2021年、当時18歳だった女子高校生Wさんが山梨県の小屋で殺害されているのが見つかった事件で、殺人罪などに問われた小森章平被告(29)・妻の和美(いずみ)被告(30)の裁判員裁判初公判が6月2日に東京地裁(染谷武宣裁判長)で開かれた。
【画像】女子高生に執着した小森章平被告の姿 逮捕当時の警察の取り調べに対して、和美被告は「夫と親密だと思い、Wさんに会わないでくれと言った」と供述。章平被告は「妻に嫉妬された」と話していた。だが初公判冒頭陳述で和美被告の弁護人は言った。
「章平さんを守りたい。逮捕時、その一心で嘘をつきました」 事件は和美被告の嫉妬だけで起こったのではない。章平被告による“逆恨み”があった。当時の和美被告はそれを隠していた。◆ ◆ ◆「間違いありません」夫妻は起訴事実を認めた 事件は2021年、8月の終わりに起きた。起訴状によれば、群馬県渋川市に住んでいた夫妻は、東京都墨田区に住むWさんをわいせつ目的で呼び出したうえ誘拐し、山梨県内の小屋でWさんの首をロープで絞めたのち、背中を刺して殺害したという殺人と銃刀法違反、わいせつ略取誘拐の罪に問われている。 証言台の前に並んで立った夫妻は罪状認否でともに「間違いありません」と起訴事実を認めたが、和美被告のみ「完全責任能力がなかった」として犯行当時は心神耗弱状態にあり刑を減刑すべきであると主張した。章平被告は細身の体にグレーのスーツ、伸びた坊主頭。和美被告はふっくらした体型に紺色のジャージを着て、長く伸びた黒髪を後ろで無造作にまとめていた。 夫妻とWさんはツイッターを介して出会った。先にWさんと交流していたのは章平被告だった。「2019年に章平被告とWさんが知り合い、複数のSNSを使って交流していた。お互い名前を伝え、Wさんは自分が高校生であると章平被告に伝えていた。2人はSNSで好意を伝えたり、性的なやりとりをしていた」(検察側冒頭陳述)写真はイメージ iStock.com 夫妻はその翌年である2020年に、同じくツイッターで出会った。翌21年には章平被告の実家で同居を始め、5月に結婚。7月には渋川市の一軒家で二人暮らしを始めたものの、章平被告は無職のまま。和美被告はコンビニでアルバイトをしていた。事件を起こすのはその翌月だ。「妻のいる章平被告から距離を置くように」「5月に結婚して以降も章平被告はWさんに好意を持ち、連日SNSでビデオ通話や性的なやりとりを続けていた。Wさんはこれに応じていたが、次第に、妻のいる章平被告から距離を置くようになった」(同前) 新婚の男性と性的な内容を含む交流は控えたいと考え、Wさんが章平被告から距離を置くのは自然な考えであろう。だが章平被告はWさんに「裏切られた」という思いを抱いた。そして常軌を逸した“復讐”を計画するのである。「Wさんと性的行為に及び、その動画を撮影して口止めする」。しかも章平被告はこれを、まず和美被告に相談したのだという。ところが和美被告は反対するどころか「愛されたいという思いや嫉妬、悪感情から賛同」(同前)。ともにSNSでWさんに「両親に手紙を書く」「家族を巻き込む」と脅した。この結果、事件の1ヶ月前、Wさんは章平被告と初めて都内で対面し、夫妻の“復讐”が果たされた。 その後、Wさんと章平被告はスカイプで長時間通話し、この日をもって関係を解消することに決め、Wさんは章平被告のアカウントをブロックした。ところが章平被告は「すでに2年間親密な関係にあったため、なかなか気持ちを断ち切れないまま不安定になった。連絡が取れなくなったことで逆に連絡したくなり、昔の暴言などを謝って欲しいと思うようになった」(章平被告の弁護人冒頭陳述)のだという。たまたま見つけた小屋へ連れ込み… 話し合いの上でWさんとの関係を解消したはずが、章平被告の逆恨みはその後も止まらなかった。