「テロリストに狙われていると主張する依頼者もいました。暗殺者がレーザーポインター付きの銃で自分を四六時中狙っていると」――知っているようで知らない「探偵」のお仕事に密着。
【画像】ビルの影に隠れ、鋭い目つきで調査委対象者を追う探偵(写真9枚) いったいどうすれば探偵になれるのか? 依頼者の様子や、その仕事内容とは? 探偵業にまつわる悲喜こもごもをキャリア13年になる探偵 小沢氏に聞いた。(全3回の1回目/#2、#3を読む)探偵業の「知られざる苦労」とは?

◆◆◆新卒で「探偵」になったワケ――小沢さんは大学卒業後、“新卒”で探偵になられたそうですね。就職活動はしたんですか?探偵 小沢さん(以下、小沢) 普通の学生と同じように就職活動をしていました。たしかブライダル業界とか受けていましたね。アングラ色の強い探偵とは、真逆のイメージですよね(笑)。――ブライダル業界! 何か理由はあったんですか?小沢 他人の恋愛や男女関係にどこか惹かれる部分があったのかなぁ……。でも、どうもしっくりこなくて。他の業界で興味を持てそうな仕事を探しているときに「探偵」の仕事に出会ったんです。 よく遊んでいたゲームに、探偵社とか、探偵のキャラクターが出ていたんですよ。かつ僕は中二病なところがあるので、「探偵ってかっこいいかも!」って(笑)。その後、すぐに求人を探して、新卒で某大手探偵会社に入社しました。――周囲の反応はどうでしたか?小沢 友人たちは「小沢らしいね」とすんなり受け入れてくれましたが、両親からはとにかく反対されました。うちは父親が会社員、母親は主婦でパートタイマーというごく平凡な家庭だったので。 反対の理由は社会的地位の低さでしたね。僕は好きだからまったく気にしてなかったけど、世間的にはまだまだ探偵って胸を張って言える仕事ではなかったようなので……。――入社してからはどうでしたか?小沢 大学在学中にまず探偵学校に通って、理論を学びました。実際のスキルは調査員として現場に入ってから。 憧れで入ったものの、最初は「パンチの効いたところに入っちゃったなぁ……」と思いましたね。頭ではわかっていても、張り込みとか尾行とかって、仕事内容としてやっぱりどこかおかしい。――現在の肩書は「私立探偵」ですよね。なぜ独立を?小沢 新卒で入った探偵会社で4~5年ほど修業しましたが、とにかく環境が良くなかった。探偵ビジネスって、浮気や素行調査とか基本的に「他人の不幸」をネタに儲ける仕事なので、ボッタクリが横行しやすい業界なんですよ。そこで働く人たちも、ちょっとゴロツキめいた人が多いというか。 たとえば、下っ端の場合、毎日現場に行かされて、寝る時間もない。だから張り込み中についウトウトしちゃって、調査対象者の出入りを見逃す社員もいるんですよ。 にもかかわらず、依頼者には確認できないことにつけ込んで、「6時間張り込みましたが、出入りはありませんでした」と報告してお金を貰う……。そんな足元を見るようなビジネスは嫌だったし、それ以上に人の役に立っている実感がない。 僕の理想としていた探偵の仕事と、かけ離れた実態がありました。その上、派閥争いや先輩の圧力など、人間関係のわずらわしさにもウンザリ。そんなとき、同僚が一斉にやめるという事件が起きて、僕も独立を決めたわけです。行方不明になってしまった探偵も…――ドラマのように「変装」することもあるのですか?小沢 僕はあまりしないほうです。そこに長く留まっても怪しまれないように、風景に溶け込むことが肝心だと思っているので。オフィス街ではスーツを着るとか、お祭りの時には浴衣を着るとか、その程度です。――時には身の危険を感じることも?小沢 もちろん探偵の仕事に危険はつきものです。調査対象者が立ち寄った先が、偶然、暴力団本部の真横の建物だったこともありました。その近辺で張り込むわけですが、暴力団の構成員らしき人もこちらを見張っているわけです。いや、そっちに用事があるわけじゃないのに(笑)。 ほかにも筋骨隆々のアメリカ軍人に囲まれたり、雪が降りしきる中、何時間も外で張り込みを続けたりなど過酷な状況はいくつもありました。 でも、本当に怖いのは対象にこちらの存在がバレてしまうこと。会社員時代の同僚は見つかってボコボコにされたこともありますし、中には調査中、行方不明になった人もいます。