「少しくらいなら……」という我慢が、やがて限界を迎える――。
近年、集合住宅で増えているのが、騒音やマナー違反をきっかけにした隣人トラブルだ。とくに、子育て世代にとっては、日々のささいなストレスが深刻な悩みへと発展するケースも少なくない。
そう話すのは、当時生後数か月の赤ちゃんを育てていた吉川里奈さん(仮名・30代)。騒動の舞台は、彼女が住むアパートの玄関前――そこに、ある日から連日、見知らぬ車が無断で止まるようになった。
吉川さんは、都内のアパートで、夫と生まれたばかりの赤ちゃんと3人での新生活をスタートさせたばかりだった。ある日の夕方、自宅の玄関を開けると、見知らぬ車が止まっていたという。
そこは、「緊急車両・配達車両以外は進入禁止」と明記されたスペースで、住人の駐車場ではなかった。
車の持ち主は、アパートの住人か、その訪問客らしい……。週末には、長時間アイドリングしたまま停車し、友人らしき人物をアパートの前で待たせる姿も見かけたという。そして、とくに困ったのは深夜だった。
しかも、車が塞いでいるのはアパートのメイン出入り口だ。ベビーカーが通れず、首のすわっていない赤ちゃんを抱きながらベビーカーを持ち上げて移動するという「二重苦」に、吉川さんのストレスは限界を迎えていた。
吉川さんはアパートの管理会社に状況を相談した。最初は「駐車禁止」の張り紙が出されたという。
しかし効果が見られず、続いてカラーコーンが設置されたものの、それすらもわざわざどかして車を止める始末だった。
やむを得ず吉川さんは、自費でカラーコーン用のおもりを購入。これでもう動かせないだろう――と期待したのだが、それでも無断駐車は続いた。
そして、再度管理会社と協議をした結果、ついに「最終手段」が下される。
該当する住人への通達とともに、正式に「警察への通報OK」という許可が下りたのだ。
その日を境に、毎日のように現れていた問題の車は、ぴたりと姿を消した。それ以降、無断駐車は一切なくなったという。
「警察に通報」という一言が、なによりも効果的なブレーキとなった――。
吉川さんの言葉には、子育て中の母親ならではの静かな怒りと、揺るがぬ決意が感じられた。