そして事件を起こす。「“章平に接触しない”と約束する書類を書いて欲しい」 和美被告がそんな言葉でWさんを呼び出した。1人で来ないと先日の“復讐”で撮影した画像を家族に送る……と、脅しも交えていた。待ち合わせ場所に来たWさんを車に乗せ、渋川市の自宅に連れ込む。夫妻は自宅の一室に、南京錠を取り付けるなど、あらかじめ準備をしていた。1日ほどWさんを監禁したのち、3人で自宅を出発。山梨県を走行中、たまたま見つけた小屋に連れ込んだ。「2人はこの時点までに、章平被告は口封じや逆恨みの感情を、和美被告は口封じ、嫉妬、悪感情により、Wさんを排除し、章平さんの愛を自分に向けさせたいと思っていた」(検察側冒頭陳述) こうしてロープでWさんの首を絞めたのち、血を浴びないよう、うつ伏せに倒れたWさんにカーペットを乗せ、刃渡り約19センチメートルのサバイバルナイフで背中を4回刺して殺害した。夫をかばうほど依存していた妻 和美被告の弁護人は冒頭陳述で、和美被告が主導した事件ではないと訴えた。「“嫉妬に燃えた私が計画を立てて旦那に協力させた”と逮捕時に供述していたが、これは嘘。真実は章平さんの、Wさんへの執着心。その章平さんを庇うほど彼に依存していた」(和美被告の弁護人による冒頭陳述) さらにこう続けた。「背景には和美さんの生い立ちが関係している。母親はとても厳しく和美さんを支配し、小学校から20歳まで、名前ではなく侮辱的な名で呼んだ。高校1年生の頃からは、実の父から性的虐待を受けていた。ほぼ毎日性的なおもちゃとして虐待を受け続け、人格が未熟なままとなった。前の夫からDVを受けていた自分を助けに来てくれた章平さんに依存した」(同前) 新婚の夫が、女子高校生に執着し、距離を置かれたことから“復讐”……妻は依存心からそれを止められなかったのか。逮捕前の夫婦はVtuberとして活動しており、和美被告は自身のアカウントで2021年8月、妊娠3ヶ月であることを公表していた。〈ここ最近の体調不良に病院へ診察へ行きました。結果としては新しい命が私の中に生まれていました。3ヶ月だそうで予定日は3月くらいになりそうです。〉 逮捕後、和美被告は死産している。 Wさんは臨床心理士になりたいという夢を持っていた。Wさんの母によれば「高校2年のとき、新しい環境や進路への不安などから精神科に通った際、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があった」からだという。 “人の心を救いたい”……その夢の実現のため、大学への進学を希望していたWさんの命を奪った夫妻。被告人質問では「取り返しのつかないことをした」と語った和美被告。章平被告は自身の“逆恨み”が起こした結果について何を語るのか。(高橋 ユキ)
逮捕当時の警察の取り調べに対して、和美被告は「夫と親密だと思い、Wさんに会わないでくれと言った」と供述。章平被告は「妻に嫉妬された」と話していた。だが初公判冒頭陳述で和美被告の弁護人は言った。
「章平さんを守りたい。逮捕時、その一心で嘘をつきました」
事件は和美被告の嫉妬だけで起こったのではない。章平被告による“逆恨み”があった。当時の和美被告はそれを隠していた。
