4月13日午前4時ごろ、千葉県松戸市内のマンション敷地内に倒れていた少女2人を住人の男性が発見して、110番通報した。報道によれば、一人はすでに死亡していた。もう一人は搬送先の病院で死亡が確認された。
【写真】亡くなった女子高生、YさんとXさん 専門家は、自殺した女子高生がアルコールとともに市販薬を過量摂取するなどし、酩酊状態になっていたのではないかと指摘。その上で厚生労働省やこども家庭庁などに対策を講じるよう提言している。
「Xさんは推しとの恋愛に悩んでいた」 亡くなった女子高生のうち一人は新潟に住むXさん。すでに文春オンラインでも背景について触れている。YouTuberとの恋愛について悩んでいたとも言われている。Xさんと何度かツイッターのDMでやりとりをし、「一度、電話をしたことがある」という、同年代の女性は、「けっこう前に聞いた話ですが、Xさんは推しと上手くいかなくて悩んでいたみたいです」 と話し、亡くなる直前のYouTuberとの恋愛とは別件の悩みも聞いていた。醜形恐怖症や躁鬱を患っていたYさん また、もう一人の女子高生は千葉県松戸市在住のYさん。Yさんを知る複数の人物に話を聞くことができた。そのうちの一人が、数年前から毎日のように通話していたという女性だ。「好きなバンドが同じで仲良くなりました。『神聖かまってちゃん』です。LINEで通話していたときは、よく『死にたい』と私に話してくれたりしていました。醜形恐怖症や躁鬱で外に出られないなどと話していました。ただ、見た目は可愛かったし、実際に会ったときは、悩んでいることがわからないくらい陽気さや明るさがありました。急に歌い出したりとかもしていました」 Yさんの悩みはいったい何だったのだろうか。外国出身の母親との関係に悩んでいた「さらに家族関係や将来のこと、学校のことで、精神的に参っていました。最近も、一人で自殺未遂をしていました。 聞いていた話では、母親はアジア系の外国人で、精神病を患っていたということです。精神病のためか、Yさんが小さい頃から、母親は自殺未遂をしたり、『お前なんか生まなければ良かった』などの暴言を吐かれていたようでした。家の中のものを投げられたりもされていたようです。 それに、喧嘩をするときは、母親は外国語で話をするので、何を言われているのかわからなかったそうです。母親は夜の仕事をしていると言っていました。おそらくパブやスナックだと思います。父親に隠れて浮気をしているかもしれないと話していました。 父親に『離婚したほうがいい』と伝えたこともあるようです。しかし、父親からは反応がなかった。母親を好きなので離れられないみたいだとも。基本的に父親は優しいようですが、お酒が入ると気が大きくなるとか、母親は父親に依存しているというようなことも言っていました」 実際にYさんの母親が浮気していたかはわからない。ただ、パブやスナックで働いていたとなると、営業として客と電話やLINEでやりとりをしたり、同伴やアフターなどで食事することもあるだろう。そのため、客と過ごす時間が多かったことは想像できる。それを浮気だと誤認した可能性はある。しかし、そのことをきちんと説明できない関係だったのだろうか。 外国出身の母親とその子どもとの関係性には悩みが多い。筆者も同種のケースを取材したことがあるが、日本社会と母国との文化的な違いから良好な関係が取りにくいという場合もある。こうした親子関係への支援は、なかなか行き届かない。過去にも自殺配信で命を絶った人が ところで、自殺配信は、今回の2人が初めてではない。2010年11月9日、仙台市青葉区のアパートに住む会社員の男性(24)が、匿名掲示板「2ちゃんねる」で自殺予告をして、動画配信サービス「USTREAM」で配信。室内で自殺した映像が流されたことがあった。この男性は、自殺の動機としてナンパの失敗をあげ、配信の中でこう話していた。「(自分は)孤独な男性でしたね。大学時代の友達とはたまにメールしたりして、すごい心癒されることもあるけど、大学とは離れているんで、なかなか会う機会がないし、辛いっすね。心の支えを無くしてしまいましたね。家庭崩壊してしまったし」 2013年11月24日、滋賀県近江八幡市のマンションに住む中学3年の女子生徒(14)が自らの自殺をツイキャスで配信した。