険証を廃止」というやり方で河野氏のツイッターの使い方も思い出した。 河野太郎氏はエゴサーチして耳が痛い論評者をわざわざ探し出してブロックしている。クソリプするアカウントをブロックするなら理解できるが、政治家の「エゴサブロック」は危険でしかないと思う。 例えば猫をなでてる写真とかカレーがうまかったとか「私」の部分のツイートだけならともかく、河野氏は「公」の情報も出しているからだ。そうすると結局、「耳の痛いことを言う奴はブロックし、公的な情報は自分に従う者にしか見せない」ことになってしまう。 今回の「保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化」という態度はその強引さにおいてそっくりだ。河野氏は保険証をブロックしたのである。そのうえで俺の言うことを聞けと言っているのである。「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった はっきりと「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった。《こんな乱暴な政策転換は認められない。》《あくまで任意であるはずのカード取得を、国民皆保険制度にくっつけて強いるのは、ずるいやり方だ。政府は義務化を図りたいのであれば、国会で堂々と審議をするのが筋である。》(信濃毎日新聞10月14日) 乱暴でずるいものを「突破力」と書いてしまう記者は、考え直したらどうだろうか。 最後にもう一つ重要だと思うことを。マイナンバーカード普及に急ぐ理由には「デジタル化遅れに危機感」「医療DXの基盤に」とあるが、2020年9月に当時の菅義偉首相が「23年3月末までにほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と表明したことが大きい。そのあとポイントをつけてお得に思える誘導に必死だった。政治家が好きな「改革」という言葉 ここでしみじみするのは政治家・菅義偉の手法である。政治家は「改革」という言葉が好きだ。平成以降いろんな政治家が使い続けてきた。菅氏が首相になると携帯電話の値下げという「改革」を訴えた。政治家が30年以上にわたって改革を叫び続けた結果、損得の話しかしなくなったのである。菅氏が仕掛けたふるさと納税も同様だ。そうして「アメ」をみせて誘導するが、自分に従わないとなると「ムチ」をふるう。菅氏の沖縄政策を見てもわかる。 今回も「マイナンバーカード新規取得でポイント付与」というアメには効果がないとみると、今度は河野氏がいきなりムチを振るいだした。プロセスが極端すぎないだろうか。まずは信頼されることから丁寧に始めたらどうでしょう。(プチ鹿島)
よく見かけたのが「事実上の義務化」という言葉だ。何だろうそれ。「事実上の強制」でしょう。ちゃんと書いてくれないと困る。
それにしても政府の「事実上」案件が最近多いことに気づく。
9月末に安倍元首相の国葬があったが、当日おこなわれたものを見るとあれは事実上の政府自民党の合同葬だった。首相が十分な説明をしないことで反対の声が増えると、シレっと国葬たる要素を削っていった。岸田首相は故人に対する敬意と弔意を「国全体」として表す儀式と当初言っていたが、最終的に「国全体」は消えた。
JMPA
《取り繕おうとすればするほど、国葬の性格はあいまいになった。》(毎日新聞9月28日)
そうしておこなわれた国葬のようなものを国葬と言い続ける。リアルタイムでおこなわれた歴史修正と言っていい。やってしまえばこっちのものという態度が見えた。
それは今回の健康保険証廃止も同様だ。今年6月に「将来的な原則廃止方針」を掲げていたが急に何があったのだろう。気になった記事があった。8月にデジタル相に就いた河野太郎氏は頻繁に口にしていた言葉があった。
「保険証があるからマイナンバーカードをみんな持たないんだよ」(朝日新聞10月14日)
政府関係者によると、そう口にした河野氏は厚生労働省に対して保険証の廃止時期の前倒しを強く求めていたという。
しかしマイナンバーカードが普及しないのはそんな理由だったっけ? デジタル庁が今年1~2月に実施したアンケート調査での、「カードを取得しない」おもな理由を見てみよう。
・情報流出が怖いから(35.2%)・申請方法が面倒だから(31.4%)・カードにメリットを感じないから(31.3%)