◆ ◆ ◆「間違いありません」夫妻は起訴事実を認めた 事件は2021年、8月の終わりに起きた。起訴状によれば、群馬県渋川市に住んでいた夫妻は、東京都墨田区に住むWさんをわいせつ目的で呼び出したうえ誘拐し、山梨県内の小屋でWさんの首をロープで絞めたのち、背中を刺して殺害したという殺人と銃刀法違反、わいせつ略取誘拐の罪に問われている。 証言台の前に並んで立った夫妻は罪状認否でともに「間違いありません」と起訴事実を認めたが、和美被告のみ「完全責任能力がなかった」として犯行当時は心神耗弱状態にあり刑を減刑すべきであると主張した。章平被告は細身の体にグレーのスーツ、伸びた坊主頭。和美被告はふっくらした体型に紺色のジャージを着て、長く伸びた黒髪を後ろで無造作にまとめていた。 夫妻とWさんはツイッターを介して出会った。先にWさんと交流していたのは章平被告だった。「2019年に章平被告とWさんが知り合い、複数のSNSを使って交流していた。お互い名前を伝え、Wさんは自分が高校生であると章平被告に伝えていた。2人はSNSで好意を伝えたり、性的なやりとりをしていた」(検察側冒頭陳述)写真はイメージ iStock.com 夫妻はその翌年である2020年に、同じくツイッターで出会った。翌21年には章平被告の実家で同居を始め、5月に結婚。7月には渋川市の一軒家で二人暮らしを始めたものの、章平被告は無職のまま。和美被告はコンビニでアルバイトをしていた。事件を起こすのはその翌月だ。「妻のいる章平被告から距離を置くように」「5月に結婚して以降も章平被告はWさんに好意を持ち、連日SNSでビデオ通話や性的なやりとりを続けていた。Wさんはこれに応じていたが、次第に、妻のいる章平被告から距離を置くようになった」(同前) 新婚の男性と性的な内容を含む交流は控えたいと考え、Wさんが章平被告から距離を置くのは自然な考えであろう。だが章平被告はWさんに「裏切られた」という思いを抱いた。そして常軌を逸した“復讐”を計画するのである。「Wさんと性的行為に及び、その動画を撮影して口止めする」。しかも章平被告はこれを、まず和美被告に相談したのだという。ところが和美被告は反対するどころか「愛されたいという思いや嫉妬、悪感情から賛同」(同前)。ともにSNSでWさんに「両親に手紙を書く」「家族を巻き込む」と脅した。この結果、事件の1ヶ月前、Wさんは章平被告と初めて都内で対面し、夫妻の“復讐”が果たされた。 その後、Wさんと章平被告はスカイプで長時間通話し、この日をもって関係を解消することに決め、Wさんは章平被告のアカウントをブロックした。ところが章平被告は「すでに2年間親密な関係にあったため、なかなか気持ちを断ち切れないまま不安定になった。連絡が取れなくなったことで逆に連絡したくなり、昔の暴言などを謝って欲しいと思うようになった」(章平被告の弁護人冒頭陳述)のだという。たまたま見つけた小屋へ連れ込み… 話し合いの上でWさんとの関係を解消したはずが、章平被告の逆恨みはその後も止まらなかった。そして事件を起こす。「“章平に接触しない”と約束する書類を書いて欲しい」 和美被告がそんな言葉でWさんを呼び出した。1人で来ないと先日の“復讐”で撮影した画像を家族に送る……と、脅しも交えていた。待ち合わせ場所に来たWさんを車に乗せ、渋川市の自宅に連れ込む。夫妻は自宅の一室に、南京錠を取り付けるなど、あらかじめ準備をしていた。1日ほどWさんを監禁したのち、3人で自宅を出発。山梨県を走行中、たまたま見つけた小屋に連れ込んだ。「2人はこの時点までに、章平被告は口封じや逆恨みの感情を、和美被告は口封じ、嫉妬、悪感情により、Wさんを排除し、章平さんの愛を自分に向けさせたいと思っていた」(検察側冒頭陳述) こうしてロープでWさんの首を絞めたのち、血を浴びないよう、うつ伏せに倒れたWさんにカーペットを乗せ、刃渡り約19センチメートルのサバイバルナイフで背中を4回刺して殺害した。夫をかばうほど依存していた妻 和美被告の弁護人は冒頭陳述で、和美被告が主導した事件ではないと訴えた。「“嫉妬に燃えた私が計画を立てて旦那に協力させた”と逮捕時に供述していたが、これは嘘。真実は章平さんの、Wさんへの執着心。