その人はどこかに埋められてしまった……というウワサですね。探偵社に届く「ヤバい依頼」の数々――これまで変わった依頼はありましたか?小沢 変わった依頼はたくさんありましたよ。たとえば「謎の組織が某テレビ局を狙っているから、怪しいやつがいないか周辺の撮影をしてきてほしい」という依頼。複数人で何十時間も張り込みましたが、怪しいやつの基準もあいまいですし、結局「いませんでした」と報告して終わりです。 ほかにもテロリストに狙われていると主張する依頼者にも会いました。暗殺者がレーザーポインター付きの銃で自分を四六時中狙っていると。僕は「それは大変ですね」と話を聞いていましたが、同僚が興味本位で「でも、額にレーザーポインターが当てられているって、なんでわかるんですか?」と聞いてしまって。いやいや、それを言っちゃ元も子もないだろと(笑)。――依頼者はどうしたんですか?小沢 何もひるまずに、「いや狙われてるんです、間違いなく」と。でも結局、それで話は終わってしまいましたね。 あと印象深かったのは、「お月さまに追いかけられているから、証明してほしい」という依頼もありました。依頼者はかなりお年を召された女性でしたが、家族に相談しても信用してもらえないと。事実を証明するために、自分が月に追われているところを映像に収めてほしいというのです。後日、月夜に待ち合わせて、歩いている彼女と月が1つの画角に収まるように撮影したことがあります。――ちなみにそのときのお値段は……?小沢 3日間で80万くらいだったと記憶しています。あ、これらの変な依頼の数々はすべて、僕がまだ会社勤めの探偵だった頃の話ですよ。今は独立して仕事を選べるので、絶対にやりません。(笑)一番多いトラブルは「お金」――それだけ高額だと、依頼者とトラブルが起きることも多いのでは?小沢 会社員時代は、料金に関するクレームが本当に多かったです。さきほども話に出たように、探偵が働いていなかったとしても、それが依頼者にバレることはまずない。 依頼者も何かしらのトラブルや心配事を抱えて依頼するわけですから、わざわざネットやSNSで探偵社を告発することもない。リピーターがつく商売でもないので、業者側はやったもん勝ちなんですよね。ちなみに独立してからは、依頼者とのトラブルは一度もありません。――探偵への依頼料を高いと思われますか?小沢 うーん、それはすごく難しい。日数や稼働人数にもよりますし。あと高いと思うかどうかは、依頼者によります。依頼者は自分の感情に対してお金を払っているというか、納得感を買っているようなところがあるので。 たとえば、今付き合っている恋人は独身だと言っているけど、どうも怪しいから調査してほしいという女性がいたとします。探偵に相談している時点で、実はもう彼女の中で答えは出ているんですよね。そのモヤモヤを解消するために、彼女はわざわざお金を払っているわけで、探偵側の働きぶりはそこまで重要じゃないことも多いんです。――なるほど。では、探偵という仕事でやりがいを感じる瞬間は?小沢 依頼者がその後の人生で幸せになることですね。たとえば僕が見つけた証拠のおかげで、離婚調停や裁判がうまくいったとか。そんな前向きな話を聞けたときはやりがいを感じます。 いくらこちらが証拠を見つけても、依頼者が不幸になることだってあります。大げさでなく、できることなら僕に依頼してくれた人たちすべてが幸せになってほしいですね。写真=山元茂樹/文藝春秋「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く(吉河 未布)
いったいどうすれば探偵になれるのか? 依頼者の様子や、その仕事内容とは? 探偵業にまつわる悲喜こもごもをキャリア13年になる探偵 小沢氏に聞いた。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
探偵業の「知られざる苦労」とは?
◆◆◆
――小沢さんは大学卒業後、“新卒”で探偵になられたそうですね。就職活動はしたんですか?
探偵 小沢さん(以下、小沢) 普通の学生と同じように就職活動をしていました。たしかブライダル業界とか受けていましたね。アングラ色の強い探偵とは、真逆のイメージですよね(笑)。
――ブライダル業界! 何か理由はあったんですか?