ここからわかることは政府が信頼を抱かれていないことや、政府も意義をきちんと説明していないことだ。政策を進めるためには丁寧に説明し、信頼を醸成していくことが先だろう。それなのに河野氏は「保険証があるからマイナンバーカードをみんな持たない」と言い始めた。話をすり替え、国民皆保険制度を人質に取ったように見える。政府への信頼がますます失われていく。悪循環である。
「突破力」という表現におぼえた違和感 一方で疑問に感じたのは新聞報道も同じだ。今回の河野氏の手法に対し「突破力」と書いているのを見かけた。《持ち前の突破力で普及の道を開けるのか。手腕が問われる。》(毎日新聞10月14日)《河野氏の「突破力」に期待する岸田文雄首相も、マイナカードの普及率について面会を重ねるたびに、「こんな数字じゃだめだ」「しっかりやってほしい」と発破をかけたという。》(朝日新聞10月14日) 朝日はカギカッコでの表現だが、強引な手法にしか見えないものを「突破力」と書いていて疑問に思わないのだろうか? 岸田政権はなし崩しが多い。国葬のほかには原発の運転期間延長もあった。こういう態度って、参院選前から選挙に勝ったら「黄金の3年」と書いてきた新聞の責任も大きいのではないか? 勘違いさせている一因ではないか。河野流ツイッターの使い方 ちなみに今回の「健康保険証を廃止」というやり方で河野氏のツイッターの使い方も思い出した。 河野太郎氏はエゴサーチして耳が痛い論評者をわざわざ探し出してブロックしている。クソリプするアカウントをブロックするなら理解できるが、政治家の「エゴサブロック」は危険でしかないと思う。 例えば猫をなでてる写真とかカレーがうまかったとか「私」の部分のツイートだけならともかく、河野氏は「公」の情報も出しているからだ。そうすると結局、「耳の痛いことを言う奴はブロックし、公的な情報は自分に従う者にしか見せない」ことになってしまう。 今回の「保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化」という態度はその強引さにおいてそっくりだ。河野氏は保険証をブロックしたのである。そのうえで俺の言うことを聞けと言っているのである。「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった はっきりと「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった。《こんな乱暴な政策転換は認められない。》《あくまで任意であるはずのカード取得を、国民皆保険制度にくっつけて強いるのは、ずるいやり方だ。政府は義務化を図りたいのであれば、国会で堂々と審議をするのが筋である。》(信濃毎日新聞10月14日) 乱暴でずるいものを「突破力」と書いてしまう記者は、考え直したらどうだろうか。 最後にもう一つ重要だと思うことを。マイナンバーカード普及に急ぐ理由には「デジタル化遅れに危機感」「医療DXの基盤に」とあるが、2020年9月に当時の菅義偉首相が「23年3月末までにほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と表明したことが大きい。そのあとポイントをつけてお得に思える誘導に必死だった。政治家が好きな「改革」という言葉 ここでしみじみするのは政治家・菅義偉の手法である。政治家は「改革」という言葉が好きだ。平成以降いろんな政治家が使い続けてきた。菅氏が首相になると携帯電話の値下げという「改革」を訴えた。政治家が30年以上にわたって改革を叫び続けた結果、損得の話しかしなくなったのである。菅氏が仕掛けたふるさと納税も同様だ。そうして「アメ」をみせて誘導するが、自分に従わないとなると「ムチ」をふるう。菅氏の沖縄政策を見てもわかる。 今回も「マイナンバーカード新規取得でポイント付与」というアメには効果がないとみると、今度は河野氏がいきなりムチを振るいだした。プロセスが極端すぎないだろうか。まずは信頼されることから丁寧に始めたらどうでしょう。(プチ鹿島)
一方で疑問に感じたのは新聞報道も同じだ。今回の河野氏の手法に対し「突破力」と書いているのを見かけた。
《持ち前の突破力で普及の道を開けるのか。手腕が問われる。》(毎日新聞10月14日)
《河野氏の「突破力」に期待する岸田文雄首相も、マイナカードの普及率について面会を重ねるたびに、「こんな数字じゃだめだ」「しっかりやってほしい」と発破をかけたという。》(朝日新聞10月14日)
朝日はカギカッコでの表現だが、強引な手法にしか見えないものを「突破力」と書いていて疑問に思わないのだろうか?
