「同じ痛い思いをして死んでほしい…」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命 被害者家族が語った悲痛な思い【裁判ルポ後編】

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2022年7月、名古屋市中川区で赤信号を無視して交差点に進入し、17歳の男子専門学校生をはねて死亡させたとして、危険運転致死の罪に問われた特定少年(事故当時18)の裁判ルポを前・後編に分けて掲載する。(前編・後編のうちの後編) 【写真を見る】「同じ痛い思いをして死んでほしい…」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命 被害者家族が語った悲痛な思い【裁判ルポ後編】 【前編】「ライトを消せば警察に見つかりづらい」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命“危険運転致死”に問われた“特定少年”

コンビニへ向かい帰ってこなかった息子 17歳の男子専門学校生は、小腹が空いたので何かを買おうとコンビニに向かう途中で事故に遭い、帰らぬ人となった。 家族にとって待望の男の子であり、2人の姉がいる3人きょうだいの末っ子で家族みんなにかわいがられたこと。「お酒を飲み過ぎないでね」と母親を心配してくれる優しい子で、食器洗いや洗濯物を手伝ったり、スーパーに買い物に行くと買い物袋を持ってくれたこと。地元の友達が多く、よく家に友達が遊びに来ていたこと。からあげ、フライドポテト、ウインナーが好きなこと。法廷で明かされたのは、穏やかで明るい家族の日常だった。 家族の日々は、事故によって一変した。事故の一報を受けて病院に駆けつけた両親に、医師は「手の施しようがなかった」と告げた。対面した時には顔は傷だらけ、全身は包帯だらけの変わり果てた姿で、家に連れて帰ってからは何度も「ごめんね、痛かったね」と声をかけて泣き続けた。 (被害者の母親の調書より)「悪い夢を見ているのではないか、息子は旅行にでも行っていて、いつかふらっと帰って来るのではと思ってしまいます。私は絶対に許せません。できれば息子と同じ痛い思いをして死んでほしい」(被害者の父親の調書より)「信号を無視して来るなんて、誰が予想できるでしょうか?もう息子は戻ってきません。夢に向かっていた息子を思うと、無念で、無念でなりません。できうる限り厳しい処罰をしてほしい。今後一切運転できないようにするよう願います」 被害者の母が被告の母に、涙ながらに質問 6月30日の裁判で行われた被告の男の母親への証人尋問。被害者の母親が涙ながらにこう質問した。(被害者の母親)「同じ母親として聞きたい。もし、自分の息子が同じ被害に遭ったら…と想像したことはありますか?もししたことがあるのなら、どう思いますか?」(男の母親)「犯人のことは許せないと思います」 一方、被害者の父親は、被告の男に静かに問いかけた。(被害者の父親)「息子の誕生日はわかりますか?」(男)「7月1日です」(被害者の父親)「明日です。明日、息子のいない誕生日会をしなきゃいけない気持ちが分かりますか?」(男)「…」男はその質問に何も答えなかった。 「今後絶対に運転しないと誓いますか?」と問われた男は… 被害者の父親は、男にさらに質問を投げかけた。(被害者の父親)「今後、絶対に運転しないと誓いますか?」(男)「してはいけないことは分かっています」(被害者の父親)「しないという決意はないのですか?」(男)「まだしっかりと決意はできていないと思います」 父親だけでなく、裁判員からも質問が重ねられた。(裁判員)「免許を取らないと決意できないのはなぜですか?」(男)「心のどこかで運転したいという気持ちが少し残っているのだと思います」 被害者の2人の姉の陳述書も法廷で読み上げられた。(被害者の姉の意見陳述書より)「人の命を乗せた運転とは思えない。意図的に信号無視をするためにライトを消した。殺人に匹敵するひどい行い。生涯免許を取得せず、運転をやめてほしい」「悲しみと怒りは一生なくなりません。弟の写真をふと見ると、いつも涙が出そうになる。