この生徒は、「2ちゃんねる」で遺書のような書き込みをし、自殺配信を予告した。書き込み内容によると、受験のストレスがあったようだ。〈伝説になる〉〈ちやほやされる〉とも書かれていた。警察が個人情報を特定し、自殺リスクのある男性を保護したケースも こうした自殺配信に対する対策としては、プロバイダ等への協力体制がある。「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」(2005年10月作成)によると、インターネットユーザーやサイト管理者、違法有害情報の通報を受け付けている「インターネット・ホットライン・センター」(IHC)などから警察が認知した場合、発信者を特定するため、警察はプロバイダ等へ協力依頼をする。特定できた場合、発信者宅などへ行き、人命救助をする。「相談してきた男性の自殺リスクが高まった際、警察に通報したことがあります。個人情報を特定した警察が男性宅に向かい、保護したケースがありました」(NPO関係者) ちなみに、IHCによると、2021年中に寄せられた「自殺誘引等情報」2611件のうち、2199件の削除依頼を行なっている。そのうち、942件(42.8%)が削除された。「市販薬」に依存する10代が徐々に増加 また、最近の自殺配信で共通するのは、市販薬の過量摂取が関係していることだ。今回の松戸市の事案でも、直前にアルコールを飲みながら、市販薬などを過量摂取した疑いがある。筆者の取材でも、類似の自殺や自殺未遂、自傷行為をしている若年層がいる。※写真はイメージです AFLO「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022年9~10月調査、2468人)」によると、10代の薬物依存患者(46人)のうち、「主たる薬物」の65.2%が、風邪薬や鎮痛剤、咳止め薬などの「市販薬」だ。2014年の調査では「市販薬」はゼロだったが、その後徐々に増加。2020年調査の段階で「市販薬」が56.4%と半数を超えた。 今回の2人の女子高生が自殺したときも、直前に市販薬や処方薬をアルコール飲料で飲んだと思われる写真がTwitterでアップされていた。「実態調査」に関わった、精神科医の松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部)はこう推測する。「市販薬による高揚、興奮、もしかすると現実感喪失や幻覚が、アルコールの作用によって強まり、死に対する恐怖感がなくなり、あのような行動を促したと思われます」自殺対策の「自殺総合対策大綱」には「市販薬」に関連する記述はない ツイッターを読むと、2人は以前から希死念慮があり、市販薬の過量摂取をしていた形跡がある。希死念慮と過量摂取との関係性について、松本さんはこう述べる。「精神作用の過量摂取による酩酊の脱抑制は、つらい気持ちを自殺念慮へと変容させ、さらに自殺念慮の行動化を促進します」 自殺対策の大枠を示す「自殺総合対策大綱」(2022年10月14日閣議決定)には、「市販薬」に関連する記述はない。「薬剤師」は「ゲートキーパー養成」で触れているだけ。昨年12月に改訂されたばかりの生徒指導の基本書「生徒指導提要」(改訂版)でも、薬物乱用については触れているが、「市販薬」についての記述はない。市販薬の依存・過量摂取と若年層の自殺との関係について、松本さんは注視している。販売する店舗独自で販売制限をするべき「厚生労働省には、これまでの市販薬政策や自殺対策を見直してほしいですね。昨年度末まではブロンは1人1箱までなのにパブロンは販売制限がありませんでした。ただ、この4月からはパブロンも1人1箱に制限されました。しかし、一昨年8月に市販化されたメジコンはいくら国に訴えても制限対象になっていません。 こうなったら各店舗独自で販売制限すべきです。頻回購入者に対して官民のさまざまな社会資源の情報提供をするなど、ドラッグストアチェーンにも対策を講じるようにしてほしい。さらに、若年層の自殺との関連も推測されることから、『子どもの自殺対策室』を設置した『こども家庭庁』にも対策をお願いしたい」◆◆◆【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)(渋井 哲也)
