北海道や東北地方でクマによる人身被害が相次ぐ中、島根県内ではツキノワグマの目撃件数が昨年度の半数にとどまっていることが、県への取材で分かった。
今年はドングリなどの堅果類が豊作と予想され、餌を求めて人里におりる個体が減ったためだと県は分析している。それでも県猟友会は気を緩めず、クマの出没を想定した訓練を実施して備えている。(桂川景)
県が2022年に策定した管理計画によると、島根、広島、山口3県にまたがる西中国山地のツキノワグマの推定生息数(中央値)は1307頭。
県中山間地域研究センターは今年5~9月にかけて餌となる堅果類などの豊凶状況を調査し、9種類の樹木のうち、コナラやミズナラなど7種類を「豊作」と判定した。山林の餌資源が豊富なため、「人里への出没や被害発生は増加しない」と予想した。
現時点ではセンターの予測通りになっている。県によると今年度のツキノワグマの目撃件数は、10月末時点で676件(昨年同期比672件減)。昨年度の捕獲頭数は346頭だったが、今年度は60頭(10月末時点)にとどまっている。昨年度はけが人が1人(死者はゼロ)出たが、今年は死傷者ゼロという。
市街地でクマの出没が相次いでいることを受け、9月に改正鳥獣保護管理法が施行され、市街地で猟銃が発砲できる「緊急銃猟」が市町村判断で行えるようになった。
県内ではまだ実施例がないが、約2000人が所属する県猟友会は、緊急銃猟の際にはハンター3人以上が対応する方針を決めた。
県猟友会の細田信男会長(79)は、緊急銃猟について「住民の安全確保が懸念点だ」と話す。緊急銃猟は市街地が想定され、地面がアスファルトだと弾丸が跳ね返る危険性があるという。二次被害を防ぐためにも、水平方向ではなく上から地面との角度をつけて撃つなどの工夫が必要だという。
射撃の命中精度を上げるため、県猟友会は10月、広島県庄原市の射撃場でクマの駆除に対応した射撃訓練を実施した。益田や安来、松江市などのハンター10人が、50メートル先の標的を猟銃で射撃するなどした。
細田会長は「今年は目撃数は少ないが、来年以降は増加する可能性がある。いざという時に対応できるよう訓練を重ねたい」と話す。住民に対しては「むやみに山に入らない」「不要な柿の木は切るなどの対策を講じてほしい」などと注意を促している。