小沢 他人の恋愛や男女関係にどこか惹かれる部分があったのかなぁ……。でも、どうもしっくりこなくて。他の業界で興味を持てそうな仕事を探しているときに「探偵」の仕事に出会ったんです。
よく遊んでいたゲームに、探偵社とか、探偵のキャラクターが出ていたんですよ。かつ僕は中二病なところがあるので、「探偵ってかっこいいかも!」って(笑)。その後、すぐに求人を探して、新卒で某大手探偵会社に入社しました。
――周囲の反応はどうでしたか?
小沢 友人たちは「小沢らしいね」とすんなり受け入れてくれましたが、両親からはとにかく反対されました。うちは父親が会社員、母親は主婦でパートタイマーというごく平凡な家庭だったので。
反対の理由は社会的地位の低さでしたね。僕は好きだからまったく気にしてなかったけど、世間的にはまだまだ探偵って胸を張って言える仕事ではなかったようなので……。
――入社してからはどうでしたか?
小沢 大学在学中にまず探偵学校に通って、理論を学びました。実際のスキルは調査員として現場に入ってから。
憧れで入ったものの、最初は「パンチの効いたところに入っちゃったなぁ……」と思いましたね。頭ではわかっていても、張り込みとか尾行とかって、仕事内容としてやっぱりどこかおかしい。
――現在の肩書は「私立探偵」ですよね。なぜ独立を?
小沢 新卒で入った探偵会社で4~5年ほど修業しましたが、とにかく環境が良くなかった。探偵ビジネスって、浮気や素行調査とか基本的に「他人の不幸」をネタに儲ける仕事なので、ボッタクリが横行しやすい業界なんですよ。そこで働く人たちも、ちょっとゴロツキめいた人が多いというか。
たとえば、下っ端の場合、毎日現場に行かされて、寝る時間もない。だから張り込み中についウトウトしちゃって、調査対象者の出入りを見逃す社員もいるんですよ。 にもかかわらず、依頼者には確認できないことにつけ込んで、「6時間張り込みましたが、出入りはありませんでした」と報告してお金を貰う……。そんな足元を見るようなビジネスは嫌だったし、それ以上に人の役に立っている実感がない。 僕の理想としていた探偵の仕事と、かけ離れた実態がありました。その上、派閥争いや先輩の圧力など、人間関係のわずらわしさにもウンザリ。そんなとき、同僚が一斉にやめるという事件が起きて、僕も独立を決めたわけです。行方不明になってしまった探偵も…――ドラマのように「変装」することもあるのですか?小沢 僕はあまりしないほうです。そこに長く留まっても怪しまれないように、風景に溶け込むことが肝心だと思っているので。オフィス街ではスーツを着るとか、お祭りの時には浴衣を着るとか、その程度です。――時には身の危険を感じることも?小沢 もちろん探偵の仕事に危険はつきものです。調査対象者が立ち寄った先が、偶然、暴力団本部の真横の建物だったこともありました。その近辺で張り込むわけですが、暴力団の構成員らしき人もこちらを見張っているわけです。いや、そっちに用事があるわけじゃないのに(笑)。 ほかにも筋骨隆々のアメリカ軍人に囲まれたり、雪が降りしきる中、何時間も外で張り込みを続けたりなど過酷な状況はいくつもありました。 でも、本当に怖いのは対象にこちらの存在がバレてしまうこと。会社員時代の同僚は見つかってボコボコにされたこともありますし、中には調査中、行方不明になった人もいます。その人はどこかに埋められてしまった……というウワサですね。探偵社に届く「ヤバい依頼」の数々――これまで変わった依頼はありましたか?小沢 変わった依頼はたくさんありましたよ。たとえば「謎の組織が某テレビ局を狙っているから、怪しいやつがいないか周辺の撮影をしてきてほしい」という依頼。複数人で何十時間も張り込みましたが、怪しいやつの基準もあいまいですし、結局「いませんでした」と報告して終わりです。 