専門家は、自殺した女子高生がアルコールとともに市販薬を過量摂取するなどし、酩酊状態になっていたのではないかと指摘。その上で厚生労働省やこども家庭庁などに対策を講じるよう提言している。
亡くなった女子高生のうち一人は新潟に住むXさん。すでに文春オンラインでも背景について触れている。YouTuberとの恋愛について悩んでいたとも言われている。Xさんと何度かツイッターのDMでやりとりをし、「一度、電話をしたことがある」という、同年代の女性は、
「けっこう前に聞いた話ですが、Xさんは推しと上手くいかなくて悩んでいたみたいです」
と話し、亡くなる直前のYouTuberとの恋愛とは別件の悩みも聞いていた。
醜形恐怖症や躁鬱を患っていたYさん また、もう一人の女子高生は千葉県松戸市在住のYさん。Yさんを知る複数の人物に話を聞くことができた。そのうちの一人が、数年前から毎日のように通話していたという女性だ。「好きなバンドが同じで仲良くなりました。『神聖かまってちゃん』です。LINEで通話していたときは、よく『死にたい』と私に話してくれたりしていました。醜形恐怖症や躁鬱で外に出られないなどと話していました。ただ、見た目は可愛かったし、実際に会ったときは、悩んでいることがわからないくらい陽気さや明るさがありました。急に歌い出したりとかもしていました」 Yさんの悩みはいったい何だったのだろうか。外国出身の母親との関係に悩んでいた「さらに家族関係や将来のこと、学校のことで、精神的に参っていました。最近も、一人で自殺未遂をしていました。 聞いていた話では、母親はアジア系の外国人で、精神病を患っていたということです。精神病のためか、Yさんが小さい頃から、母親は自殺未遂をしたり、『お前なんか生まなければ良かった』などの暴言を吐かれていたようでした。家の中のものを投げられたりもされていたようです。 それに、喧嘩をするときは、母親は外国語で話をするので、何を言われているのかわからなかったそうです。母親は夜の仕事をしていると言っていました。おそらくパブやスナックだと思います。父親に隠れて浮気をしているかもしれないと話していました。 父親に『離婚したほうがいい』と伝えたこともあるようです。しかし、父親からは反応がなかった。母親を好きなので離れられないみたいだとも。基本的に父親は優しいようですが、お酒が入ると気が大きくなるとか、母親は父親に依存しているというようなことも言っていました」 実際にYさんの母親が浮気していたかはわからない。ただ、パブやスナックで働いていたとなると、営業として客と電話やLINEでやりとりをしたり、同伴やアフターなどで食事することもあるだろう。そのため、客と過ごす時間が多かったことは想像できる。それを浮気だと誤認した可能性はある。しかし、そのことをきちんと説明できない関係だったのだろうか。 外国出身の母親とその子どもとの関係性には悩みが多い。筆者も同種のケースを取材したことがあるが、日本社会と母国との文化的な違いから良好な関係が取りにくいという場合もある。こうした親子関係への支援は、なかなか行き届かない。過去にも自殺配信で命を絶った人が ところで、自殺配信は、今回の2人が初めてではない。2010年11月9日、仙台市青葉区のアパートに住む会社員の男性(24)が、匿名掲示板「2ちゃんねる」で自殺予告をして、動画配信サービス「USTREAM」で配信。室内で自殺した映像が流されたことがあった。この男性は、自殺の動機としてナンパの失敗をあげ、配信の中でこう話していた。「(自分は)孤独な男性でしたね。大学時代の友達とはたまにメールしたりして、すごい心癒されることもあるけど、大学とは離れているんで、なかなか会う機会がないし、辛いっすね。心の支えを無くしてしまいましたね。家庭崩壊してしまったし」 2013年11月24日、滋賀県近江八幡市のマンションに住む中学3年の女子生徒(14)が自らの自殺をツイキャスで配信した。この生徒は、「2ちゃんねる」で遺書のような書き込みをし、自殺配信を予告した。書き込み内容によると、受験のストレスがあったようだ。