その章平さんを庇うほど彼に依存していた」(和美被告の弁護人による冒頭陳述) さらにこう続けた。「背景には和美さんの生い立ちが関係している。母親はとても厳しく和美さんを支配し、小学校から20歳まで、名前ではなく侮辱的な名で呼んだ。高校1年生の頃からは、実の父から性的虐待を受けていた。ほぼ毎日性的なおもちゃとして虐待を受け続け、人格が未熟なままとなった。前の夫からDVを受けていた自分を助けに来てくれた章平さんに依存した」(同前) 新婚の夫が、女子高校生に執着し、距離を置かれたことから“復讐”……妻は依存心からそれを止められなかったのか。逮捕前の夫婦はVtuberとして活動しており、和美被告は自身のアカウントで2021年8月、妊娠3ヶ月であることを公表していた。〈ここ最近の体調不良に病院へ診察へ行きました。結果としては新しい命が私の中に生まれていました。3ヶ月だそうで予定日は3月くらいになりそうです。〉 逮捕後、和美被告は死産している。 Wさんは臨床心理士になりたいという夢を持っていた。Wさんの母によれば「高校2年のとき、新しい環境や進路への不安などから精神科に通った際、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があった」からだという。 “人の心を救いたい”……その夢の実現のため、大学への進学を希望していたWさんの命を奪った夫妻。被告人質問では「取り返しのつかないことをした」と語った和美被告。章平被告は自身の“逆恨み”が起こした結果について何を語るのか。(高橋 ユキ)
◆ ◆ ◆
事件は2021年、8月の終わりに起きた。起訴状によれば、群馬県渋川市に住んでいた夫妻は、東京都墨田区に住むWさんをわいせつ目的で呼び出したうえ誘拐し、山梨県内の小屋でWさんの首をロープで絞めたのち、背中を刺して殺害したという殺人と銃刀法違反、わいせつ略取誘拐の罪に問われている。
証言台の前に並んで立った夫妻は罪状認否でともに「間違いありません」と起訴事実を認めたが、和美被告のみ「完全責任能力がなかった」として犯行当時は心神耗弱状態にあり刑を減刑すべきであると主張した。章平被告は細身の体にグレーのスーツ、伸びた坊主頭。和美被告はふっくらした体型に紺色のジャージを着て、長く伸びた黒髪を後ろで無造作にまとめていた。
夫妻とWさんはツイッターを介して出会った。先にWさんと交流していたのは章平被告だった。
「2019年に章平被告とWさんが知り合い、複数のSNSを使って交流していた。お互い名前を伝え、Wさんは自分が高校生であると章平被告に伝えていた。2人はSNSで好意を伝えたり、性的なやりとりをしていた」(検察側冒頭陳述)
写真はイメージ iStock.com
夫妻はその翌年である2020年に、同じくツイッターで出会った。翌21年には章平被告の実家で同居を始め、5月に結婚。7月には渋川市の一軒家で二人暮らしを始めたものの、章平被告は無職のまま。和美被告はコンビニでアルバイトをしていた。事件を起こすのはその翌月だ。
「5月に結婚して以降も章平被告はWさんに好意を持ち、連日SNSでビデオ通話や性的なやりとりを続けていた。Wさんはこれに応じていたが、次第に、妻のいる章平被告から距離を置くようになった」(同前)
新婚の男性と性的な内容を含む交流は控えたいと考え、Wさんが章平被告から距離を置くのは自然な考えであろう。だが章平被告はWさんに「裏切られた」という思いを抱いた。そして常軌を逸した“復讐”を計画するのである。