何も悪くない弟の人生は終わってしまったのに、あなたが刑務所を出て、普通に生きていくのが許せない」 「最後に述べておきたいことはありますか?」と裁判長に尋ねられ、男はこう語り出した。「私は今回、今日まで過ごしてきた中で当たり前がいかに幸せかを感じました。被害者は同年代の専門学校生。友達との会話や授業での実習など、当たり前にやってくる日々を奪ってしまった。夢、命、経験、そしてご遺族にとっての大切な息子、弟、幸せな日々を奪ってしまった。一生癒えることのない深い傷と悲しみを与えた。明日は我が身と分かっていながら、どこか他人事に思っていた。自分は大丈夫との過信からルールを守らなかったことで、最悪な結果を招いてしまった。償いはまだ分からないが、ご遺族が何を望んでいるか考え、誠意をもって謝罪する。事故がない世の中になればきっとご遺族も笑顔を取り戻せる。そんな日が来ることを願っています」遺族の切なる願いとは裏腹に、男から「二度と運転しない」という言葉が出てくることはなかった。 「危険運転致死罪」にあたるか 判決は… 迎えた7月12日の判決公判。名古屋地裁の大村陽一裁判長は「信号が赤だと認識していたのは明らか」だとして危険運転致死の罪を認定。その上で、「運転は無謀かつ危険なものであることはいうまでもない。交通法規を軽視する姿勢が顕著であり、このような運転態度によって起こるべくして起きた事故といえ、厳しい非難に値する」と指摘し、懲役9年(求刑:懲役11年)の判決を言い渡した。 判決後、被害者の両親は「まれに求刑を超える判決が出ると聞いていて、その“まれ”を期待していた。まさかの9年…短すぎる」、「特定少年は年齢的には成人であるはずなのに、結局は“少年”に守られている。息子には謝るしかない」と苦しい胸の内を明かした。男は判決から12日後の7月24日に控訴した。 CBCテレビでは少年法の理念を踏まえ、社会的影響等を鑑みて男を匿名としています。
2022年7月、名古屋市中川区で赤信号を無視して交差点に進入し、17歳の男子専門学校生をはねて死亡させたとして、危険運転致死の罪に問われた特定少年(事故当時18)の裁判ルポを前・後編に分けて掲載する。(前編・後編のうちの後編)
【写真を見る】「同じ痛い思いをして死んでほしい…」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命 被害者家族が語った悲痛な思い【裁判ルポ後編】 【前編】「ライトを消せば警察に見つかりづらい」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命“危険運転致死”に問われた“特定少年”

コンビニへ向かい帰ってこなかった息子 17歳の男子専門学校生は、小腹が空いたので何かを買おうとコンビニに向かう途中で事故に遭い、帰らぬ人となった。 家族にとって待望の男の子であり、2人の姉がいる3人きょうだいの末っ子で家族みんなにかわいがられたこと。「お酒を飲み過ぎないでね」と母親を心配してくれる優しい子で、食器洗いや洗濯物を手伝ったり、スーパーに買い物に行くと買い物袋を持ってくれたこと。地元の友達が多く、よく家に友達が遊びに来ていたこと。からあげ、フライドポテト、ウインナーが好きなこと。法廷で明かされたのは、穏やかで明るい家族の日常だった。 家族の日々は、事故によって一変した。事故の一報を受けて病院に駆けつけた両親に、医師は「手の施しようがなかった」と告げた。対面した時には顔は傷だらけ、全身は包帯だらけの変わり果てた姿で、家に連れて帰ってからは何度も「ごめんね、痛かったね」と声をかけて泣き続けた。 (被害者の母親の調書より)「悪い夢を見ているのではないか、息子は旅行にでも行っていて、いつかふらっと帰って来るのではと思ってしまいます。私は絶対に許せません。できれば息子と同じ痛い思いをして死んでほしい」(被害者の父親の調書より)「信号を無視して来るなんて、誰が予想できるでしょうか?もう息子は戻ってきません。夢に向かっていた息子を思うと、無念で、無念でなりません。できうる限り厳しい処罰をしてほしい。今後一切運転できないようにするよう願います」 被害者の母が被告の母に、涙ながらに質問 6月30日の裁判で行われた被告の男の母親への証人尋問。被害者の母親が涙ながらにこう質問した。(被害者の母親)「同じ母親として聞きたい。