〈伝説になる〉〈ちやほやされる〉とも書かれていた。警察が個人情報を特定し、自殺リスクのある男性を保護したケースも こうした自殺配信に対する対策としては、プロバイダ等への協力体制がある。「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」(2005年10月作成)によると、インターネットユーザーやサイト管理者、違法有害情報の通報を受け付けている「インターネット・ホットライン・センター」(IHC)などから警察が認知した場合、発信者を特定するため、警察はプロバイダ等へ協力依頼をする。特定できた場合、発信者宅などへ行き、人命救助をする。「相談してきた男性の自殺リスクが高まった際、警察に通報したことがあります。個人情報を特定した警察が男性宅に向かい、保護したケースがありました」(NPO関係者) ちなみに、IHCによると、2021年中に寄せられた「自殺誘引等情報」2611件のうち、2199件の削除依頼を行なっている。そのうち、942件(42.8%)が削除された。「市販薬」に依存する10代が徐々に増加 また、最近の自殺配信で共通するのは、市販薬の過量摂取が関係していることだ。今回の松戸市の事案でも、直前にアルコールを飲みながら、市販薬などを過量摂取した疑いがある。筆者の取材でも、類似の自殺や自殺未遂、自傷行為をしている若年層がいる。※写真はイメージです AFLO「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022年9~10月調査、2468人)」によると、10代の薬物依存患者(46人)のうち、「主たる薬物」の65.2%が、風邪薬や鎮痛剤、咳止め薬などの「市販薬」だ。2014年の調査では「市販薬」はゼロだったが、その後徐々に増加。2020年調査の段階で「市販薬」が56.4%と半数を超えた。 今回の2人の女子高生が自殺したときも、直前に市販薬や処方薬をアルコール飲料で飲んだと思われる写真がTwitterでアップされていた。「実態調査」に関わった、精神科医の松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部)はこう推測する。「市販薬による高揚、興奮、もしかすると現実感喪失や幻覚が、アルコールの作用によって強まり、死に対する恐怖感がなくなり、あのような行動を促したと思われます」自殺対策の「自殺総合対策大綱」には「市販薬」に関連する記述はない ツイッターを読むと、2人は以前から希死念慮があり、市販薬の過量摂取をしていた形跡がある。希死念慮と過量摂取との関係性について、松本さんはこう述べる。「精神作用の過量摂取による酩酊の脱抑制は、つらい気持ちを自殺念慮へと変容させ、さらに自殺念慮の行動化を促進します」 自殺対策の大枠を示す「自殺総合対策大綱」(2022年10月14日閣議決定)には、「市販薬」に関連する記述はない。「薬剤師」は「ゲートキーパー養成」で触れているだけ。昨年12月に改訂されたばかりの生徒指導の基本書「生徒指導提要」(改訂版)でも、薬物乱用については触れているが、「市販薬」についての記述はない。市販薬の依存・過量摂取と若年層の自殺との関係について、松本さんは注視している。販売する店舗独自で販売制限をするべき「厚生労働省には、これまでの市販薬政策や自殺対策を見直してほしいですね。昨年度末まではブロンは1人1箱までなのにパブロンは販売制限がありませんでした。ただ、この4月からはパブロンも1人1箱に制限されました。しかし、一昨年8月に市販化されたメジコンはいくら国に訴えても制限対象になっていません。 こうなったら各店舗独自で販売制限すべきです。頻回購入者に対して官民のさまざまな社会資源の情報提供をするなど、ドラッグストアチェーンにも対策を講じるようにしてほしい。さらに、若年層の自殺との関連も推測されることから、『子どもの自殺対策室』を設置した『こども家庭庁』にも対策をお願いしたい」◆◆◆【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)(渋井 哲也)