ほかにもテロリストに狙われていると主張する依頼者にも会いました。暗殺者がレーザーポインター付きの銃で自分を四六時中狙っていると。僕は「それは大変ですね」と話を聞いていましたが、同僚が興味本位で「でも、額にレーザーポインターが当てられているって、なんでわかるんですか?」と聞いてしまって。いやいや、それを言っちゃ元も子もないだろと(笑)。――依頼者はどうしたんですか?小沢 何もひるまずに、「いや狙われてるんです、間違いなく」と。でも結局、それで話は終わってしまいましたね。 あと印象深かったのは、「お月さまに追いかけられているから、証明してほしい」という依頼もありました。依頼者はかなりお年を召された女性でしたが、家族に相談しても信用してもらえないと。事実を証明するために、自分が月に追われているところを映像に収めてほしいというのです。後日、月夜に待ち合わせて、歩いている彼女と月が1つの画角に収まるように撮影したことがあります。――ちなみにそのときのお値段は……?小沢 3日間で80万くらいだったと記憶しています。あ、これらの変な依頼の数々はすべて、僕がまだ会社勤めの探偵だった頃の話ですよ。今は独立して仕事を選べるので、絶対にやりません。(笑)一番多いトラブルは「お金」――それだけ高額だと、依頼者とトラブルが起きることも多いのでは?小沢 会社員時代は、料金に関するクレームが本当に多かったです。さきほども話に出たように、探偵が働いていなかったとしても、それが依頼者にバレることはまずない。 依頼者も何かしらのトラブルや心配事を抱えて依頼するわけですから、わざわざネットやSNSで探偵社を告発することもない。リピーターがつく商売でもないので、業者側はやったもん勝ちなんですよね。ちなみに独立してからは、依頼者とのトラブルは一度もありません。――探偵への依頼料を高いと思われますか?小沢 うーん、それはすごく難しい。日数や稼働人数にもよりますし。あと高いと思うかどうかは、依頼者によります。依頼者は自分の感情に対してお金を払っているというか、納得感を買っているようなところがあるので。 たとえば、今付き合っている恋人は独身だと言っているけど、どうも怪しいから調査してほしいという女性がいたとします。探偵に相談している時点で、実はもう彼女の中で答えは出ているんですよね。そのモヤモヤを解消するために、彼女はわざわざお金を払っているわけで、探偵側の働きぶりはそこまで重要じゃないことも多いんです。――なるほど。では、探偵という仕事でやりがいを感じる瞬間は?小沢 依頼者がその後の人生で幸せになることですね。たとえば僕が見つけた証拠のおかげで、離婚調停や裁判がうまくいったとか。そんな前向きな話を聞けたときはやりがいを感じます。 いくらこちらが証拠を見つけても、依頼者が不幸になることだってあります。大げさでなく、できることなら僕に依頼してくれた人たちすべてが幸せになってほしいですね。写真=山元茂樹/文藝春秋「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く(吉河 未布)
たとえば、下っ端の場合、毎日現場に行かされて、寝る時間もない。だから張り込み中についウトウトしちゃって、調査対象者の出入りを見逃す社員もいるんですよ。
にもかかわらず、依頼者には確認できないことにつけ込んで、「6時間張り込みましたが、出入りはありませんでした」と報告してお金を貰う……。そんな足元を見るようなビジネスは嫌だったし、それ以上に人の役に立っている実感がない。
僕の理想としていた探偵の仕事と、かけ離れた実態がありました。その上、派閥争いや先輩の圧力など、人間関係のわずらわしさにもウンザリ。そんなとき、同僚が一斉にやめるという事件が起きて、僕も独立を決めたわけです。
――ドラマのように「変装」することもあるのですか?
