カラオケという密室で、部下にキスをして胸を揉み、跨って股間を擦り付ける。さらに「この、下僕!」「何で俺の言うことが聞けないんだ」と暴言を–。
【画像】歯科助手だった20代女性は、上司の歯科医師に何をされたのか?
大学院生の傍ら歯科医院で働く30代の男性歯科医師Aが、酒の場で20代の女性部下Bに暴言を吐き、キスや胸を触る、跨って股間を擦り付けるなどしたとして不同意わいせつ罪に問われた裁判が東京地裁であり、7月18日に判決が言い渡された。
事件はカラオケで起こった shibainu/イメージマート
被害者Bは事件のショックで20キロ超も体重が減り、診察した医師からはもう少し体重が減れば、命の危険があるとまで警告されたという。代読の意見陳述では「被告人は私の心を二度、三度と殺しました」と表現した。
被告人Aは被害者に対して謝罪の意思を見せていたというが、通学する大学院での事情聴取に際しては「認めたのは不起訴処分を得るためのストラテジーである」、「不起訴処分になれば相手に損害賠償請求を行う」などと答えていたことが判明。
裁判では、その傲慢な考え方に“ブチ切れ”した自らの弁護人から叱責される場面もあった。医療従事者による許されざる事件の裁判の様子をレポートする。(全2回の1回目/続きを読む)
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裁判初日、入廷した被告人Aは長身で、スーツをキレイに着こなし、清潔感のある外見をしていた。椅子に座る姿勢もよく、質問に対してもハキハキと答える。ただ、そういった外見の印象があるからこそ、事件内容とのギャップが大きく感じられた。
起訴状によると2024年2月、Aは数名で入った都内のカラオケ店において、被害者女性B(当時25歳)に対して、いきなり耳や頬にキスをして、その後着衣の上から胸を揉み、さらに座っていたBの太ももに跨って、頭を押さえつけた状態で陰部を擦り付ける行為を行った。
Aは罪状認否において、キスをしたこと、胸を揉んだことは認めた。陰部を擦り付けた点については、「(酒に酔っていたため)記憶がない」と答えている。その後、裁判全体を通じて、被告人Aの酒癖の悪さや性犯罪への甘い認識について明らかにされていく。
Bは歯科助手として働いており、Aとは上司部下の関係であったが、顔を合わせるのは月に一度程度で、当然プライベートな会話などする関係性ではなかった。カラオケに呼ばれたのも間接的なものであった。
Aがその場に女性を呼ぼうと思った理由は「女性を呼ぶと盛り上がるため」であった。現場での性的な発言に自身の欲求解消の目的はなく、あくまで盛り上げるためと供述するものの、その態度について周囲から指摘されたことも幾度かあったという。
Aの妻によると、過度な飲酒をすると性的な発言をするほかに、傲慢さが出るのだという。被害者参加代理人からも、事件当時Aから「何で俺の言うことがきけないんだ」、「この、下僕!」、「私立のくせに」といった暴言を吐かれたと主張があった。
Aは法廷において、事件当日は過度な飲酒によって自身の傲慢な性格が出たと反省する言葉を述べた。今後は断酒し、クリニックなどにも通い、更生、改心、慰謝の気を忘れずに生活をしていくことなどを誓った。
弁護人からは、大学院からの懲戒処分通知書が提出されている。これはAが事件による社会的制裁を受けている、という主張をするための資料だ。本来、被告人にとって有利に働く証拠であるが、その中に弁護人自ら弁解せざるを得ない箇所が残されていた。
弁護人「大学での事情聴取にて『わいせつ行為を認めたのは、不起訴処分を得るためのストラテジー(戦略)であり本意ではない』と述べたようですが」
A「確かにストラテジーと言いました。しかし、それは研究を続けたい思いからで、今となっては被害者の怒りを増幅させるものとわかっています」
弁護人「大学の方には、深く傷ついた被害者、その家族の気持ちを理解しようとしなかったと思われているようですが」
A「申し訳ないと思う気持ちは嘘ではありません。弁護士を介し謝罪を真摯にしてきたつもりです」
業を煮やしたのか、裁判の中では弁護人がAに対して「あなた論理的にスラスラ言うけど、やった行為と乖離しすぎていないか」、「酒のせいというなら当時からやめろよ」、「次やったら免許も剥奪されて間違いなく破滅ですよ」と諭し、また「ストラテジーとか言うな」など強い口調で詰め寄る場面もあった。
自らの弁護人に説教されたのである。この間、Aは頷くことしかできていなかった。
懲戒処分通知書の提出がAに不利に働く可能性もわかっていたが、事実経過を伝えたい思いで取調べ請求したとも弁護人は説明した。
裁判において、弁護人が被告人を叱責することは珍しいことではないが、それでも今回の裁判の一幕は圧倒されるほどのものであった。背景には、Bの被害感情が非常に大きいこともあるかと思われる。
AはBに対して謝罪の場と慰謝料の提案をしているが、拒絶されている。その思いが意見陳述(代読)という形で裁判中に読み上げられた。以下、要旨を抜粋して紹介する。
私は、歯科医師である父の背中を見て育ちました。患者さんを思いながら仕事する父のようになりたいと思い、歯学部に在籍しながら、歯科助手として頑張ってきました。
今回の事件は国家試験の浪人中に、指導医の資格を持つ被告人からわいせつ被害を受けました。さらに、被害の後に「この、下僕!」、「私立のくせに」と言われたことはさらに辛い出来事でした。それにより私は将来の夢を汚されました。
精神的ダメージは私が思った以上に重く、事件から1年以上経過していますが、今でも2週に一度精神科を受診して、薬も処方されています。体重も事件当時に比べて、23キロも痩せてしまい、あと1.9キロ減ったら命の危険があるとも言われたほどでした。
さらに私を追い詰めているのは、被告人の事件後の対応です。反省していると言いながら、酒のせいにしていると聞いています。また、他に女性トラブルはないと言いますが、私が示談を断っているのは、他にも複数の被害を受けたという女性を知っており、私が金銭を受け取ることで放免とすることは、社会悪だと信じているからです。
裁判の中で「次は免許剥奪」という言葉があったと聞きます。当初より、被害者の私を飛び越えて、不起訴だ、歯科医師の行政処分だなどの発言が繰り返されていることについても、私としては深く傷ついています。
性犯罪は心の殺人と言われています。被告人は私の心を二度、三度と殺しました。被告人には自分がしたことがどういうことか自覚させるために、実刑にして、一定期間社会から隔離して反省を促すしかありません。このような発言をして、逆恨みをされるかもしれません。それでも罰として刑務所に入るべきです。被告人は社会をなめていると思います。
最後に、娘を持たない被告人夫婦には私の両親が受けた苦痛は一生わかることはないと思います。被告人からの報復防止の観点からも、私や家族へ今後一切関わらないお約束をしていただきたく思います。
後編では、情状証人として出廷したAの妻が涙ながらに訴えた内容や、A本人による証言、最終的な判決についてお伝えする。
〈「この、下僕!」20代女性にまたがり陰部を擦り付け、「私立のくせに」と学歴マウントも…性犯罪を犯した“30代・子持ち歯科医師”が受けた「報い」〉へ続く
(普通)