北海道江差町のグループホーム(GH)が知的障害のある入居者に対し、結婚や同居をする場合に不妊・避妊処置を求めていた問題で、GHを運営する社会福祉法人「あすなろ福祉会」の樋口英俊理事長らが19日、報道陣の取材に応じた。
樋口理事長は「提案しただけで、選択したのは本人たち」と主張したが、専門家や福祉関係者からは「入居者に寄り添った対応ではない」と批判の声も上がっている。
あすなろ福祉会は、町内外で知的障害者らを支援する複数のGHなどを運営し、約410人の利用者がいる。
同会のGHでは1990年代後半から、入居者同士が結婚などを希望した際、男性には精管を縛るパイプカット手術、女性には避妊リングの装着を求めていた。当事者のほか、家族や後見人らを交え、「もし子供ができたら、うちの施設では世話ができない」と説明し、処置への同意を取っていたといい、この20年余りの間に8組16人が実際に手術などを受けていた。
樋口理事長は報道陣の取材に、「障害者が経済的に自立し余裕ができた時、『男女交際がしたい』と考えるのは自然」としたうえで、処置については「一つの方法として提案し、選択したのは本人たち。同意なしにできるわけがない」と強調。「子育てがしたいとの希望は1組もなかった」と述べた。
子供を産み、育てるかどうかを自分で決める権利(リプロダクティブ権)は基本的人権の一つとされ、本人の意思に反して不妊・避妊処置が行われた場合は、この権利の侵害に当たる恐れがある。旧優生保護法の下で行われた障害者の強制不妊手術などを巡る裁判でも、旧法を違憲とし、国の賠償責任を認める判断が相次いでいる。
今回の問題を受け、道や町は19日、樋口理事長から聞き取りを行うなど事実関係の調査に乗り出した。厚生労働省も道の報告を受け、対応を検討するとしている。
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あすなろ福祉会の対応について、会津大短期大学部の市川和彦教授(障害者福祉論)は「『サービスが利用できなくなる』などの条件があれば、施設側の言い分を受け入れるしかなくなるのでは」と疑問視。子供を持つ選択肢を諦めさせるのではなく、生まれた場合の支援方法を検討する必要があったとし、「入居者に寄り添った対応とは言えない」と語った。
各地の障害者支援施設からは「今の時代に考えられない行き過ぎた行為だ」「性教育は必要だが、不妊や避妊を要求するようなことはあり得ない」といった批判の一方、公的支援の不足を訴える声も聞かれる。
群馬県富岡市の社会福祉法人「上州水土舎」の金谷透理事長(75)は、GHの入居者本人の外出にスタッフが付き添った場合には国から補助金が出るのに、入居者の子供の保育所への送迎や急病対応では補助が受けられない点を指摘。「知的障害を持った親が子供を産み、育てるということを国が想定できていない」とし、「入居者に子供を産ませないという選択をさせる施設は、他にもあると思う」と話した。
■「避妊方法提案」…理事長ら一問一答
取材に応じた「あすなろ福祉会」の樋口理事長らの一問一答は次の通り。
――結婚や同居を希望する利用者に不妊処置を要求したのか。
「8組16人に、同居すると妊娠する可能性があると伝え、保護者とも相談して、『避妊』の方法を提案しただけ。ケアは利用者本人が対象で、子供の世話まではできない。(不妊処置を受けると)選択したのも、本人や保護者だ」
――強制ではなかったか。
「8組のうち妊娠や出産を希望したカップルは1組もいなかった。避妊させられることが不満で退所した人もいない。(処置は)本人や保護者の同意がなければ、病院もできない」
――病院には法人職員も同行したのか。
「保護者自身も高齢だったり、障害者だったりで、病院選びや同行が難しい場合、『勝手に行って』と見放すのか? 職員が同行するのは『強制』でも何でもなく、当然の仕事だ」