「Wさんと性的行為に及び、その動画を撮影して口止めする」。しかも章平被告はこれを、まず和美被告に相談したのだという。ところが和美被告は反対するどころか「愛されたいという思いや嫉妬、悪感情から賛同」(同前)。ともにSNSでWさんに「両親に手紙を書く」「家族を巻き込む」と脅した。この結果、事件の1ヶ月前、Wさんは章平被告と初めて都内で対面し、夫妻の“復讐”が果たされた。
その後、Wさんと章平被告はスカイプで長時間通話し、この日をもって関係を解消することに決め、Wさんは章平被告のアカウントをブロックした。ところが章平被告は「すでに2年間親密な関係にあったため、なかなか気持ちを断ち切れないまま不安定になった。連絡が取れなくなったことで逆に連絡したくなり、昔の暴言などを謝って欲しいと思うようになった」(章平被告の弁護人冒頭陳述)のだという。たまたま見つけた小屋へ連れ込み… 話し合いの上でWさんとの関係を解消したはずが、章平被告の逆恨みはその後も止まらなかった。そして事件を起こす。「“章平に接触しない”と約束する書類を書いて欲しい」 和美被告がそんな言葉でWさんを呼び出した。1人で来ないと先日の“復讐”で撮影した画像を家族に送る……と、脅しも交えていた。待ち合わせ場所に来たWさんを車に乗せ、渋川市の自宅に連れ込む。夫妻は自宅の一室に、南京錠を取り付けるなど、あらかじめ準備をしていた。1日ほどWさんを監禁したのち、3人で自宅を出発。山梨県を走行中、たまたま見つけた小屋に連れ込んだ。「2人はこの時点までに、章平被告は口封じや逆恨みの感情を、和美被告は口封じ、嫉妬、悪感情により、Wさんを排除し、章平さんの愛を自分に向けさせたいと思っていた」(検察側冒頭陳述) こうしてロープでWさんの首を絞めたのち、血を浴びないよう、うつ伏せに倒れたWさんにカーペットを乗せ、刃渡り約19センチメートルのサバイバルナイフで背中を4回刺して殺害した。夫をかばうほど依存していた妻 和美被告の弁護人は冒頭陳述で、和美被告が主導した事件ではないと訴えた。「“嫉妬に燃えた私が計画を立てて旦那に協力させた”と逮捕時に供述していたが、これは嘘。真実は章平さんの、Wさんへの執着心。その章平さんを庇うほど彼に依存していた」(和美被告の弁護人による冒頭陳述) さらにこう続けた。「背景には和美さんの生い立ちが関係している。母親はとても厳しく和美さんを支配し、小学校から20歳まで、名前ではなく侮辱的な名で呼んだ。高校1年生の頃からは、実の父から性的虐待を受けていた。ほぼ毎日性的なおもちゃとして虐待を受け続け、人格が未熟なままとなった。前の夫からDVを受けていた自分を助けに来てくれた章平さんに依存した」(同前) 新婚の夫が、女子高校生に執着し、距離を置かれたことから“復讐”……妻は依存心からそれを止められなかったのか。逮捕前の夫婦はVtuberとして活動しており、和美被告は自身のアカウントで2021年8月、妊娠3ヶ月であることを公表していた。〈ここ最近の体調不良に病院へ診察へ行きました。結果としては新しい命が私の中に生まれていました。3ヶ月だそうで予定日は3月くらいになりそうです。〉 逮捕後、和美被告は死産している。 Wさんは臨床心理士になりたいという夢を持っていた。Wさんの母によれば「高校2年のとき、新しい環境や進路への不安などから精神科に通った際、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があった」からだという。 “人の心を救いたい”……その夢の実現のため、大学への進学を希望していたWさんの命を奪った夫妻。被告人質問では「取り返しのつかないことをした」と語った和美被告。章平被告は自身の“逆恨み”が起こした結果について何を語るのか。(高橋 ユキ)
