【岡村 聡】「日本人ファースト!」は在外日本人にもウケていた…!過剰なおもてなしが生んだインバウンド「外国人ファースト」の行き過ぎた現実

先の参議院選挙では「日本人ファースト」を掲げた参政党が大きく躍進しました。これに国内では賛否両論あるようですが、海外に暮らす私から見れば納得できる部分もあります。
なにより、今の日本のサービスを観れば、外国人観光客を優遇するあまり、日本人が割を食う場面を多く目にするからです。
日本のツーリズム政策に目を向けると、「外国人ファースト」と言える現状があるのではないか――。シンガポールに10年以上暮らす筆者の視点から問題提起したいと思います。
私たち家族はシンガポール在住ですが、毎年夏休みには子どもの希望もあり日本に一時帰国し、国内各地を旅行しています。今年は、子どものスポーツ仲間が九州や中国地方へ本帰国することもあり、西日本を中心に旅する予定です。
日本には、日本全国をJRグループの鉄道で割安に旅行できる外国人向けの「ジャパン・レール・パス(Japan Rail Pass)」があります。国外に10年以上住んでいる在外邦人も在留届の写しなどを提示すれば購入できます。これと同様の割引パスが他にもないか調べてみると、JR西日本も外国人観光客向けにいくつか独自のフリーライドパスを用意していることがわかりました。
早速申し込もうとしたところ、驚きました。残念ながらすべてのチケットについて外国人観光客のみが対象で、日本国籍を保有している在外邦人は購入できなかったのです。
外国人観光客と同じく、航空券や宿泊費など多くの費用をかけて帰国して、国内経済に貢献しているにもかかわらず、「日本人であること」を理由に割引の対象外とされることは、とても残念で、悲しい気持ちになりました。
私たちはコロナの終息の兆しが見られた2021年から、毎年夏休みの時期に1ヵ月以上、欧州本土をめぐる旅行をしています。
欧州でも日本と同様に高速鉄道を利用する機会が多く、ユーレイルパス(Eurail Pass)をはじめ、外国人旅行者向けの割引パスが各国で提供されています。スイスやドイツなど鉄道網の発達した国々でも、観光客向けに日数や地域に応じたパスが販売されています。
しかし、これらの欧州のパスと日本の割引パスを比較すると、いくつかの明確な違いがあります。
最も大きな違いは「割引率の大きさ」です。
日本のジャパン・レイル・パスや地域限定パスは、圧倒的に割安なのです。なにしろ、特定の列車を除いて無制限に乗れる上、正規価格の半額以下なので、乗車回数が少なくても十分に元が取れてしまいます。一方で、欧州のパスは、自国民の利用価格と比較してもせいぜい2~3割程度の割引にとどまります。
さらに欧州では、高速鉄道の多くで“ダイナミックプライシング(変動価格制)”が導入されており、自国民・外国人を問わず、時期や時間帯に応じて正規運賃よりもはるかに安いチケットが手に入るのです。同じ路線でも半額以下と大きなディスカウントがうけられるので、私たちも大陸欧州を旅するときはあまり外国人向けの割引パスは利用しません。
日本の新幹線では、車両やホームに大きなスーツケースを持った外国人旅行者があふれていて地元の人たちの利用にも支障をきたしていますが、このような状況は、欧州では見たことがありません。
このような欧州諸国のなかでも特筆すべき地元民ファーストのサービスを行っているのがドイツです。圧倒的に割安の「ドイチェランドチケット」は、自国民しか購入できません。
それがいかに自国民の納得感があるのかについては、後編『「日本人ファースト!」が心に響いた在外日本人が「ドイツの自国民ファースト」に触れて感じた「日本のインバウンド政策」のやり過ぎ感』でお伝えしていきましょう。
【つづきを読む】「日本人ファースト!」が心に響いた在外日本人が「ドイツの自国民ファースト」に触れて感じた「日本のインバウンド政策」のやり過ぎ感