新型コロナウイルス禍の水際対策が緩和され、インバウンド(訪日客)が急増している。九州を訪れる外国人の数は一気にコロナ禍前の水準に戻りつつあり、福岡市内などではホテルの予約が取りにくい状況も出てきた。宿泊業者側はほくほく顔かと思いきや、急激な客足の回復に対応が追いつかない面も。背景には、長く続いたコロナ禍で傷んだ宿泊業界の受け入れ態勢がある。
パソナ過大請求 医療従事者も3割不足「公金チューチュー」? 14日夕、福岡市博多区のJR博多駅そばにある東洋ホテルでは、チェックインを待つ客が列をなしていた。韓国から訪れた女性は大きなトランクを手に「1週間の旅行です。(熊本県の)阿蘇にも行きます」と笑顔を見せた。
「2月は平日も含めてほぼ満室。3月も週末を中心に既に予約で埋まっている日があります」と、東洋ホテルで支配人代理を務める石橋和樹さん(36)は言う。2022年10月の水際対策の緩和や全国旅行支援が追い風となって宿泊客数は急増。22年12月と23年1月の売り上げは、同月比でコロナ禍前を上回った。多い時で全体の3割ほどが、韓国や台湾などからの外国人観光客という。 九州を訪れるインバウンドは早くもコロナ禍前の水準に回復しつつある。 国土交通省九州運輸局によると、22年12月の九州への外国人入国者数は17万6559人。コロナ禍前の19年12月はクルーズ船での入国者を除くと19万7110人で、その9割になった。福岡市内や外国人観光客に人気の温泉地では予約が取りづらい状況が出ている。 「これほど急激に回復するとは思わなかった。うれしい悲鳴といえばそうかもしれないが……」。意外にも石橋さんは複雑な表情を見せる。業界では宿泊客の急増に対応が追いついていないのが実情だからだ。「うちも人手はぎりぎりで、昨年から求人を出しているがなかなか集まらない。コロナで従業員を減らしたホテルはなおさらだろう」 コロナ禍の3年で宿泊業界で働く人は激減した。 22年版観光白書によると、全国の宿泊業の雇用者数は19年平均で約59万人だったが、21年平均で約46万人と約22%減少した。業界関係者は「空室があっても人手不足でフル稼働できないホテルは多い。宿泊業がイベントリスク(予期せぬ出来事で価値が損なわれる危険性)に弱い産業であることが露呈した」と話す。 深刻なのは、コロナ禍で宿泊業界を離れた人材が戻らないことだ。福岡労働局職業安定課の担当者は「コロナを経て宿泊業は安定感がないという印象が広がり、不安な状況になりそうな仕事は避けたいと思われている」と指摘。「人材確保には業界の売り上げ増に加え、賃金などの労働条件の改善が必要だ」と見る。 宿泊業界の人手不足を受け、行政も対策に乗り出している。福岡県は22年度に計約8000万円の予算を計上し、生産性の向上や人材育成などの取り組みを支援するアドバイザーを宿泊業者に派遣したり、施設整備などに補助金を交付したりする事業を始めた。 今後は韓国や台湾に加え、中国からの観光客も増える見込みだ。九州運輸局観光企画課の担当者は「インバウンドは今後、コロナ禍前以上に増えるだろう。福岡だけでなく、九州各地で宿泊業の人材確保は大きな課題となる。労働条件の改善とともにフロントの無人化や外国人材の活用も進めなければならない」と危機感をにじませる。【平川昌範】
14日夕、福岡市博多区のJR博多駅そばにある東洋ホテルでは、チェックインを待つ客が列をなしていた。韓国から訪れた女性は大きなトランクを手に「1週間の旅行です。(熊本県の)阿蘇にも行きます」と笑顔を見せた。
「2月は平日も含めてほぼ満室。3月も週末を中心に既に予約で埋まっている日があります」と、東洋ホテルで支配人代理を務める石橋和樹さん(36)は言う。2022年10月の水際対策の緩和や全国旅行支援が追い風となって宿泊客数は急増。22年12月と23年1月の売り上げは、同月比でコロナ禍前を上回った。多い時で全体の3割ほどが、韓国や台湾などからの外国人観光客という。
九州を訪れるインバウンドは早くもコロナ禍前の水準に回復しつつある。
国土交通省九州運輸局によると、22年12月の九州への外国人入国者数は17万6559人。コロナ禍前の19年12月はクルーズ船での入国者を除くと19万7110人で、その9割になった。福岡市内や外国人観光客に人気の温泉地では予約が取りづらい状況が出ている。
「これほど急激に回復するとは思わなかった。うれしい悲鳴といえばそうかもしれないが……」。意外にも石橋さんは複雑な表情を見せる。業界では宿泊客の急増に対応が追いついていないのが実情だからだ。「うちも人手はぎりぎりで、昨年から求人を出しているがなかなか集まらない。コロナで従業員を減らしたホテルはなおさらだろう」
コロナ禍の3年で宿泊業界で働く人は激減した。
22年版観光白書によると、全国の宿泊業の雇用者数は19年平均で約59万人だったが、21年平均で約46万人と約22%減少した。業界関係者は「空室があっても人手不足でフル稼働できないホテルは多い。宿泊業がイベントリスク(予期せぬ出来事で価値が損なわれる危険性)に弱い産業であることが露呈した」と話す。
深刻なのは、コロナ禍で宿泊業界を離れた人材が戻らないことだ。福岡労働局職業安定課の担当者は「コロナを経て宿泊業は安定感がないという印象が広がり、不安な状況になりそうな仕事は避けたいと思われている」と指摘。「人材確保には業界の売り上げ増に加え、賃金などの労働条件の改善が必要だ」と見る。
宿泊業界の人手不足を受け、行政も対策に乗り出している。福岡県は22年度に計約8000万円の予算を計上し、生産性の向上や人材育成などの取り組みを支援するアドバイザーを宿泊業者に派遣したり、施設整備などに補助金を交付したりする事業を始めた。
今後は韓国や台湾に加え、中国からの観光客も増える見込みだ。九州運輸局観光企画課の担当者は「インバウンドは今後、コロナ禍前以上に増えるだろう。福岡だけでなく、九州各地で宿泊業の人材確保は大きな課題となる。労働条件の改善とともにフロントの無人化や外国人材の活用も進めなければならない」と危機感をにじませる。【平川昌範】