岸田政権はなし崩しが多い。国葬のほかには原発の運転期間延長もあった。こういう態度って、参院選前から選挙に勝ったら「黄金の3年」と書いてきた新聞の責任も大きいのではないか? 勘違いさせている一因ではないか。
ちなみに今回の「健康保険証を廃止」というやり方で河野氏のツイッターの使い方も思い出した。
河野太郎氏はエゴサーチして耳が痛い論評者をわざわざ探し出してブロックしている。クソリプするアカウントをブロックするなら理解できるが、政治家の「エゴサブロック」は危険でしかないと思う。
例えば猫をなでてる写真とかカレーがうまかったとか「私」の部分のツイートだけならともかく、河野氏は「公」の情報も出しているからだ。そうすると結局、「耳の痛いことを言う奴はブロックし、公的な情報は自分に従う者にしか見せない」ことになってしまう。 今回の「保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化」という態度はその強引さにおいてそっくりだ。河野氏は保険証をブロックしたのである。そのうえで俺の言うことを聞けと言っているのである。「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった はっきりと「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった。《こんな乱暴な政策転換は認められない。》《あくまで任意であるはずのカード取得を、国民皆保険制度にくっつけて強いるのは、ずるいやり方だ。政府は義務化を図りたいのであれば、国会で堂々と審議をするのが筋である。》(信濃毎日新聞10月14日) 乱暴でずるいものを「突破力」と書いてしまう記者は、考え直したらどうだろうか。 最後にもう一つ重要だと思うことを。マイナンバーカード普及に急ぐ理由には「デジタル化遅れに危機感」「医療DXの基盤に」とあるが、2020年9月に当時の菅義偉首相が「23年3月末までにほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と表明したことが大きい。そのあとポイントをつけてお得に思える誘導に必死だった。政治家が好きな「改革」という言葉 ここでしみじみするのは政治家・菅義偉の手法である。政治家は「改革」という言葉が好きだ。平成以降いろんな政治家が使い続けてきた。菅氏が首相になると携帯電話の値下げという「改革」を訴えた。政治家が30年以上にわたって改革を叫び続けた結果、損得の話しかしなくなったのである。菅氏が仕掛けたふるさと納税も同様だ。そうして「アメ」をみせて誘導するが、自分に従わないとなると「ムチ」をふるう。菅氏の沖縄政策を見てもわかる。 今回も「マイナンバーカード新規取得でポイント付与」というアメには効果がないとみると、今度は河野氏がいきなりムチを振るいだした。プロセスが極端すぎないだろうか。まずは信頼されることから丁寧に始めたらどうでしょう。(プチ鹿島)
例えば猫をなでてる写真とかカレーがうまかったとか「私」の部分のツイートだけならともかく、河野氏は「公」の情報も出しているからだ。そうすると結局、「耳の痛いことを言う奴はブロックし、公的な情報は自分に従う者にしか見せない」ことになってしまう。
今回の「保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化」という態度はその強引さにおいてそっくりだ。河野氏は保険証をブロックしたのである。そのうえで俺の言うことを聞けと言っているのである。
はっきりと「乱暴」「ずるい」と書いた社説もあった。
《こんな乱暴な政策転換は認められない。》
《あくまで任意であるはずのカード取得を、国民皆保険制度にくっつけて強いるのは、ずるいやり方だ。政府は義務化を図りたいのであれば、国会で堂々と審議をするのが筋である。》(信濃毎日新聞10月14日)
乱暴でずるいものを「突破力」と書いてしまう記者は、考え直したらどうだろうか。
最後にもう一つ重要だと思うことを。マイナンバーカード普及に急ぐ理由には「デジタル化遅れに危機感」「医療DXの基盤に」とあるが、2020年9月に当時の菅義偉首相が「23年3月末までにほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と表明したことが大きい。そのあとポイントをつけてお得に思える誘導に必死だった。
ここでしみじみするのは政治家・菅義偉の手法である。政治家は「改革」という言葉が好きだ。平成以降いろんな政治家が使い続けてきた。菅氏が首相になると携帯電話の値下げという「改革」を訴えた。政治家が30年以上にわたって改革を叫び続けた結果、損得の話しかしなくなったのである。菅氏が仕掛けたふるさと納税も同様だ。そうして「アメ」をみせて誘導するが、自分に従わないとなると「ムチ」をふるう。菅氏の沖縄政策を見てもわかる。
今回も「マイナンバーカード新規取得でポイント付与」というアメには効果がないとみると、今度は河野氏がいきなりムチを振るいだした。プロセスが極端すぎないだろうか。まずは信頼されることから丁寧に始めたらどうでしょう。
(プチ鹿島)