小沢 僕はあまりしないほうです。そこに長く留まっても怪しまれないように、風景に溶け込むことが肝心だと思っているので。オフィス街ではスーツを着るとか、お祭りの時には浴衣を着るとか、その程度です。
――時には身の危険を感じることも?小沢 もちろん探偵の仕事に危険はつきものです。調査対象者が立ち寄った先が、偶然、暴力団本部の真横の建物だったこともありました。その近辺で張り込むわけですが、暴力団の構成員らしき人もこちらを見張っているわけです。いや、そっちに用事があるわけじゃないのに(笑)。 ほかにも筋骨隆々のアメリカ軍人に囲まれたり、雪が降りしきる中、何時間も外で張り込みを続けたりなど過酷な状況はいくつもありました。 でも、本当に怖いのは対象にこちらの存在がバレてしまうこと。会社員時代の同僚は見つかってボコボコにされたこともありますし、中には調査中、行方不明になった人もいます。その人はどこかに埋められてしまった……というウワサですね。探偵社に届く「ヤバい依頼」の数々――これまで変わった依頼はありましたか?小沢 変わった依頼はたくさんありましたよ。たとえば「謎の組織が某テレビ局を狙っているから、怪しいやつがいないか周辺の撮影をしてきてほしい」という依頼。複数人で何十時間も張り込みましたが、怪しいやつの基準もあいまいですし、結局「いませんでした」と報告して終わりです。 ほかにもテロリストに狙われていると主張する依頼者にも会いました。暗殺者がレーザーポインター付きの銃で自分を四六時中狙っていると。僕は「それは大変ですね」と話を聞いていましたが、同僚が興味本位で「でも、額にレーザーポインターが当てられているって、なんでわかるんですか?」と聞いてしまって。いやいや、それを言っちゃ元も子もないだろと(笑)。――依頼者はどうしたんですか?小沢 何もひるまずに、「いや狙われてるんです、間違いなく」と。でも結局、それで話は終わってしまいましたね。 あと印象深かったのは、「お月さまに追いかけられているから、証明してほしい」という依頼もありました。依頼者はかなりお年を召された女性でしたが、家族に相談しても信用してもらえないと。事実を証明するために、自分が月に追われているところを映像に収めてほしいというのです。後日、月夜に待ち合わせて、歩いている彼女と月が1つの画角に収まるように撮影したことがあります。――ちなみにそのときのお値段は……?小沢 3日間で80万くらいだったと記憶しています。あ、これらの変な依頼の数々はすべて、僕がまだ会社勤めの探偵だった頃の話ですよ。今は独立して仕事を選べるので、絶対にやりません。(笑)一番多いトラブルは「お金」――それだけ高額だと、依頼者とトラブルが起きることも多いのでは?小沢 会社員時代は、料金に関するクレームが本当に多かったです。さきほども話に出たように、探偵が働いていなかったとしても、それが依頼者にバレることはまずない。 依頼者も何かしらのトラブルや心配事を抱えて依頼するわけですから、わざわざネットやSNSで探偵社を告発することもない。リピーターがつく商売でもないので、業者側はやったもん勝ちなんですよね。ちなみに独立してからは、依頼者とのトラブルは一度もありません。――探偵への依頼料を高いと思われますか?小沢 うーん、それはすごく難しい。日数や稼働人数にもよりますし。あと高いと思うかどうかは、依頼者によります。依頼者は自分の感情に対してお金を払っているというか、納得感を買っているようなところがあるので。 たとえば、今付き合っている恋人は独身だと言っているけど、どうも怪しいから調査してほしいという女性がいたとします。探偵に相談している時点で、実はもう彼女の中で答えは出ているんですよね。そのモヤモヤを解消するために、彼女はわざわざお金を払っているわけで、探偵側の働きぶりはそこまで重要じゃないことも多いんです。――なるほど。では、探偵という仕事でやりがいを感じる瞬間は?小沢 依頼者がその後の人生で幸せになることですね。たとえば僕が見つけた証拠のおかげで、離婚調停や裁判がうまくいったとか。そんな前向きな話を聞けたときはやりがいを感じます。 いくらこちらが証拠を見つけても、依頼者が不幸になることだってあります。大げさでなく、できることなら僕に依頼してくれた人たちすべてが幸せになってほしいですね。写真=山元茂樹/文藝春秋「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く(吉河 未布)
――時には身の危険を感じることも?
小沢 もちろん探偵の仕事に危険はつきものです。調査対象者が立ち寄った先が、偶然、暴力団本部の真横の建物だったこともありました。その近辺で張り込むわけですが、暴力団の構成員らしき人もこちらを見張っているわけです。いや、そっちに用事があるわけじゃないのに(笑)。
ほかにも筋骨隆々のアメリカ軍人に囲まれたり、雪が降りしきる中、何時間も外で張り込みを続けたりなど過酷な状況はいくつもありました。
でも、本当に怖いのは対象にこちらの存在がバレてしまうこと。会社員時代の同僚は見つかってボコボコにされたこともありますし、中には調査中、行方不明になった人もいます。その人はどこかに埋められてしまった……というウワサですね。
――これまで変わった依頼はありましたか?