もし、自分の息子が同じ被害に遭ったら…と想像したことはありますか?もししたことがあるのなら、どう思いますか?」(男の母親)「犯人のことは許せないと思います」 一方、被害者の父親は、被告の男に静かに問いかけた。(被害者の父親)「息子の誕生日はわかりますか?」(男)「7月1日です」(被害者の父親)「明日です。明日、息子のいない誕生日会をしなきゃいけない気持ちが分かりますか?」(男)「…」男はその質問に何も答えなかった。 「今後絶対に運転しないと誓いますか?」と問われた男は… 被害者の父親は、男にさらに質問を投げかけた。(被害者の父親)「今後、絶対に運転しないと誓いますか?」(男)「してはいけないことは分かっています」(被害者の父親)「しないという決意はないのですか?」(男)「まだしっかりと決意はできていないと思います」 父親だけでなく、裁判員からも質問が重ねられた。(裁判員)「免許を取らないと決意できないのはなぜですか?」(男)「心のどこかで運転したいという気持ちが少し残っているのだと思います」 被害者の2人の姉の陳述書も法廷で読み上げられた。(被害者の姉の意見陳述書より)「人の命を乗せた運転とは思えない。意図的に信号無視をするためにライトを消した。殺人に匹敵するひどい行い。生涯免許を取得せず、運転をやめてほしい」「悲しみと怒りは一生なくなりません。弟の写真をふと見ると、いつも涙が出そうになる。何も悪くない弟の人生は終わってしまったのに、あなたが刑務所を出て、普通に生きていくのが許せない」 「最後に述べておきたいことはありますか?」と裁判長に尋ねられ、男はこう語り出した。「私は今回、今日まで過ごしてきた中で当たり前がいかに幸せかを感じました。被害者は同年代の専門学校生。友達との会話や授業での実習など、当たり前にやってくる日々を奪ってしまった。夢、命、経験、そしてご遺族にとっての大切な息子、弟、幸せな日々を奪ってしまった。一生癒えることのない深い傷と悲しみを与えた。明日は我が身と分かっていながら、どこか他人事に思っていた。自分は大丈夫との過信からルールを守らなかったことで、最悪な結果を招いてしまった。償いはまだ分からないが、ご遺族が何を望んでいるか考え、誠意をもって謝罪する。事故がない世の中になればきっとご遺族も笑顔を取り戻せる。そんな日が来ることを願っています」遺族の切なる願いとは裏腹に、男から「二度と運転しない」という言葉が出てくることはなかった。 「危険運転致死罪」にあたるか 判決は… 迎えた7月12日の判決公判。名古屋地裁の大村陽一裁判長は「信号が赤だと認識していたのは明らか」だとして危険運転致死の罪を認定。その上で、「運転は無謀かつ危険なものであることはいうまでもない。交通法規を軽視する姿勢が顕著であり、このような運転態度によって起こるべくして起きた事故といえ、厳しい非難に値する」と指摘し、懲役9年(求刑:懲役11年)の判決を言い渡した。 判決後、被害者の両親は「まれに求刑を超える判決が出ると聞いていて、その“まれ”を期待していた。まさかの9年…短すぎる」、「特定少年は年齢的には成人であるはずなのに、結局は“少年”に守られている。息子には謝るしかない」と苦しい胸の内を明かした。男は判決から12日後の7月24日に控訴した。 CBCテレビでは少年法の理念を踏まえ、社会的影響等を鑑みて男を匿名としています。
【前編】「ライトを消せば警察に見つかりづらい」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命“危険運転致死”に問われた“特定少年”
17歳の男子専門学校生は、小腹が空いたので何かを買おうとコンビニに向かう途中で事故に遭い、帰らぬ人となった。
家族にとって待望の男の子であり、2人の姉がいる3人きょうだいの末っ子で家族みんなにかわいがられたこと。
「お酒を飲み過ぎないでね」と母親を心配してくれる優しい子で、食器洗いや洗濯物を手伝ったり、スーパーに買い物に行くと買い物袋を持ってくれたこと。
地元の友達が多く、よく家に友達が遊びに来ていたこと。
からあげ、フライドポテト、ウインナーが好きなこと。
法廷で明かされたのは、穏やかで明るい家族の日常だった。
家族の日々は、事故によって一変した。
