かつて「日本一貧乏な水族館」を自称していた、和歌山県すさみ町立エビとカニの水族館。ユニークな展示企画、積極的なSNS発信などで、ファン拡大に努めてきたが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響に続き、物価高が運営に影を落とす。館を訪ね、この3年の苦闘ぶりを聞いた。【竹内之浩】
雄と一緒にいたのに単為生殖で産卵?トラフザメの赤ちゃん展示経費削減も限界 「今年1月の電気代を見て目を疑った」。開口一番、平井厚志館長(39)は言った。猛暑の夏場を上回り、過去最高の月額約84万円。使用量は前年同期より約5%減ったのに、料金は約45%、26万円も上がった。「コロナ以降、節電に努めてきたが、もう削れない」と嘆いた。

館は町と指定管理協定を結ぶ会社「ネイチャーネットワーク」(東京都)が運営する。元中学校体育館を活用した町立施設だが、町から払われる指定管理料はなく、逆に同社が施設使用料として入館料収入の3%を町に納めている。 同社が館運営を始めたのは24年前。当初、入場無料で町が委託金や光熱費を負担したが、2010年度で打ち切られた。以後は自主運営で「日本一貧乏」な状況をしのぐ中、町の誘致で15年9月、現在地に移り、再び町立となった。 移転した15年度の入館者は7カ月で6万人を超えたが、年々減少し、コロナ禍の20年度は約3万人に落ち込んだ。取り組んだのが、経費削減とSNSを使った収益増や情報発信だった。 館と関連施設の運営費は年間約3000万円。スタッフを2人減らし、年間約700万円の電気代削減にも努めた。水槽の適温維持のためには冷却機やヒーターの稼働は欠かせず、電気は館運営の要だ。展示している生き物150種1000匹を減らしたり、飼育環境を変えたりはできないため、入れ替え用として予備水槽で飼っていた100種を半減させた。これらの取り組みで年間約500万円を削減。19年度に続き、20年度も赤字だったが、赤字幅の増大を最小限に食い止めた。5類移行後に期待 一方、SNS関係では月1回、ウェブコンサルタントの指導を受け、公式ツイッターやユーチューブの更新を増やし、オンラインショップも開いた。反響があったのが、オンラインショップと連動したイベントだ。21年春の「エビカニ総選挙」では、投票の代わりに選びたい生き物の缶バッジ(300円)を買ってもらい、327票を集めた。 毎月の血液検査代がかさむ高齢ペンギンの飼育費捻出のため、21年11月から続ける「ペンギンの羽根募金」もショップで受け付けた。これまでに3年分の飼育費350万円が届いた。これらを考案した学芸員の辻尾奈都美さん(30)は「コロナで来られない遠方の方も参加でき、収入につながるイベントを意識した。以前は来館者にしか考えが回らなかった。視野が広がった」。巡回水族館用の新車資金を募った昨夏のクラウドファンディングも、目標以上の440万円が集まった。 情報発信などの効果で21年度の入館者は約4万4000人、22年度もそれを上回るペースとなっている。しかし、電気代の高騰が影を落とす。22年度の料金は前年度より3割以上増える見込みだ。回復傾向だった入館者も下半期は前年度を下回り、館は物価高の影響が表れているとみている。 平井館長は3年間を「苦しい時期だったが、巡回水族館などの取り組みに多くの人が共感してくれて励みになった」と振り返る。5月からはコロナの5類移行という新たな局面を迎える。「今後、人の動きやイベントが増える。来館者増を図ると共に、どんどん外に出て収入を上げたい」と、巡回などに活路を見いだす。
経費削減も限界
「今年1月の電気代を見て目を疑った」。開口一番、平井厚志館長(39)は言った。猛暑の夏場を上回り、過去最高の月額約84万円。使用量は前年同期より約5%減ったのに、料金は約45%、26万円も上がった。「コロナ以降、節電に努めてきたが、もう削れない」と嘆いた。
館は町と指定管理協定を結ぶ会社「ネイチャーネットワーク」(東京都)が運営する。元中学校体育館を活用した町立施設だが、町から払われる指定管理料はなく、逆に同社が施設使用料として入館料収入の3%を町に納めている。
同社が館運営を始めたのは24年前。当初、入場無料で町が委託金や光熱費を負担したが、2010年度で打ち切られた。以後は自主運営で「日本一貧乏」な状況をしのぐ中、町の誘致で15年9月、現在地に移り、再び町立となった。
移転した15年度の入館者は7カ月で6万人を超えたが、年々減少し、コロナ禍の20年度は約3万人に落ち込んだ。取り組んだのが、経費削減とSNSを使った収益増や情報発信だった。
館と関連施設の運営費は年間約3000万円。スタッフを2人減らし、年間約700万円の電気代削減にも努めた。水槽の適温維持のためには冷却機やヒーターの稼働は欠かせず、電気は館運営の要だ。展示している生き物150種1000匹を減らしたり、飼育環境を変えたりはできないため、入れ替え用として予備水槽で飼っていた100種を半減させた。これらの取り組みで年間約500万円を削減。19年度に続き、20年度も赤字だったが、赤字幅の増大を最小限に食い止めた。
5類移行後に期待
一方、SNS関係では月1回、ウェブコンサルタントの指導を受け、公式ツイッターやユーチューブの更新を増やし、オンラインショップも開いた。反響があったのが、オンラインショップと連動したイベントだ。21年春の「エビカニ総選挙」では、投票の代わりに選びたい生き物の缶バッジ(300円)を買ってもらい、327票を集めた。
毎月の血液検査代がかさむ高齢ペンギンの飼育費捻出のため、21年11月から続ける「ペンギンの羽根募金」もショップで受け付けた。これまでに3年分の飼育費350万円が届いた。これらを考案した学芸員の辻尾奈都美さん(30)は「コロナで来られない遠方の方も参加でき、収入につながるイベントを意識した。以前は来館者にしか考えが回らなかった。視野が広がった」。巡回水族館用の新車資金を募った昨夏のクラウドファンディングも、目標以上の440万円が集まった。
情報発信などの効果で21年度の入館者は約4万4000人、22年度もそれを上回るペースとなっている。しかし、電気代の高騰が影を落とす。22年度の料金は前年度より3割以上増える見込みだ。回復傾向だった入館者も下半期は前年度を下回り、館は物価高の影響が表れているとみている。
平井館長は3年間を「苦しい時期だったが、巡回水族館などの取り組みに多くの人が共感してくれて励みになった」と振り返る。5月からはコロナの5類移行という新たな局面を迎える。「今後、人の動きやイベントが増える。来館者増を図ると共に、どんどん外に出て収入を上げたい」と、巡回などに活路を見いだす。