小沢 変わった依頼はたくさんありましたよ。たとえば「謎の組織が某テレビ局を狙っているから、怪しいやつがいないか周辺の撮影をしてきてほしい」という依頼。複数人で何十時間も張り込みましたが、怪しいやつの基準もあいまいですし、結局「いませんでした」と報告して終わりです。
ほかにもテロリストに狙われていると主張する依頼者にも会いました。暗殺者がレーザーポインター付きの銃で自分を四六時中狙っていると。僕は「それは大変ですね」と話を聞いていましたが、同僚が興味本位で「でも、額にレーザーポインターが当てられているって、なんでわかるんですか?」と聞いてしまって。いやいや、それを言っちゃ元も子もないだろと(笑)。
――依頼者はどうしたんですか?
小沢 何もひるまずに、「いや狙われてるんです、間違いなく」と。でも結局、それで話は終わってしまいましたね。
あと印象深かったのは、「お月さまに追いかけられているから、証明してほしい」という依頼もありました。依頼者はかなりお年を召された女性でしたが、家族に相談しても信用してもらえないと。事実を証明するために、自分が月に追われているところを映像に収めてほしいというのです。後日、月夜に待ち合わせて、歩いている彼女と月が1つの画角に収まるように撮影したことがあります。
――ちなみにそのときのお値段は……?
小沢 3日間で80万くらいだったと記憶しています。あ、これらの変な依頼の数々はすべて、僕がまだ会社勤めの探偵だった頃の話ですよ。今は独立して仕事を選べるので、絶対にやりません。(笑)
――それだけ高額だと、依頼者とトラブルが起きることも多いのでは?
小沢 会社員時代は、料金に関するクレームが本当に多かったです。さきほども話に出たように、探偵が働いていなかったとしても、それが依頼者にバレることはまずない。
依頼者も何かしらのトラブルや心配事を抱えて依頼するわけですから、わざわざネットやSNSで探偵社を告発することもない。リピーターがつく商売でもないので、業者側はやったもん勝ちなんですよね。ちなみに独立してからは、依頼者とのトラブルは一度もありません。
――探偵への依頼料を高いと思われますか?
小沢 うーん、それはすごく難しい。日数や稼働人数にもよりますし。あと高いと思うかどうかは、依頼者によります。依頼者は自分の感情に対してお金を払っているというか、納得感を買っているようなところがあるので。
たとえば、今付き合っている恋人は独身だと言っているけど、どうも怪しいから調査してほしいという女性がいたとします。探偵に相談している時点で、実はもう彼女の中で答えは出ているんですよね。そのモヤモヤを解消するために、彼女はわざわざお金を払っているわけで、探偵側の働きぶりはそこまで重要じゃないことも多いんです。
――なるほど。では、探偵という仕事でやりがいを感じる瞬間は?小沢 依頼者がその後の人生で幸せになることですね。たとえば僕が見つけた証拠のおかげで、離婚調停や裁判がうまくいったとか。そんな前向きな話を聞けたときはやりがいを感じます。 いくらこちらが証拠を見つけても、依頼者が不幸になることだってあります。大げさでなく、できることなら僕に依頼してくれた人たちすべてが幸せになってほしいですね。写真=山元茂樹/文藝春秋「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く(吉河 未布)
――なるほど。では、探偵という仕事でやりがいを感じる瞬間は?
小沢 依頼者がその後の人生で幸せになることですね。たとえば僕が見つけた証拠のおかげで、離婚調停や裁判がうまくいったとか。そんな前向きな話を聞けたときはやりがいを感じます。
いくらこちらが証拠を見つけても、依頼者が不幸になることだってあります。大げさでなく、できることなら僕に依頼してくれた人たちすべてが幸せになってほしいですね。
写真=山元茂樹/文藝春秋「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く(吉河 未布)
「孫がパパ活をやっているかもしれない…」探偵に“子どもの調査”を依頼する保護者が増えているワケ へ続く
(吉河 未布)