「スーパーの鶏肉を鳥刺しにして食べた」。そんな命知らずの投稿がXで波紋を広げています。
鶏肉の生食は法律で直接禁止はされてはいませんが、厚労省が「非常に危険」として繰り返し注意を呼びかけています。過去には、生の鶏肉を提供した店が約1億円もの損害賠償を負った事例もあります。
コメント欄には「子どもが真似をしたらどうするんだ」と懸念の声も上がっています。では、もし真似した子どもが健康被害を受けた場合、投稿者に責任は生じるのでしょうか。
弁護士によると、子どもが真似して食中毒になったとしても、投稿者にただちに法的責任が発生するとは考えにくいとされます。
ただし、倫理的な意味で非難を浴びる可能性は高く、SNS上で誹謗中傷にさらされるリスクもあります。過激な投稿は控えるべきでしょう。
食品衛生法には「鶏肉の生食を禁止する」明文規定はなく、提供がただちに違法となるわけではありません。実際、一部地域では郷土料理として定着しています。
たとえば鹿児島県の「鶏刺し」です。農水省によると、江戸時代に薩摩武士が士風高揚のために闘鶏をおこない、負けた鶏をその場でしめて食べる習慣があったそうです。家庭でも鶏を飼い、来客や祝い事の際に振る舞ってきた文化的背景があります。
現在も鹿児島県では文化を尊重しつつ、安全な食を守るため、独自の衛生基準を設けています。鶏肉の処理工程や店での取り扱いについて、細かい基準が定められています。
厚生労働省は、刺身やタタキなど、加熱していない、あるいは加熱不足の鶏肉を提供することによる「カンピロバクター食中毒」の防止を呼びかけています。
同省によると、カンピロバクターは、ニワトリやウシなどが保有する細菌で、わずかな量でも食中毒の原因になります。このため鶏肉を食べる際には十分な加熱が不可欠とされています。
そのため同省は、鶏肉料理を提供する際、次の点に注意するよう呼びかけています。
・中心部の色が変わるまで加熱する(中心部を75度で1分以上)・食肉は他の食品と調理器具や容器をわけて、処理・保管する・食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う・食肉に触れた調理器具などは使用後に洗浄し消毒・殺菌をする
実際に「鶏刺し」「鶏たたき」「鶏わさ」「生焼けの焼き鳥」などが原因、または疑われる事例が多数報告されているとしています。
過去には、生の鶏肉を提供したことが高額な損害賠償に発展した深刻な事例もあるようです。
日食協ニュース(日本食品衛生協会・日本食品衛生共済協同組合発行)によると、2016年3月、兵庫県内の店舗で「鶏ささみのタタキ」を食べた親子がカンピロバクター食中毒を発症しました。
当時10代だった子どもは回復したものの、当時40代の父親はカンピロバクター食中毒が原因と考えられるギラン・バレー症候群を発症し、手足の麻痺などの後遺症が残りました。
日常生活にも介助が必要となったことから、示談額は約1億円にのぼりました。被害者が働き盛りで扶養家族もいたことを踏まえ、「一般的な損害賠償の相場では2億円に迫る事故」だったと同紙は指摘しています。
なお、生鶏肉を食べたと投稿したアカウントは、この投稿を最後に投稿が途絶えています。無事を祈るばかりです。