指導教員の立場にあった女性から性行為を強要されたとして、早稲田大学の学生だった男性が、女性を相手取り損害賠償を求めた訴訟で12月19日、原告・被告双方への本人尋問が東京地裁(鈴木昭洋裁判長)でおこなわれた。
被告である女性側は、原告の男性が主張している性交渉の事実や強要は「一切ありません」と否定した。准教授と学生という関係であっても、当時は「仲の良い友人」だったと説明した。
当初はハラスメントを認定しなかった早稲田大学は、のちにハラスメントと性交渉を事実と認めて、男性に謝罪している。
今回の尋問の中で、女性側が、ハラスメントを認定した懲戒処分の無効を大学に求める裁判を起こし、1審・東京地裁が処分の取り消しと賠償の支払いを命じていたことがわかった。大学側が控訴して、裁判は続いている。
原告男性は2014年、早稲田大学に入学。2017年から2018年にかけて約1年半ほど、ゼミで指導教員の立場にあった女性との間で性交渉があったとうったえている。
男性は2021年3月以降、大学のハラスメント防止委員会と調査委員会に申告したが、いずれも性交渉やハラスメントが認められなかった。2022年3月、当時政治経済学術院の教員だった女性と大学を相手取り損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
その後、大学は「海外への研究出張に学生を同行させ、一緒の部屋に宿泊した行為」などのアカデミックハラスメントがあったとして、同年6月に女性を懲戒処分(停職6カ月)としたことを公表した。
大学は今年5月、性交渉の事実を認めて男性に謝罪し、解決金の支払いや対策を約束するなどの内容で和解が成立した。
一方、女性は、大学に対して、懲戒処分の無効を求める裁判を起こしている。東京地裁は請求を認めて、処分の取り消しと賠償の支払いを命じたという。大学が控訴して裁判は継続している。
男性と女性との間の裁判は、12月19日に双方の本人尋問があった。
男性の証言によれば、2017年3月、女性の台湾出張に同行した際、宿泊先の寝室で「初めて性交渉」があり、男性は「非常に混乱した」という。男性と女性の寝室は同じ建物の1階と2階で別々だったという。
さらに帰国後も、女性の研究室や自宅で性交渉があったとして、このような関係について「これは誰にも言ってはいけない」と女性から口止めされたと主張した。
2019年5月、都内で「女性から”別れ”を告げられた」という。男性はこのときの感情を「普通の人生を送れると肩の荷がなくなった」と振り返った。
男性は、女性からの求めを言葉などで明確に拒否しなかったのは、「権力の差」があったからだと説明した。
「指導教員で、さまざまな側面で力関係は上。私の成績をつける人で、推薦状を書いてもらう立場にある。私の将来の研究にも影響すると思った」
その後、友人に、女性との関係を打ち明けたことなどを通じ、女性との関係が自身への「虐待」にあたると感じるようになったことから、大学に対して申告などをおこなったという。
台湾出張から帰国した3日後、病院で睡眠導入剤を処方されたといい、当時は不調の理由はわからなかったが、「今思えば、被告がどうして非倫理的な行動をするのか、混乱で睡眠の質が低下していたと思う」などと述べた。
また、男性と女性は2017年1月にもプライベートの旅行に行き、女性の子どもと一緒に同じ部屋に宿泊した。また、子どものお迎えなどを引き受けていたことに「苦痛だった」などと述べた。
一方、女性は、男性が主張する性交渉の事実や強要について「そのようなことは一切ありません」と否定した。台湾などの海外出張に連れて行ったのは、研究者志望の男性のためだったという。
「原告は勉強を頑張っていて、研究者になりたいと考えていて、彼のキャリアに有利になるようにできるだけのことをしようとした」
男性は「自分は旅行だった」と否定しているが、女性は男性もポスター発表で学会に参加していたと説明した。
さらに、女性にとって、男性は「大事な友人」だったとして、2017年1月の旅行で一緒に宿泊した際も「女子学生や子どもと泊まる感覚だった」と述べた。また、子どものお迎えなどを頼んでも、男性に嫌がる様子はなかったという。
「当時は迎えにお願いして、3人で仲良く過ごして、嫌がってる様子はありませんでした。原告は私の大事な友人と認識していて、友人にどうしても困ったときにお願いする感じです」
ただ、自宅に男子学生を招く行為は「その際は息子もいたが、当時は公私混同と言われてもしょうがない。誤解を生む行動で不適切だと思う」などと振り返った。
この日の尋問では、准教授という立場は、学生に対して優越的地位にあったのではないかという指摘もされたが、女性は「形式的にはそう評価されても仕方ないが、当時はフラットで、私がえらくて権威を振りかざすということはない」と説明。男性に不利になるような働きかけをしたことはないと反論した。
男性側は「被告から2人の関係は特別と信じ込まされていた」としたが、この点についても、双方の主張はぶつかっている。女性は、むしろ男性が女性に依存するようになったとしている。
「私が他の学生と研究すると、それを詰問したり、他の学生を目の前で褒めると態度が豹変する。穏やかな人だが落差がある」
2018年夏から秋ごろには「私への依存度には薄々気づいて距離をおこうとした」という。
急ではなく、徐々に距離をおこうとしたのは「彼を傷つけるのが怖くてはっきり言えなかった」ことや「友人としてフェードアウトするのがよいと思った」ことにあるという。
2019年5月、距離を置くことを告げた際の描写も、男性の主張とは異なっている。
「原告は久しぶりに私と会えるので本当にうきうきしてニコニコ顔で来て、距離を置いたほうがいいと言ったら、顔が真っ青になって、意気消沈して、ショック状態で帰ったと記憶している」
性交渉があったと主張している男性は、女性とのメッセージのやりとりなどを裁判で証拠提出したうえで「性的な内容のやりとりだ」と主張した。一方、女性はそのように読み取ることはできないと反論した。