芋焼酎の産地・鹿児島、宮崎両県でこの秋、値上げに踏み切るメーカーが相次いでいる。
最大の要因は、伝染病「サツマイモ基腐(もとぐされ)病」の流行による原料の不足だ。サツマイモの収穫量は昨年までの3年間で約3割減少し、収束の兆しも見えない。地元産を使ってブランドを守ってきただけに、関係者は危機感を募らせている。(小園雅寛)
■追い打ち
「イモがこれほど不足するとは思わなかった」
9月下旬、いちき串木野市の浜田酒造の酒蔵。同社社長で県酒造組合会長の浜田雄一郎さん(69)は、主力品種「コガネセンガン」を手に苦渋の表情を浮かべた。
「海童」などを生産する同社は、安定的な生産・出荷が困難となった一部商品の販売を休止。10月1日出荷分から各商品を8%程度値上げした。基腐病で芋が慢性的に不足する中、梱包(こんぽう)資材などの原料や燃料価格の高騰が追い打ちをかけた。浜田さんは「値上げは避けられなかった」と話す。
■有名銘柄も
基腐病は2018年に沖縄、鹿児島両県、19年に宮崎県で確認され、現在は27都道県に拡大。特に3県の被害が大きい。
サツマイモ生産日本一の鹿児島県の収穫量は、18年の27万8300トンから年々減少し、21年は約3割減の19万600トンに落ち込んだ。
中でもあおりを受けたのが芋焼酎だ。組合によると、芋焼酎の生産量も、この3年で3割近く落ち込んだ。
組合などによると、今春頃から値上げするメーカーが出始め、上げ幅は10%程度。「さつま白波」の薩摩酒造(枕崎市)も10月から平均8%値上げし、年内にほとんどの県内メーカーが追随する見通しという。
宮崎県では、売り上げ全国トップの霧島酒造(都城市)が主力の「黒霧島」を9月から、雲海酒造(宮崎市)も10月から値上げした。
■ブランドの危機
行政も手をこまねいているわけではない。
基腐病の対策は、原因菌が付着していない「健全苗」を使うことが有効とされる。国や鹿児島県は、種芋を消毒する蒸熱処理装置を購入する際、一部費用を補助して導入を促している。
国の研究機関も、抵抗性があり、コガネセンガンに近い風味の新品種「みちしずく」を開発した。南九州市のサツマイモ農家、尾曲宰(つかさ)さん(70)は「来年から本格的に植えていきたい」と期待する。
ただ、組合はこれらの対策について「効果が出るまで3年はかかる」として、逆境は続くとみている。
関係者が危惧するのが「薩摩焼酎」ブランドの維持だ。組合には、このままだと県外産サツマイモを使わざるを得なくなるといった声も届いているためだ。
県内の芋焼酎は05年から国税庁の地理的表示制度に基づき、薩摩焼酎の表示とロゴマークによるブランド化を進めてきた。県内のサツマイモや水を使い、製品化まで県内で行うことなどが表示条件となっており、県外産を使うと適用されなくなる。
浜田さんは「これまで築いたブランドが揺らいでしまう」と危機感をあらわにし、「消費者離れが進めば、そうした動きも加速しかねない。値上げしても選ばれるような商品開発に努めるしかない」と話す。
◆サツマイモ基腐病=カビの一種である糸状菌が原因で起こる。感染すれば茎や葉が枯れ、地中の芋が腐り、使えなくなる。地中の芋の残りカスから伝染するほか、雨水でも胞子が拡散してまん延する。約100年前に米国で発見されて南米などに広がり、近年は中国や韓国でも確認された。