4月に予定されている統一地方選挙。選挙といえば多くの候補者が争うというイメージもあるが、今問題となっているのは「地方議員のなり手が足りない」ということ。その理由を探るべく、ある地方議員を取材した。
和歌山県有田川町。有田みかんで有名な人口およそ2万5000人の町だ。

椿原竜二 有田川町議会議員:みなさんおはようございます。有田川町議会議員の椿原竜二でございます
街頭に立つ町の最年少議員・椿原竜二さんは33歳。現在2期目で、去年1月に行われた選挙では、無投票で当選した。
議会の議員定数16人に対し、立候補したのが15人と、初めて「定数割れ」したため投票が行われなかったのだ。
4年前の2019年の統一地方選挙でも無投票で当選した議員は、都道府県議会議員のおよそ27%、町村議会議員の23%と、無投票当選の割合は過去最高を記録した。(*総務省データによる)
さらに全国8つの町と村で「定数割れ」し、地方議員の「なり手不足」が浮き彫りとなった。その原因の一つが、若者の立候補者の少なさだ。
有田川町でも議員の平均年齢は63歳、3分の2が年金受給の対象者で、30代は椿原さんただ1人だ。
町の若者は・・・
20代:あんまり興味ないっすね、政治には
30代:議員をですか?…やってみたくないです
20代:ちょっとみんなの生活考えてやってる分には(議員報酬が)安いかなと思います

政治への関心が低い上、議員報酬が少ないことも立候補しにくい理由のようだ。
有田川町の議員報酬は、ひと月23万円と条例で定められていて、税金などを差し引かれると、手取りは15~16万円ほどになってしまう。
椿原竜二町議:僕は結婚もしてなくて独身で、一人でしたから、動きやすい状態だったから、立候補できましたけど、やっぱり家庭持ってて、家族を守っていかなあかんという方はなかなかチャレンジはしにくい状況だろうな…と

では、「報酬」を上げれば若者を含めて議員のなり手は増えるのか? ほかの町議らにも話を伺うと…
増谷憲 町議:国会議員とか政令指定都市の議員だったら報酬額高いでしょう?(有田川町で)上げたとしても和歌山県下の町村議会でそんなに若い人が出てくるかなって思う
岡省吾 町議:生活に余裕のある人だけが議会に上がってくるということになれば、偏った議会の編成にもなってしまいますし…
椿原竜二 町議:(他で)収入がある方しか挑戦できない議会ってのは、やっぱり僕は違うと思います。けれども、議員報酬が目的で議員になるっていうのも違うと思うんです
椿原さんも初当選から2年間は議員報酬のみで生活していたが…
椿原竜二町議:研修に行くお金がないっていうのが実際問題としてあって…

報酬と、月6000円の政務活動費では足りず、2020年からは「夜の時間」に副業を始めた。それが…
椿原竜二町議:もしもし、お世話になってます~。はい、きょう乗ってます~

なんと、「お客様の車」を運転する「運転代行」。客に椿原町議のことを知っているか尋ねてみた。
Q)こちらの運転手さんってご存じでいらっしゃいます?夫婦:知らないです
夫:有名な方なんですか?”代行(運転)界”の大エースみたいな?
椿原竜二町議:僕、有田川町で議員やらせてもらってて
夫:え!お名前は‥
椿原竜二町議:椿原と申します
夫:あっ!わかりました。何回か、職場にも来ていただいたことがあって
椿原竜二町議:えっ!?そうなんですか
夫:はい、もう普段から、すごい物腰がやわらかい方やなーと思ってたんです。ほんまに

椿原町議は、こうした会話が町の政治に生きると言う。
若手議員が増えることを願い、時には隣の市に住む後輩に対し、地元での立候補を勧める場面も…
椿原竜二町議:もう言い出して半年ぐらいになる?
後輩:なりますね…
椿原竜二町議:立候補を決意してくれないんですよ
後輩:ないですね
椿原竜二町議:なんでなん?
後輩:なんでなんですかねぇ…奥さんの理解とかもありますし、ねぇ
椿原さんの夢は、有田川町をみんなが戻ってくる町にすること。 それには、あらゆる年代の議員が必要だと言う。
椿原竜二町議:若年層の政治離れって言うのは一番、大きな課題やなって思ってます。なかなかチャレンジするにもハードルが高いと思ってる方も当然いるし…どうすればチャレンジしやすい環境を作れるのかってのは、やっぱり考えていかなあかんとこやろうなと思いますね
減少の一途をたどる町村議会の立候補者の数…
政治に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫さんは「地方自治体は二元代表制。市長や町村長も住民が直接選んでいますが、チェックする議会も同じく住民が選んでいる。この二元代表制がしっかり機能しなければいけないのに、首長が間違ったときにチェックする側の議会の方が人がいないとか人材がいないというのは自治体にとって極めてマイナスで問題」だと話した。
適切なチェック機能を果たすためにも「地方議員のなり手がいない」ことは、今後、考えていかないといけない問題となっている。
(関西テレビ「報道ランナー」2023年1月27日放送)