また、もう一人の女子高生は千葉県松戸市在住のYさん。Yさんを知る複数の人物に話を聞くことができた。そのうちの一人が、数年前から毎日のように通話していたという女性だ。
「好きなバンドが同じで仲良くなりました。『神聖かまってちゃん』です。LINEで通話していたときは、よく『死にたい』と私に話してくれたりしていました。醜形恐怖症や躁鬱で外に出られないなどと話していました。ただ、見た目は可愛かったし、実際に会ったときは、悩んでいることがわからないくらい陽気さや明るさがありました。急に歌い出したりとかもしていました」
Yさんの悩みはいったい何だったのだろうか。
「さらに家族関係や将来のこと、学校のことで、精神的に参っていました。最近も、一人で自殺未遂をしていました。
聞いていた話では、母親はアジア系の外国人で、精神病を患っていたということです。精神病のためか、Yさんが小さい頃から、母親は自殺未遂をしたり、『お前なんか生まなければ良かった』などの暴言を吐かれていたようでした。家の中のものを投げられたりもされていたようです。
それに、喧嘩をするときは、母親は外国語で話をするので、何を言われているのかわからなかったそうです。母親は夜の仕事をしていると言っていました。おそらくパブやスナックだと思います。父親に隠れて浮気をしているかもしれないと話していました。
父親に『離婚したほうがいい』と伝えたこともあるようです。しかし、父親からは反応がなかった。母親を好きなので離れられないみたいだとも。基本的に父親は優しいようですが、お酒が入ると気が大きくなるとか、母親は父親に依存しているというようなことも言っていました」
実際にYさんの母親が浮気していたかはわからない。ただ、パブやスナックで働いていたとなると、営業として客と電話やLINEでやりとりをしたり、同伴やアフターなどで食事することもあるだろう。そのため、客と過ごす時間が多かったことは想像できる。それを浮気だと誤認した可能性はある。しかし、そのことをきちんと説明できない関係だったのだろうか。
外国出身の母親とその子どもとの関係性には悩みが多い。筆者も同種のケースを取材したことがあるが、日本社会と母国との文化的な違いから良好な関係が取りにくいという場合もある。こうした親子関係への支援は、なかなか行き届かない。
ところで、自殺配信は、今回の2人が初めてではない。2010年11月9日、仙台市青葉区のアパートに住む会社員の男性(24)が、匿名掲示板「2ちゃんねる」で自殺予告をして、動画配信サービス「USTREAM」で配信。室内で自殺した映像が流されたことがあった。この男性は、自殺の動機としてナンパの失敗をあげ、配信の中でこう話していた。
「(自分は)孤独な男性でしたね。大学時代の友達とはたまにメールしたりして、すごい心癒されることもあるけど、大学とは離れているんで、なかなか会う機会がないし、辛いっすね。心の支えを無くしてしまいましたね。家庭崩壊してしまったし」
2013年11月24日、滋賀県近江八幡市のマンションに住む中学3年の女子生徒(14)が自らの自殺をツイキャスで配信した。この生徒は、「2ちゃんねる」で遺書のような書き込みをし、自殺配信を予告した。書き込み内容によると、受験のストレスがあったようだ。〈伝説になる〉〈ちやほやされる〉とも書かれていた。
こうした自殺配信に対する対策としては、プロバイダ等への協力体制がある。「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」(2005年10月作成)によると、インターネットユーザーやサイト管理者、違法有害情報の通報を受け付けている「インターネット・ホットライン・センター」(IHC)などから警察が認知した場合、発信者を特定するため、警察はプロバイダ等へ協力依頼をする。特定できた場合、発信者宅などへ行き、人命救助をする。
「相談してきた男性の自殺リスクが高まった際、警察に通報したことがあります。個人情報を特定した警察が男性宅に向かい、保護したケースがありました」(NPO関係者)
ちなみに、IHCによると、2021年中に寄せられた「自殺誘引等情報」2611件のうち、2199件の削除依頼を行なっている。そのうち、942件(42.8%)が削除された。
