政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が9日、今年1月に自死した竹内英明元兵庫県議への名誉毀損の疑いで兵庫県警に逮捕された。執行猶予中の身で、実刑リスクがある中で、なぜまた一線を越えたのか――。
昨年11月の兵庫県知事選で立花容疑者は、元県民局長の自死やおねだり疑惑で斎藤元彦知事がバッシングを浴びていた状況に「県政改革に不満を感じた誰かが、斎藤氏を陥れようとしている」と参戦。百条委員会で斎藤氏を追及していた竹内氏について「黒幕」「警察の取り調べを受けている」と街頭演説やネット上で発言するなどして、斎藤氏の再選をアシストしていた。
選挙後に竹内氏は誹謗中傷を理由に議員辞職し、今年1月には自死。死去の一報を受け、立花容疑者は「明日逮捕される予定だった」と発信し、遺族が刑事告訴していた。
立花容疑者は2019年に参院選で当選した翌年にNHK集金人が持つ情報端末を撮影した不正競争防止法違反や、NHKに動画を公開すると迫った威力業務妨害、元NHK党だった中央区議を「潰しにいく」とネット上で発言した脅迫の罪で懲役2年6月、執行猶予4年の判決が出て、23年3月に確定していた。
執行猶予中に別の事件で拘禁刑以上が確定した場合は、執行猶予が取り消される。刑確定後は自制していた立花容疑者だが、再び過激化したきっかけとなったのが国政政党「政治家女子48党」(旧NHK党、現みんなでつくる党)のお家騒動だ。
代表権を巡って、大津綾香氏と訴訟合戦となる泥沼の争いに発展し、活動資金の枯渇からスタッフらの維持が困難となり、党勢は減退。昨年の都知事選ではNHK党や関係団体を含めて、24人擁立の「ポスター掲示場ジャック作戦」を仕掛けるも不発に終わり、活路を見いだしたのが兵庫県知事選だった。
立花容疑者のYouTube登録者数は75万人を超え、政界では突出している。電話番号やLINEを公開していることもあり、兵庫県知事選では玉石混交の情報が連日寄せられた。この発信力の高さを利用する形で、当時維新の兵庫県議だった岸口実氏は「黒幕は竹内」とのメモを立花容疑者に渡していたことが後に判明。立花容疑者の完全な裏取りをせずに情報発信し続けた手法は各所にあつれきを生んでいたが、全く意に介すことはなかった。
一方、名誉毀損で身柄拘束となる逮捕にまで至ったことには、法曹関係者の間でも驚きの声が上がっている。在宅起訴が一般的で、県警は逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして、逮捕に踏み切ったと説明しているが、立花容疑者はこれまで複数回の任意聴取に応じていた。執行猶予付きとなった前回の事件でも在宅起訴で、逮捕は今回が初となる。
静岡・伊東市長選(来月7日告示、14日投開票)への出馬表明を10日に現地で行う予定だったことや、先月末に中東のドバイを訪問したことで、県警が身柄拘束に動いた可能性を指摘する声もある。ただ、立花容疑者と親交がある福永活也弁護士は、選挙やドバイ渡航と逮捕の関係性を否定した上で「執行猶予中だと逮捕されやすいというのはあるが、かなり見せしめ的な要素も多いんじゃないか。なんで逮捕したかは兵庫県警の全く別の問題があるんじゃないか」と、県警内の事情が関係した可能性を指摘している。
被害者が死亡した後での名誉毀損での立件も異例で、県警側は過去に逮捕事例があるかどうかは把握していない状況だ。立花容疑者は名誉毀損を認めつつも「真実相当性がある」とかねて無罪を主張しており、当面は起訴されるかどうかが焦点となる。