沖縄の貧困家庭から東大合格「周囲に勉強する友達はいませんでした」

―[貧困東大生・布施川天馬]―
東京大学といえば、日本最難関クラスの大学。そこに通う学生の多くは、小さなころから塾通いをして名門中高を通ってきた、いわゆる「エリート」たちです。
しかし、それがすべてではありません。一部には、まったくエリートらしからぬ道筋をたどって東大に合格した学生もいます。ここでは、元落ちこぼれや休学経験者など、「普通の東大生」らしからぬ道を辿って東大へ入学した、みなさんの知らない「リアルな東大生」の姿をお届けします。
◆沖縄の貧困家庭から東大合格
毎年の沖縄県の東大合格者数はわずか数名。全国でも有数の「合格しにくさ」を誇ります。本日はそんな状況から独学で東大に合格した学生のお話を伺います。
「僕は、沖縄の出身なんです。小さい頃に両親が離婚してから、ずっと裕福とは言えない生活をしてきました」
そう語るのは、現役東京大学三年生の仲間令さん。沖縄県の出身だという彼は、経済的にも地理的にも厳しい環境から東京大学を受験して、見事現役にて合格されたと言います。両親ともに大学に通っておらず、家族からの理解も得難い中で、いったいどのようにして彼は育ってきたのでしょうか。
「小学校や中学校の頃は、まったく勉強に興味ありませんでした。家族もみんな大学や勉強なんて無縁でしたし、勉強する友達もいなかった。みんなフラフラ遊んでいるような環境だったんです。そんな中で、僕もその例にもれず、ずっと友達と遊んでいました。今から振り返ってみると、ちょっとやんちゃな時期もあったと思います」
◆勉強する友達が周囲にいない中で
勉強には、当人が勉強家であるかどうか以上に重要なファクターがあります。それは、家庭にも周囲にも勉強をする人がいるかどうか。当人の周りの人間が進んで勉強をするような人間だったなら、子どもたちも自然と勉強をするようになっていきます。それは、生活空間の中に「勉強」という行動が自然と組み込まれているためです。
子どもに勉強させたいなら、親が勉強している姿を見せればよい。逆を言えば、親や友達がまったく勉強をしていないような環境だった場合、そこから勉強家を目指すのは大変な難易度となります。仲間さんもその例にもれず、周囲に流されるまま、まったく勉強をしないで遊び惚けていたのだそうです。
◆勉強が楽しいと思えたワケ
しかし、そんな彼にも転機が訪れます。
「もともと、勉強に対するあこがれみたいなものはありました。といっても『英語話せたらカッコいいだろうな』くらいでしたけど(笑)。一番の転機は中学校の頃だったと思います。当時、学年でもかなり頭が良かった友達と勉強で勝負することになったんです。そこで、YouTubeを見て必死で勉強をしたら、なんと学年トップになれたんです! そこで、『あ、勉強って他の人と競うことができるんだ、楽しいな』って思って、そこからのめりこみました」
仲間さんは、もともと勉強する習慣がなかったとはいえ、そこまで成績が悪い方でもなかったと言います。そんな中で挑まれたテストの成績勝負。相手は成績上位者とはいえ負けられません。そこで彼がとったのはYouTubeを使った勉強。「とある男が授業をしてみた」という授業シリーズで有名な教育系YouTuberの葉一さんの動画を見て、必死に勉強をしたのだそうです。
◆東大合格までの独自プラン

しかし、地元の中学校の学年トップと東京大学合格までには大きな差があります。いったいどのようにして、彼は東大受験までの過酷な道のりを走り切ったのでしょうか?
「もちろん僕も、東京大学が遠い道のりであることはわかっていました。ですから、高校入学と同時に、大学受験までのスケジュールを考えたんです。色々な参考書を読んだりして徹底的にやるべきことをリサーチして、計画を立てました。実際の勉強については、とにかく自分自身の方法論についてアップデートし続けることを意識しました。自習なのだから、やり方が間違っているのは仕方ない。でも、その間違いに気付けないのはいけないことだと思ったんです」
◆勉強法をアップデートし続ける
貧乏だった彼には塾に通うお金もありませんでしたし、そもそも沖縄には有名予備校の教室だって多くはありません。カリスマ講師の授業を受けようと思っても、まずは海を越えて本州まで渡らなくてはいけない。
そんな環境でしたから、彼は早々に「学校や塾の授業を当てにして勉強する」ことに見切りをつけていました。「全部自分で管理して、自分の力で目指さないといけない」ということに、早い段階で気付いていたのです。経済的にも地理的にも恵まれていなくても、東大に合格できると信じていたからこその英断でした。
そうして彼は自習で東大を目指します。この時に心掛けていたのは、とにかく「勉強法をアップデートし続ける」ということ。何か解けない問題にあたった時、彼は「自分の勉強の方法が間違っていたのだ」と考えるのだそうです。そうして、すぐにこれまでやってきた方法を改めます。普通なら、これまでやってきた方法に固執してしまいそうな場面でも、彼はすぐに「自分の方法がおかしい」として改めることに躊躇いがありません。彼自身の能力もさることながら、彼の東大合格の秘訣は、この驚くほど謙虚で自己研鑽を欠かさないその姿勢にこそあったのだと思わされます。
そうして彼は、見事現役で東京大学に合格されたのでした。沖縄、貧乏家庭出身、周りにも勉強が必要だと言ってくれる人がいない……そんな逆境だらけの環境からでも、見事に東大合格という結果を出した仲間さん。彼の合格は、きっと全国の受験生たちにとっても勇気を分け与えるようなものであることでしょう。
次回記事では、仲間さんが現在携わっている事業と、今後の展望について伺っていきます。
<文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―