その後、Wさんと章平被告はスカイプで長時間通話し、この日をもって関係を解消することに決め、Wさんは章平被告のアカウントをブロックした。ところが章平被告は「すでに2年間親密な関係にあったため、なかなか気持ちを断ち切れないまま不安定になった。連絡が取れなくなったことで逆に連絡したくなり、昔の暴言などを謝って欲しいと思うようになった」(章平被告の弁護人冒頭陳述)のだという。
話し合いの上でWさんとの関係を解消したはずが、章平被告の逆恨みはその後も止まらなかった。そして事件を起こす。
「“章平に接触しない”と約束する書類を書いて欲しい」
和美被告がそんな言葉でWさんを呼び出した。1人で来ないと先日の“復讐”で撮影した画像を家族に送る……と、脅しも交えていた。待ち合わせ場所に来たWさんを車に乗せ、渋川市の自宅に連れ込む。夫妻は自宅の一室に、南京錠を取り付けるなど、あらかじめ準備をしていた。1日ほどWさんを監禁したのち、3人で自宅を出発。山梨県を走行中、たまたま見つけた小屋に連れ込んだ。
「2人はこの時点までに、章平被告は口封じや逆恨みの感情を、和美被告は口封じ、嫉妬、悪感情により、Wさんを排除し、章平さんの愛を自分に向けさせたいと思っていた」(検察側冒頭陳述)
こうしてロープでWさんの首を絞めたのち、血を浴びないよう、うつ伏せに倒れたWさんにカーペットを乗せ、刃渡り約19センチメートルのサバイバルナイフで背中を4回刺して殺害した。
和美被告の弁護人は冒頭陳述で、和美被告が主導した事件ではないと訴えた。
「“嫉妬に燃えた私が計画を立てて旦那に協力させた”と逮捕時に供述していたが、これは嘘。真実は章平さんの、Wさんへの執着心。その章平さんを庇うほど彼に依存していた」(和美被告の弁護人による冒頭陳述)
さらにこう続けた。
「背景には和美さんの生い立ちが関係している。母親はとても厳しく和美さんを支配し、小学校から20歳まで、名前ではなく侮辱的な名で呼んだ。高校1年生の頃からは、実の父から性的虐待を受けていた。ほぼ毎日性的なおもちゃとして虐待を受け続け、人格が未熟なままとなった。前の夫からDVを受けていた自分を助けに来てくれた章平さんに依存した」(同前)
新婚の夫が、女子高校生に執着し、距離を置かれたことから“復讐”……妻は依存心からそれを止められなかったのか。逮捕前の夫婦はVtuberとして活動しており、和美被告は自身のアカウントで2021年8月、妊娠3ヶ月であることを公表していた。
〈ここ最近の体調不良に病院へ診察へ行きました。結果としては新しい命が私の中に生まれていました。3ヶ月だそうで予定日は3月くらいになりそうです。〉
逮捕後、和美被告は死産している。
Wさんは臨床心理士になりたいという夢を持っていた。Wさんの母によれば「高校2年のとき、新しい環境や進路への不安などから精神科に通った際、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があった」からだという。 “人の心を救いたい”……その夢の実現のため、大学への進学を希望していたWさんの命を奪った夫妻。被告人質問では「取り返しのつかないことをした」と語った和美被告。章平被告は自身の“逆恨み”が起こした結果について何を語るのか。(高橋 ユキ)
Wさんは臨床心理士になりたいという夢を持っていた。Wさんの母によれば「高校2年のとき、新しい環境や進路への不安などから精神科に通った際、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があった」からだという。
“人の心を救いたい”……その夢の実現のため、大学への進学を希望していたWさんの命を奪った夫妻。被告人質問では「取り返しのつかないことをした」と語った和美被告。章平被告は自身の“逆恨み”が起こした結果について何を語るのか。
(高橋 ユキ)