事故の一報を受けて病院に駆けつけた両親に、医師は「手の施しようがなかった」と告げた。対面した時には顔は傷だらけ、全身は包帯だらけの変わり果てた姿で、家に連れて帰ってからは何度も「ごめんね、痛かったね」と声をかけて泣き続けた。
(被害者の母親の調書より)「悪い夢を見ているのではないか、息子は旅行にでも行っていて、いつかふらっと帰って来るのではと思ってしまいます。私は絶対に許せません。できれば息子と同じ痛い思いをして死んでほしい」
(被害者の父親の調書より)「信号を無視して来るなんて、誰が予想できるでしょうか?もう息子は戻ってきません。夢に向かっていた息子を思うと、無念で、無念でなりません。できうる限り厳しい処罰をしてほしい。今後一切運転できないようにするよう願います」
6月30日の裁判で行われた被告の男の母親への証人尋問。被害者の母親が涙ながらにこう質問した。
(被害者の母親)「同じ母親として聞きたい。もし、自分の息子が同じ被害に遭ったら…と想像したことはありますか?もししたことがあるのなら、どう思いますか?」(男の母親)「犯人のことは許せないと思います」
一方、被害者の父親は、被告の男に静かに問いかけた。
(被害者の父親)「息子の誕生日はわかりますか?」(男)「7月1日です」
(被害者の父親)「明日です。明日、息子のいない誕生日会をしなきゃいけない気持ちが分かりますか?」(男)「…」
男はその質問に何も答えなかった。
被害者の父親は、男にさらに質問を投げかけた。
(被害者の父親)「今後、絶対に運転しないと誓いますか?」(男)「してはいけないことは分かっています」
(被害者の父親)「しないという決意はないのですか?」(男)「まだしっかりと決意はできていないと思います」
父親だけでなく、裁判員からも質問が重ねられた。
(裁判員)「免許を取らないと決意できないのはなぜですか?」(男)「心のどこかで運転したいという気持ちが少し残っているのだと思います」
被害者の2人の姉の陳述書も法廷で読み上げられた。
(被害者の姉の意見陳述書より)「人の命を乗せた運転とは思えない。意図的に信号無視をするためにライトを消した。殺人に匹敵するひどい行い。生涯免許を取得せず、運転をやめてほしい」
「悲しみと怒りは一生なくなりません。弟の写真をふと見ると、いつも涙が出そうになる。何も悪くない弟の人生は終わってしまったのに、あなたが刑務所を出て、普通に生きていくのが許せない」
「最後に述べておきたいことはありますか?」と裁判長に尋ねられ、男はこう語り出した。
「私は今回、今日まで過ごしてきた中で当たり前がいかに幸せかを感じました。
被害者は同年代の専門学校生。友達との会話や授業での実習など、当たり前にやってくる日々を奪ってしまった。夢、命、経験、そしてご遺族にとっての大切な息子、弟、幸せな日々を奪ってしまった。一生癒えることのない深い傷と悲しみを与えた。
明日は我が身と分かっていながら、どこか他人事に思っていた。自分は大丈夫との過信からルールを守らなかったことで、最悪な結果を招いてしまった。償いはまだ分からないが、ご遺族が何を望んでいるか考え、誠意をもって謝罪する。
事故がない世の中になればきっとご遺族も笑顔を取り戻せる。そんな日が来ることを願っています」
遺族の切なる願いとは裏腹に、男から「二度と運転しない」という言葉が出てくることはなかった。
迎えた7月12日の判決公判。
名古屋地裁の大村陽一裁判長は「信号が赤だと認識していたのは明らか」だとして危険運転致死の罪を認定。
その上で、「運転は無謀かつ危険なものであることはいうまでもない。交通法規を軽視する姿勢が顕著であり、このような運転態度によって起こるべくして起きた事故といえ、厳しい非難に値する」と指摘し、懲役9年(求刑:懲役11年)の判決を言い渡した。
判決後、被害者の両親は「まれに求刑を超える判決が出ると聞いていて、その“まれ”を期待していた。まさかの9年…短すぎる」、「特定少年は年齢的には成人であるはずなのに、結局は“少年”に守られている。息子には謝るしかない」と苦しい胸の内を明かした。
CBCテレビでは少年法の理念を踏まえ、社会的影響等を鑑みて男を匿名としています。

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