同じクスリや治療でも、時間帯によって効果が大きく変わることが判明しつつある。それは日々の暮らしでも同じこと。自分の中から聞こえてくる「体内時計」の針の音に耳をすませば、より健やかに過ごせる。
誰しもの体に備わっている「体内時計」。約24時間の周期を刻むこの時計のおかげで、人間は朝になると自然に目が覚め、昼になればお腹が空いてくる。
しかし、誤った時間に食事をしたり夜更かししたりすれば、体内時計はいとも簡単に狂ってしまう。生活リズムが乱れるだけで済めばまだいいが、命に関わる深刻な病気をも招きかねない。
健康と密接に関わっている体内時計を正常に保ちたければ、普段の暮らしの中で「時間」を少し意識するだけでいい。38~41ページに示した「最高のタイムスケジュール」も参照しつつ、まずは理想の生活リズムを身につけよう。
一日がスタートする朝。日中の活動に向けて体調を万全に整えるためにも、6時には起床して朝日を浴びたい。山口大学時間学研究所教授の明石真氏が解説する。
「人間の体内時計は、太陽の光を浴びることでリセットされて、新たに時間を刻み始めます。そこで、起きたらまずカーテンを開けて、意識的に朝日を浴びるようにしましょう。15分で構わないので、近所を軽くウォーキングするのもいいでしょう」
家に帰ってきたら朝食の準備だ。つい簡単に済ませがちだが、実は朝食こそ、一日の中でもっとも重要な食事と言っても過言ではない。朝食をしっかりと食べることで、脳だけでなく臓器や筋肉など体の各部位も目覚めるからだ。起床から1時間後、7時ごろを目安に食べ始めよう。
何を食べるかも重要だ。早稲田大学名誉教授の柴田重信氏は、たんぱく質を意識的に摂るよう勧める。
「自然な睡眠を促すメラトニンというホルモンを夜に分泌させるには、朝のうちから材料となるたんぱく質を摂取しておく必要があります。
そこでオススメなのが、焼き鮭とごはんや卵かけごはんなど、糖とたんぱく質が一緒に摂れるメニューです。パン派の人ならツナサンドにするか、牛乳やヨーグルトを追加するといい。そこにごぼうやオクラなどを加えれば、便通を改善できる水溶性食物繊維も摂れて完璧です」
朝食を済ませると、体内の血糖値は急激に上昇していく。いったん上がった血糖値が下がりきる前に昼食を食べると、消化器への負担が大きい。
「朝食を終えてから昼食まで、最低5時間は空けたほうがいいでしょう。朝ごはんが7時だったなら、お昼は12時以降が理想的です」(柴田氏)
外で食べる人も多い昼食は、ついつい脂っこくてハイカロリーなものに手を伸ばしてしまう。ところが柴田氏によれば、昼は比較的、何を食べても問題ない。
「遅い時間にこってりしたものを食べると、より太りやすくなります。夜に食べるくらいだったら、昼食に回したほうが健康にはいいでしょう。
その際、ナスやキャベツ、白菜などカリウムを含む野菜と一緒に摂るのがオススメです。とくに高血圧の人は、昼食にカリウムが不足して体内の塩分濃度が高くなり、血圧が上昇しがち。定食なら野菜の小鉢を1つ追加したり、ラーメンなら、野菜が多く入ったタンメンに変えたりするといいですね」
昼食を終えて血糖値が上昇すると、ついつい眠くなってしまう。しかし長すぎる昼寝は、かえって命取りだ。昼寝が1時間を超えると、空腹時の血糖値が上昇して糖尿病リスクを高めるうえ、認知機能を低下させ、認知症を招きかねない。長くても昼寝は30分以内にとどめ、それでも眠い人は夜の睡眠時間を見直そう。
夕食までに小腹が空いて、おやつに手を伸ばしてしまいたくなるかもしれない。しかし、ここでクッキーやチョコレートを食べると、健康は遠のいてしまう。
「ほとんどの人は、一日3食でカロリーは十分に足りているはず。もし口寂しければ、おやつはナッツ類がオススメです。不足しがちな食物繊維や、亜鉛などのミネラルを補えますし、脂肪分が含まれているので、少量でも腹持ちしやすいのです」(柴田氏)
腹ごしらえが済んだら、筋トレやストレッチなど運動の時間だ。人の体は夕方になると脂肪燃焼効果が高まるうえ、適度な疲労は睡眠の質も高める。ただし、日が落ちてから激しく運動すると体が目覚めてしまうので、遅くとも17時ごろまでには済ませたい。
運動を終えたら夕食だが、食べるのにも「ベストな時間」があるという。
「夕食が遅すぎると、高血糖を招くことがわかっています。朝食から10時間後が理想的なので、朝が7時なら17時、遅くとも19時までには食べ終えてほしいですね。
夕食で糖を摂りすぎると、寝るまでにエネルギーを消費しきれず太りやすくなってしまう。たとえば豚肉ならトンカツではなく冷しゃぶにするなど、夜は意識的にカロリーを控えるといいでしょう。お腹が空いているなら、野菜がたっぷりのスープや豚汁などの汁物を加えれば、満足感が高まります」(柴田氏)
夕食を済ませたら、いよいよ寝る準備だ。食後の行動が、睡眠の質を大きく左右する。
「テレビの光やスマホのブルーライトが目に入ると、体内時計がズレてしまいます。寝る3時間前からは、見ないほうがいいでしょう。
また寝る30分前に風呂から上がれるよう、逆算して入浴を済ませてください。体温が上がりきってから、少しずつ冷めていくときにベッドに入ると、気持ちよく入眠できます」(前出の明石氏)
個人差はあるものの、人間にとってベストな睡眠時間は6~8時間。自分にとって適切な睡眠時間を見極めつつ、6時に起床できるように逆算して眠りたい。
時間を意識する―たったそれだけで、より健康な体に近づけるはずだ。
「週刊現代」2025年07月07日号より
次回記事『血圧を下げたければ、自分の「血圧タイプ」を知るべき…あなたは4つのうちどれ?』へ続く
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