また、最近の自殺配信で共通するのは、市販薬の過量摂取が関係していることだ。今回の松戸市の事案でも、直前にアルコールを飲みながら、市販薬などを過量摂取した疑いがある。筆者の取材でも、類似の自殺や自殺未遂、自傷行為をしている若年層がいる。
※写真はイメージです AFLO
「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022年9~10月調査、2468人)」によると、10代の薬物依存患者(46人)のうち、「主たる薬物」の65.2%が、風邪薬や鎮痛剤、咳止め薬などの「市販薬」だ。2014年の調査では「市販薬」はゼロだったが、その後徐々に増加。2020年調査の段階で「市販薬」が56.4%と半数を超えた。
今回の2人の女子高生が自殺したときも、直前に市販薬や処方薬をアルコール飲料で飲んだと思われる写真がTwitterでアップされていた。「実態調査」に関わった、精神科医の松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部)はこう推測する。
「市販薬による高揚、興奮、もしかすると現実感喪失や幻覚が、アルコールの作用によって強まり、死に対する恐怖感がなくなり、あのような行動を促したと思われます」
ツイッターを読むと、2人は以前から希死念慮があり、市販薬の過量摂取をしていた形跡がある。希死念慮と過量摂取との関係性について、松本さんはこう述べる。
「精神作用の過量摂取による酩酊の脱抑制は、つらい気持ちを自殺念慮へと変容させ、さらに自殺念慮の行動化を促進します」
自殺対策の大枠を示す「自殺総合対策大綱」(2022年10月14日閣議決定)には、「市販薬」に関連する記述はない。「薬剤師」は「ゲートキーパー養成」で触れているだけ。昨年12月に改訂されたばかりの生徒指導の基本書「生徒指導提要」(改訂版)でも、薬物乱用については触れているが、「市販薬」についての記述はない。市販薬の依存・過量摂取と若年層の自殺との関係について、松本さんは注視している。販売する店舗独自で販売制限をするべき「厚生労働省には、これまでの市販薬政策や自殺対策を見直してほしいですね。昨年度末まではブロンは1人1箱までなのにパブロンは販売制限がありませんでした。ただ、この4月からはパブロンも1人1箱に制限されました。しかし、一昨年8月に市販化されたメジコンはいくら国に訴えても制限対象になっていません。 こうなったら各店舗独自で販売制限すべきです。頻回購入者に対して官民のさまざまな社会資源の情報提供をするなど、ドラッグストアチェーンにも対策を講じるようにしてほしい。さらに、若年層の自殺との関連も推測されることから、『子どもの自殺対策室』を設置した『こども家庭庁』にも対策をお願いしたい」◆◆◆【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)(渋井 哲也)
自殺対策の大枠を示す「自殺総合対策大綱」(2022年10月14日閣議決定)には、「市販薬」に関連する記述はない。「薬剤師」は「ゲートキーパー養成」で触れているだけ。昨年12月に改訂されたばかりの生徒指導の基本書「生徒指導提要」(改訂版)でも、薬物乱用については触れているが、「市販薬」についての記述はない。市販薬の依存・過量摂取と若年層の自殺との関係について、松本さんは注視している。
「厚生労働省には、これまでの市販薬政策や自殺対策を見直してほしいですね。昨年度末まではブロンは1人1箱までなのにパブロンは販売制限がありませんでした。ただ、この4月からはパブロンも1人1箱に制限されました。しかし、一昨年8月に市販化されたメジコンはいくら国に訴えても制限対象になっていません。
こうなったら各店舗独自で販売制限すべきです。頻回購入者に対して官民のさまざまな社会資源の情報提供をするなど、ドラッグストアチェーンにも対策を講じるようにしてほしい。さらに、若年層の自殺との関連も推測されることから、『子どもの自殺対策室』を設置した『こども家庭庁』にも対策をお願いしたい」
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
(渋井 哲也)