知床半島沖で4月に起きた観光船「KAZU I(カズワン)」(乗客乗員26人)の事故を巡り、15日に運輸安全委員会が公表した経過報告書は、運航会社「知床遊覧船」(斜里町)の運航実態だけでなく、北海道運輸局や日本小型船舶検査機構(JCI)の監督・検査の実効性にも問題があったと指摘した。
■要件満たさず
事故発生当時、知床遊覧船の事務所に運航管理者の桂田精一社長の姿はなく、従業員らが慌ただしく対応していた。海上運送法は、運航時における運航管理者の営業所への常駐義務を定めているが、報告書は、同社事務所では不在が常態化していたことを指摘した。
また、同社は経験豊富な乗組員ら5人を昨年2月に雇い止めし、その後、桂田社長が自身を運航管理者に選任したが、桂田社長は同法で定められた「船舶の運航の管理に関し3年以上の実務の経験を有する者」とする運航管理者の要件を満たしていなかった。
桂田社長が運航管理者となった後の昨年5月と6月にカズワンは立て続けに事故を起こした。同運輸局は事故を受け、特別監査や抜き打ち確認を実施し、監査で指摘した安全管理規程や定点連絡地点、連絡手段に関する問題点について、いずれも適切に対処しているとの評価に至った。ただ、事故時はいずれも適切に行われていなかった。
国土交通省海事局船員政策課は「事故を防げなかったことは重く受け止めている。監査能力の向上や必要な体制作りを進める」としている。
■「au」変更認める
カズワンは通信体制も不備が指摘された。報告書によると、同社の安全管理規程では、船長と運航管理者らとの連絡手段だった衛星電話は充電ができず、昨年段階で使用できない状態にあった。そのため、同社は今年4月に連絡手段を衛星電話から豊田徳幸船長(当時54歳)が持つKDDI(au)の携帯電話に変更したいとJCIに申し出て、認められていた。
運輸安全委の調査では、auの携帯電話は沈没地点のカシュニの滝沖も含め、知床半島西側の海上エリアでは、ほぼ圏外となっていた。沈みかけたカズワンからの電話連絡は、旅客の携帯からだった。
また、カズワンは船舶検査証書で船尾船底からの移動が禁止されていたにもかかわらず、重りのバラスト(砂袋)を前方などに分散配置していたことも判明。報告書は、JCIが事故の数日前に行ったカズワンの検査について実効性がなかったと指摘した。
JCIの池田隆之業務部長は取材に対し「内容を確認し、精査する」と述べた。
◇ ハッチからの浸水を事故原因と特定し、運航会社のずさんな安全管理を数多く指摘した運輸安全委員会の報告書。カズワンの乗客家族や地元の斜里町からは、「人災だ」との指弾や、責任追及を求める声が上がった。
家族が行方不明となっている男性は、家族向けの説明会で報告書の内容が示されたといい、「(沈没直前の船上からの電話内容など)知らなかったことも多かった。まだ中間のものなので最終的な報告を待ちたい」と話した。現在も続く捜索で新たな手がかりは見つかっておらず、「ただ(家族の帰りを)待つ身ですから」と言葉少なだった。
ハッチの蓋が閉まっていなかったことが沈没につながった。知床小型観光船協議会(斜里町)の神尾昇勝会長(46)は、「人災的な事故だった可能性がある」と話した上で、「安全管理規程も守らず、船の整備・点検が十分にできていない状況で運航してはいけなかった」と指弾した。
被害者家族を支援する弁護団の山田廣団長は、「ハッチが十分に固定されていなかった認識は、船長らにあったはず」と批判。「被害者家族がとくに重視しているのは責任の所在だ」と話し、事故原因が特定されたことで第1管区海上保安本部の捜査の進展に期待を示した。
報告書は、半島先端付近の文吉湾にある避難港にカズワンが逃げ込まなかったことを問題点と指摘した。事故発生当初、ボランティアで捜索に当たった日本水難救済会斜里救難所の救助長、米沢達三さん(69)は「避難港の存在を十分に認識し、非常時の場合は活用すべきだ」と話した。
報告書で迅速な捜索・救助体制の確立を求められた1管は、「釧路航空基地へのヘリの追加配備と機動救難士の配置については、可能な限り早く対応できるよう努めている。引き続き強化に取り組んでいきたい」とした。